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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

幻想の試練、守るための力とは(ソレイユside)

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(ソレイユside) 



オレによく似た黄金の瞳の父が、オレを指し示した。


『あともう少しで、応援が来た。オレたちは生き残れたはずなんだ。それなのに、お前が魔力を暴走させたせいで、オレたちは死んだ』

オレに慈愛に満ちた微笑を浮かべたはずの母は、冷たく言い放った。


『ソレイユ、貴方が私たちを殺したのよ』

「っ?!!」

父と母の亡霊の言葉に、違うとは言い切れなかった。幻想遺跡が見せたのは、オレの過去であり真実。俺が魔力暴走をしなければ、確かに両親は生き残っていたかもしれない。


『お前のせいだ。お前が、家族を殺した』

『貴方には、愛しい人を守る資格なんてないのよ。だって、家族と言う大切な存在を、その手にかけているのだから。』


両親の亡霊たちの言葉が、淡々と続く。


『あのヒズミという美しい青年を、私達と同じように自分の手で殺すことになるわ』

「違う!!」

オレの言葉は、虚しく漆黒の闇に響く。否定の言葉が空回りしている。完全に否定したいのに、心の隅で愛しい人を手にかける可能性が捨てきれない、自分がいる。

焦りと不安が、押し寄せる。呼吸が浅くなる。変な汗が全身をびっしりと覆う。


自分自身でも知らなかった、強大すぎる力。
守るべきものさえも巻き添えにするほどの魔力を、どうやって制御しろというのか?


自分の中の膨大な魔力で、ヒズミを手にかけてしまうのか。


嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。
ヒズミの一番近くで、守ると自分に誓った。揺るがない強さを持って、誰よりもヒズミの信頼を勝ち取って、心を尽くして……。


目の前にいる父と母の姿が、怖くて見れない。ドクドクと心臓が嫌な音を忙しなく立てた。身体が鉛のように重くなって、漆黒のぬかるみに足が沈んでいく。

淀んだ黒色が、インクが水を濁らせていくように心を侵食する。


不安が全てを支配しようとして、全身が震え出した瞬間、オレの身体が、ふんわりと温かな何かに包まれた。


『騙されるな、ソレイユ。お前のことを愛していた両親が、お前を責めることを言うはずがない。……お前はその力で、女の子の命を守れたじゃないか!』


白色の優しい人の影が、オレを正面から抱きしめていた。父の声とも、母の声とも違う。優しく、それでいて力強い芯のある青年の声だった。茶色の髪は、オレに似て少し癖がある。


『最後に両親はこう言っただろう?強い男になれって』

見たこともない服を着た、見たこともない青年だ。

でも、なぜだろう。とてもなじみ深くて、ずっと一緒にいるような心地よさを感じる。


『何かを守るためには、守るもの以上に強い力が必要なんだ。……あのヒズミを守るのに、並大抵の力じゃダメなことくらい、分かるだろう?』


少しだけ身体の距離を離した青年は、茶色の瞳をまっすぐとオレに向けて、オレのみぞおちに手を添えた。そこは、魔力が生成されると言われている、魔力だまりがある場所。

青年が手を置いた瞬間、どくんっと身体全体が脈打った。魔力が反応して密かに動き出す。


『お前のこの力は、人を傷つけるためのものじゃない。オレは、お前みたいな力が無かった。自分が弱かったせいで、ヒズミを守れなかった……。頼む。オレはもう、ヒズミを直接守れないから。』


茶色の瞳を、青年は悲しそうに伏せた。声には、後悔の感情が滲んでいる。


「……でも、もしもオレの力がヒズミを__  」


__殺してしまったら?


最後まで紡ぐことさえ、怖くなった言葉の先を、その青年は分かったようだった。青年はオレの肩を両手で掴んだ。茶色の瞳が、オレを射貫く。


『そんなこと、オレがさせない。……もしも、お前がヒズミを傷つけそうになったら、オレがお前を止めてやる』


お前が力を制御出来ないなら、オレがその力を抑え込んでやる。オレとお前は一心同体なのだから。

青年はオレの両肩に置いた手に、力を込めた。


『オレとお前なら、脅威になる力を堅固な刃に変えられる』


オレは、長剣を構えた。両親の亡霊に向かって、切っ先を向ける。剣を握りしめた手に、青年の手が重なる。


オレに切っ先を向けられたとしても、何も反応がない。虚ろな目がオレを見て、暗示をかけるように、父と母の亡霊は声を揃えて言葉を紡いた。


『『お前は何もできない』』


もう、亡霊たちの声はオレには届かない。ぼんやりと輪郭も定かではない両親を、ひたと見据えた。


オレのせいで、助からなかった父さんと、母さん。
ごめんな。
罪なら、死んだあとに天界でちゃんと償うから。

今は、まだ、そっちには行けない。


両手に一回り大きな、温かな手が重なっている。左隣にいる青年に目を向けると、青年は力強く頷いた。青年の感情と、オレの感情が混ざり合う。

温かい熱が、全身で己を鼓舞する熱風に変わる。みぞおちから一気に魔力が広がって行く。血管が広がって、血に滾った魔力が流れ込む。


『オレたちは、どんな事象にも、どんな者にも決して屈しない。辛い過去は前に進む糧になる。……恐れるな、秘められし自分の強さを。……躊躇うな__  』

青年はオレと一心同体。青年の次に紡ぐ言葉も、オレは自然と分かった。青年と共に、気迫を込めて全身で咆哮をあげる。


「『__己の力を解放しろっ!!』!!」


長剣が眩いばかりに黄金に輝き、太陽の光を集めた強い閃光が放たれる。両親の亡霊は、短い断末魔を上げながら閃光に消えた。


漆黒の闇に、亀裂が走る。金色の線が蜘蛛の巣のヒビをあちこちに作っていく。オレは長剣を振り上げ、気迫と共に亀裂の入った闇へと、勢いよく振り下ろした。


パリンっ!と乾いた音と共に、闇が砕け散る。闇の破片が硝子のように飛び散る。闇の壁の向こうには元の廃墟の教会が見えた。


「……随分と時間がかかったが、試練を乗り越えたようだな。幼き勇者よ」




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