俺は勇者の付添人なだけなので、皆さんお構いなく 勇者が溺愛してくるんだが……

雨月 良夜

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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦

リュイの領地へ、モルンと子供は最強に可愛い

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あの令嬢たちの揉め事以降は、特に何事もなくパーティーは終わった。俺たち4人の依頼も無事に達成された。

アルカシファ様に依頼達成の報酬を直接貰ったときに、「ヒズミ君、学園に帰ったら縛られないように気をつけてね」と意味深なことを言われた。


縛られるって、俺が何か罰を与えられるのだろうか?
それとも、何かの暗号だろうか……。


「来てもらって早々、家業の手伝いをさせて悪かったな……」

「いや、貴族のパーティーとか初めて見たから新鮮だった」

そんな話をしてガヤガヤと騒ぎなら、緩やかな舗装された道を男4人を乗せた馬車は進む。今日はリュイの領地に赴く予定だ。数日間、リュイの実家で俺たちはお世話になる。


貴族令息たちがお忍びで出かけると言うこともあって、伯爵家の馬車は外装が質素にカモフラージュされていた。商人たちが使うような荷馬車にも見えるのに、内装はゆったりと贅沢に作られている。

クッション性が高い座席で移動時の振動が全くしない。俺たちが移動に使っている乗合馬車とは大違いだな。


「実家には今、兄と姉、双子の兄妹がいるから、結構騒がしいかも……」

リュイの隣に座っていたガゼットも、「あー……」と訳知り顔で唸っている。

なんでも、リュイのお兄さんが領地経営の手伝いをしていて、お姉さんは自分で事業を立ち上げて領地の財務を潤わせているらしい。

双子の弟と妹は、少し歳が離れているようで5歳だそうだ。


「絶対、ヒズミはリュイのお姉さんに気に入られると思うぞ」

ガゼットは、昔からの付き合いでリュイの家族のことも良く知っていた。リュイの家族に気に入られるのは喜ばしいことだけど、一体どういう意味だろうか?


時折カードゲームで遊んだり、ゆっくりと休憩をしつつ、2時間ほどで馬車はリュイの実家に到着した。
 

「おかえりなさいませ、リュイシル様」

使用人や執事たちがズラリと並び挨拶をする中、にこやかな笑みを称えた男女が立っている。緑色の垂れ目がちな目をした中年男性は、面差しがリュイによく似ている。

その隣に立つ女性は、見るからに明るく積極的そうだった。


「……リュイシル、おかえりなさい。ガゼット君は久しぶりだね。……ヒズミ君と、ソレイユ君、初めまして。我がツァールトハイト家にようこそ」

リュイに良く似た中年男性は、リュイのお父さんだった。俺とソルが交互に挨拶を述べると、伯爵はのんびりと微笑んだ。その隣に立っていたリュイのお母さんである伯爵夫人は、興奮気味に話した。


「初めまして!リュイシルがいつもお世話になっています。リュイシルと仲良くしてくれて、本当にありがとう!まあ、なんて素敵なのかしら!」

大人しそうな伯爵とは打って変わって、伯爵夫人は貴族女性では珍しいくらい元気に、そして華やかに笑った。まあ、まあ!と嬉しそうに話す姿は明るく、可愛らしいお母さんだな。


「母上、興奮を抑えて……」

茶色の髪をした20代前半の青年が伯爵夫人を宥めつつ、俺たちに挨拶をしてくれた。リュイのお兄さんは、伯爵に似て垂れ目で穏やかそうな人だった。

その足元には、大きな目をパチパチと瞬きさせながら、俺とソルのことをずっと見ている女の子と男の子がいる。リュイのお兄さんに背中を押され、小さな男の子と女の子がはっとしたように口を開いた。


「はじめまして!ラフレーズです!」

「はじめまして。ロランジュです……。あの……」

焦げ茶色の髪にピンク色の瞳をあした女の子は、元気よく挨拶をして可愛らしいカーテシーを見せてくれた。同じ髪色で、瞳がオレンジ色のロランジュは、挨拶をしたあとに俺の右肩をじっと見て、手をもじもじしている。


意を決したように顔を上げると、ロランジュは俺の肩に乗っているモルンを指さした。


「……そのかわいい生きものは、なんって言うおなまえですか?」


俺が右肩に乗っているモルンを見遣ると、キョトンっとモルンが首を傾げた。そっとモルンに手を差し伸べて、手の平に移動させる。俺は背の低い2人に合わせてしゃがむと、モルンの姿が見やすいようにそっと手を押し出した。


