84 / 201
第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
囚われの姫、俺は男をなんだが??
しおりを挟む俺の答えに強く頷いたカプリスは、また青い瞳に光を戻した。
「ちなみに、ヒズミがつけているその指輪。人間が勝手に『絶望の倒錯』って名前を付けて、呪いの指輪にしているけど……。立派な神具だからね?神からの情けってやつ」
カプリスは俺の左手をひょいッと持ち上げると、中指に嵌めていた金色の指輪を抜き取った。中指の付け根あたりに、黒色の茨模様が輪が露わになる。
「そうなのか?」
興味深そうに中指の付け根をまじまじと見たカプリスは、指先で俺の茨の輪を撫でた。
「人の分不相応な望みを、人が支払うことの出来得る代償で叶えてやるなんて、神の情け以外の何物でもないよ。魔法の威力を50倍にするとか、人外の成せる技でしよ?」
金色の指輪をそっと茨に被せると、カプリスは俺から離れた。芝居がかったように両手を広げ、宙に浮く。水鏡になった水面に、人形のような現実離れした容姿の少年が映る。
「さあ、長い話は終わりだよ。……あとは、王子様が来るまで、僕と一緒に待っていようね?」
ニコニコと笑うカプリスは、楽しそうに俺に告げた。そして、パチンッと指を鳴らす。乾いた音が鳴ったと同時に、ぐわんっ!と乱暴に周囲の景色が周る。
「囚われの姫が来た!」
「しごと!しごと!」
バタバタと忙しなく動き回る足音が聞こえてくる。景色は青空が一面に広がる外の世界から、一気に室内に変わった。俺は仰向けになっていて、身体を柔らかなものに預けているようだった。
……どこだ?ここは……。
俺は、仰向けに寝かされていた身体をを起こすと、思わず声を出してしまった。
「えっ?」
俺が寝かされているのは、天蓋付きのベッドだったらしい、
見上げた先には、美しい夜空が描かれた天井。その天井の四方には、フリフリのカーテンが付いている。レースをふんだんに使って、これでもかと強調するようにフリリンっ!とさせたカーテンだ。
お姫様が眠るような、とても豪華で可愛らしいベッドと言いたいところだが……。
「……。」
なぜかフリルが全て真っ黒だ。精神年齢が大学生男子である俺が眠るには、とても勇気がいるベッドである。
「囚われの姫は、大人しくしているのデス。」
そう言って、白い綿毛のような小さな顔がベッドの下から俺を見上げた。頭の両脇にはくるんっと渦を巻いた、可愛らしい角が生えている。
黒色の燕尾服を着た、真っ白な羊が人間のように2足で立っていた。これはあれだ。羊の執事。ワイシャツの襟には、可愛らしい蝶ネクタイまでしている。
それよりも、囚われの姫ってなんだ??
「そうデス!これから磨くのデス!」
「オシャレにするのデス!」
そんなことを口々にメェーメェー言いながら、俺の膝くらいの背丈の羊の執事たちが、部屋をパタパタ走り回っている。皆が黒色の燕尾服とストライプのズボンを着ていて、パタパタと裾が翻る。
ズボンには、尻尾を出す穴が空いていて、そこから小さな尖った尻尾が出ているのがチャーミングだ。あっ、黒い羊の執事もいるのか。
羊の執事たちが、可愛らしくお仕事をする様子に癒やされつつ、部屋を見渡す。
部屋の壁は、なんと紫色だった。
天井からぶら下がっているシャンデリアや、家具類は全て艶のある黒色一色。紫と黒の世界だ。それに、ベッドに豪華な黒色のフリルが使われているからだろうか……。
何というか、ゴスロリ感が強い部屋なんだよな……。
益々俺がこの部屋に居るのが、落ち着かなくなりそうだ。
室内を落ち着いて観察していると、部屋の奥にある重厚な扉がパタンっと開いた。中に入ってきたのは、先程まで俺と青空の世界にいた、カプリスだ。手には何やら黒色の布を持っている。
「ヒズミ、おまたせ。さあ、これに着替えて?」
カプリスは、俺のいるベッドへとスタスタと近づくと、手に持っていた黒色の服を渡してきた。着替えてというのだから、服で間違いないだろう。
受け取った服を両手で広げて、俺はそれを見て確認したあとに、もう一度カプリスの方へと顔を向けた。
「………これ、ドレスなんだが??」
俺がカプリスに渡されたのは、フリルたっぷりの漆黒のドレスだった。肌を見せないハイネックの上品なドレスは、可愛い女の子が着たらとても似合いそうだ。
いや、なぜ俺に渡した?
「ヒズミは、王子様に助けられる囚われの姫様になるんだよ。姫様はドレスって決まってるでしょ?」
当たり前じゃんっ!というように、カプリスが宣った。
「……いや、俺は男なんだが……」
「性別は関係ないデス。美しければ良いのデス」
「そうデス。美しければ何でも良いのデス」
周りの羊の執事たちが、カプリスを援護している。でも、流石にこんなふりっふりのドレスなんて着れない。俺がドレスを持ったまま、ベッドの上で動かないでいると、カプリスが痺れを切らしたように、パンっと手を叩いた。
「執事たちよ!こうなったら強行手段だ!姫を磨いて差し上げなさい!」
「かしこまりましたデス」
じりじりと、ベッド下に集まってくる羊の執事たち。その手にはブラシや、化粧道具、香水などが握られている。もはや、俺に逃げ場はなかった。
えっ??やめて??
そう俺は抗議しようと口を動かしたが、何も発せない。はくはくと口が動くだけだ。何か魔法でも仕掛けられたか?
動揺している俺を余所に、執事たちはぴょんっとベッドへと飛び乗った。何とか逃れられないだろうかと、ベッドから降りようとしたときだ。
「っ?!!」
身体どころが、指一本も動かせないことに気が付いた。視線だけでカプリスに問うと、整った美少年の顔がニヤリっと笑う。
抗議の声も塞がれ、逃げることもかなわない。
「観念して、美しい囚われの姫にしてもらってね?ヒズミ」
その言葉を合図に、羊の執事たちが一斉に俺に飛びかかってきた。
141
お気に入りに追加
6,044
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる