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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦

ガゼットの実家、ガゼットのお兄さんに牽制された?

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「ヒズミ、ソレイユ。ようこそ、我がフェーレース家へ」

終業式以来となる、ガゼットとの再会だ。

お洒落なワイシャツにベストを纏った姿は、凛々しい雰囲気が漂っている。学園で一緒に戯れるやんちゃな学生は、すっかり爽やかな好青年に変化していた。


「久しぶり、ガゼット。お招きありがとう。すごく嬉しいよ」

俺がお礼を述べると、ガゼットは白い歯を見せて人懐っこい笑顔になる。その表情はいつもの見知った、友達思いの優しい青年だ。

貴族なら全て閉めるであろうワイシャツのボタンを、第2ボタンまで開けて涼し気にしているのも彼らしい。厳かなお屋敷の雰囲気に緊張していたけど、思わずクスっと笑みが零れる。


「おう、久しぶりだな、ヒズミ、ソレイユ。2人とも長旅お疲れ様。リュイももう少しで来るから、それまで温泉でも入って休んでてくれ」

リュイとガゼットの領地は隣り合わせで、馬車でも2時間かからない距離にある。俺たちの滞在に合わせて、リュイもこの屋敷にお邪魔することになっているのだ。


「さっきから、ヒズミが温泉に入りたくてソワソワしてたんだ。ありがとう、ガゼット」

俺が温泉に入りたがっていたことが、ソルには隠せていなかったらしい。

なんせ、こっちの世界で温泉に入るのは初めてなのだ。しかも、ゲーム画面越しでも憧れだった温泉都市。気分が浮足立っても、仕方がないだろう?


「ほんと、ヒズミってお風呂好きだよなー。俺の家はいくつも湯殿があるんだ。……ソルたち以外に客もいないし、好きなだけ入っていいぞ?」

驚くことに、この屋敷にはお客様用に数種類の湯殿が用意されているそうだ。露天風呂から数種類の内風呂、さらには各部屋のお風呂も温泉らしい。

なんと、至れり尽くせり。
温泉好きには堪らない、豪華なおもてなしだ。


俺とソルは従者の男性に客室まで案内された。見た目に派手な装飾は少ないけど、一つ一つが上質なものだった。落ち着いた室内で冒険者装備を脱ぎ、さっそく部屋のお風呂へと入って着替えを済ませる。

一息ついたところで、先ほど部屋に案内してくれた侍従の男性が訪れた。


「失礼致します。御学友のリュイシル様がご到着されました。……つきましては、当主が皆様にご挨拶させて頂きたいと申しております。構いませんでしょうか?」

この館の当主は、ガゼットの父だ。伯爵の地位ではあるものの、辺境を任さられるだけあって侯爵に近い権限を有している。

温泉都市『フェーレース』は、国内でも観光産業の要所だ。代々フェーレース家は宿泊施設やホテルを経営する手腕もある。貴族の中でも地位以上に一目置かれる存在である。


侍従の人に身だしなみを整えてもらい、ソレイユと一緒に応接室へと挨拶に向かった。応接室のドアを数度ノックすると、中から柔らかな声で返事が聞こえた。


「失礼致します。ヒズミ様、ソレイユ様をお連れ致しました」

そう言って侍従の人が扉を開けた先には、既にリュイとガゼットが到着していた。そして、2人の近くにいた気品あふれる男女が、此方を振り返る。

ガゼットと同じ、茶褐色の髪をした渋い中年男性が、微笑んで佇んでいた。焦げ茶色の瞳が俺たちを捉えると、優し気に目元を細める。

その隣には、淡い水色の髪を結い上げた女性が、薄桃色の目を瞬かせた。


「父上、母上。私から紹介させてください。こちらが私のクラスメイトの、ヒズミです。そしてこちらが、同じくクラスメイトの、ソレイユです。」

ガゼットが俺たちに手を差し伸べ、促してくれた。


「お初にお目にかかります。ヒズミと申します。ガゼットベルト様とは学園生活だけでなく、冒険者パーティとしてもお世話になっております」

「お初にお目にかかります。ソレイユと申します。平民の私にも、ガゼットベルト様は親切にしてくださって、本当に感謝しています」


俺とソルは、旅の道すがら練習しておいた挨拶を口にした。本物の貴族を目の当たりにして緊張はしているけど、最初の挨拶が肝心だからな。

左胸元に手を当てて、軽くお辞儀をする。俺たちの様子を見ていた辺境伯は、ふっと笑みを零した。


「ようこそ、フェーレース家へ。私は当主のウィズダム・フェ―レース。こちらは妻のセリカディアだ。……息子のガゼットがいつもお世話になっているね」

低く落ち着いた声音で、ガゼットの父親が名乗りで出る。隣に立つ辺境伯夫人は柔らかく微笑んで、ドレスの裾を持ち上げた。一連の動作がとても洗練されていて、指先まで意識が届いた見事なカーテシーだった。


「そんなに畏まらなくても、大丈夫だよ。……君たちのことはガゼットから良く聞いている。立ち話もなんだから、こちらのソファでお茶でも飲みながら話そう」

辺境伯は、俺たちをソファセットへと促してくれた。

辺境伯夫婦と俺たちが向かい合わせに、そして左右にはリュイとガゼットが座る。人数分のお茶が用意されたところで、辺境伯が口を開いた。


「……うちには長男も住んでいるが、あいにく仕事で外出してしまっているんだ。もうすぐ戻る予定だったはずだ……。後程挨拶させよう……」

辺境伯がそう言い終えたと同時に、応接室の扉が再びノックされる。入室許可の返事を辺境伯がすると、水色の髪を靡かせた男性が、部屋に入ってきた。


「おや、噂をすればだ。ちょうど良かった。……長男のアルカシファだ。アルカシファ、ガゼットの友人のヒズミ君と、ソレイユ君だ」

部屋に入った青年は、ガゼットの座るソファにすっと近づくと、深い蒼色の瞳をこちらに向け微笑んだ。


「初めまして。私は、アルカシファ・フェーレース。……可愛い弟が、いつも世話になっている」

そう短く挨拶をしたアルカシファ様は、俺たちをゆっくりと一瞥した。そして、おもむろにソファに座るガゼットを、後ろからぎゅっと抱きしめた。


「っ?!アルカ兄上!」


ガゼットの頬がほのかに赤く染まる様を、アルカシファ様は目を細めて嬉しそうに眺める。慌てるガゼットを他所に、アルカシファ様は、鋭い視線を俺たちに放った。

アルカシファ様の口元には笑みが浮かんでいるが、感情を読ませない社交用の微笑みだと、直ぐに気が付いた。蒼色の目が笑っていないのだ。

目の奥には、鋭利な切っ先を思わせる冷たい光が見える。
侮蔑とか、嫌悪とか、そういった種類とは違うものだ。

……なんだろう?
まるで、牽制されているような??


「アルカシファ様、大丈夫ですよ。……手紙にも書きましたけど……。ね?ソレイユ。」

ソルはリュイのその言葉だけで、何かを感じ取ったらしい。隣に座る俺の右腰に手を添えると、ぐっと引き寄せた。





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