「この子は、お手伝いモモンガのモルンと言います」

手の平に乗ったモルンが、クリっとした大きな目をぱちくりとさせて、ロランジュとラフレーズを見ている。ロランジュはモルンを目の前にして、目をキラキラとさせた。

大きな目で遠慮がちに俺を見上げる。


「あの、えっと……。さわってもいい?」

「モルンが嫌がらなければ、大丈夫。優しく触ってあげてください」


ロランジュは俺の言葉にコクンっと頷くと、そうっと小さな指先をモルンへと伸ばした。モルンはすんすと鼻を忙しなく動かして匂いを嗅ぐと、頭を自ら指の下に下げて撫でさせてやる。

モルンは小さい子供やお年寄りには優しいんだよな。


ロランジュはオレンジ色の瞳を大きく見開いて驚くと、おどおどしていた表情を嬉しそうに崩した。


「っ!!ふわふわ、かわいいねぇ」

モルンの頬を嬉しそうに優しく撫でるロランジュは、まさに天使だ。小さい子とモフモフのふれあいって、どうしてこうも幸せなのだろう。ああ、可愛い。


「木の実が大好きだから、1つあげてみますか?」

俺はマジックバックから、カボチャの種を1粒取り出すとロランジュの小さな手にそっと置いた。


「……いいの?たべてくれるかな……」

カボチャ種をちょこんっと指で摘むと、ロランジュはモルンの目の前に恐る恐る差し出した。モルンは小さな手でカボチャの種を受け取ると、両手で掴んでカジカジと食べ始める。


「わああ!!たべてくれた!」

嬉しさでふくふくのほっぺに満面の笑みを浮かべて、俺に笑顔を向けるロランジュに、俺も微笑み返す。なんだ、この可愛い生き物は。


「ずるい!ラフレもさわる!!」

元気いっぱいのラフレーズも近寄って来るが、リュイのお兄さんに「もう少し興奮が治まってからね」と背中をぽんぽんしながら抱き留めている。元気いっぱいのようだ。

そんな微笑ましい光景を見ていると、リュイがそっと俺に耳打ちをした。


「ありがとう、ヒズミとモルン。ロランジュは動物が大好きだけど、凄く人見知りなんだ。ヒズミに話しかけているのに、びっくりしちゃった」

どうやら可愛いモルンのおかげで、ロランジュの人見知りを克服させたようだ。モルンは本当に偉大な可愛さだな。しばらくロランジュとモルンの戯れを楽しんだ。


伯爵いわく、リュイのお姉さんはお仕事で夕方戻って来るらしい。「帰ってくると騒がしいかもしれませんが、ご容赦ください」と伯爵に言われた。

リュイの家系は、女性が元気な人が多いようだ。


俺たちは客室に案内され、4人で今後の夏休みの計画を話し合うことにした。談話室でソファに座って、リュイがお茶を一口飲んでから話始める。


「植物園とダンジョンに行くんだよね?植物園はすぐに行けるけど、ダンジョンに行くなら準備が必要かな」

リュイの領地に来た理由は、2つ。

1つは植物園へのお出かけである。俺は内心めちゃくちゃ楽しみにしている。この世界のモフモフたちに会いたい。思いっきり愛でたい。

そして、もう一つはリュイとガゼットの領地近くにあるダンジョンの様子見だ。


「そうだな。この街の冒険者ギルドで情報を集めたい。あとは、王都よりもここは武器の質が高い。武器屋に行って装備を新しくするか、強化したほうが良いと思う」

広大な自然を有するリュイの領地には、資源が豊富だ。火山も近いことがあって鉱物が取れるし、綺麗な湧き水で染め物もできると言う。産業に農業、自然保護のバランスも良く、伯爵という階級の領地にしては潤沢な場所らしい。

そんな材料が豊富な場所には、自然と鍛冶屋が集まるようで、ここは質の良い武器が揃いやすいのだ。


「そしたら、先に武器屋に行ったほうが良いな。武器を強化してもらっている間に、植物園に行くとちょうど良くないか?そんで、ダンジョンに皆で行くと」

ガゼットが効率的な計画を練り上げてくれて、俺たち全員はその計画に頷いた。

ここのダンジョンは、火山地帯にある。普通の装備ではとてもじゃないが潜れないのだ。全てを万全に整えてから攻略に挑んだほうがいい。


「高レベルの冒険者を家で雇っているから、その人達に一緒に着いてきてもらおうよ」

なんでも、ダンジョンに定期的に潜ってもらうため、伯爵家自らが冒険者たちに依頼を出しているらしい。その中でも優秀な冒険者には、指名依頼と言って名指しで依頼を出しているのだそうだ。

「その冒険者との連携も、事前にしておくべきだな。全員で顔合わせをしておこう」

おおよその計画が決まったところで、夕食の時間がやってきた。



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