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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
妖精たちと遊ぶ、水が気持ち良い
しおりを挟む「……妖精……?」
俺が呟いた言葉に、くるっとした黄緑色の髪の頭をコクコクと揺らし、虹色の大きな目が嬉しそうに細められた。妖精の姿なんて、この世界でも初めて見た。
姿を見れたのは、ここが夢の中だからだろう。
目の前の妖精は、にこっと笑うとモルンにぽふっと抱き着いた。もふもふのモルンの身体に頬ずりをしている。しばらくすると、俺の周りにポンッ!ポンッ!という音を立てながら、複数の妖精たちが飛び出るように姿を現す。
髪の毛や羽根の色がそれぞれ違う。中には少女の姿をした妖精もいるようだ。
皆、モルンに一度むぎゅッと抱き着くと、俺に向かってにっこり笑いかける。
「キュー、キュキュ!」
何やらモルンが、妖精たちに身振り手振りを交えて鳴いている。何かを説明しているようだ。
『……モモンガの仲間は、真っ黒んちょな人の子だー!あっちのパツ金は家来だってさ!』
「っ?!」
きゃっ、きゃっ!と楽しそうな高い声で、少年は古代語を話した。
『そっかー!こっちの人の子は綺麗な闇だねー!魂も綺麗!あっちのパツ金は、魔力量がえっぐーい!!』
終始楽しそうに、鈴の音のようなコロコロとした可愛らしい声で笑う。俺が彼らを呆けたまま見ていると、1人の少年妖精が俺の目の前に飛んできた。
『ねえ、僕たちと遊ばない?すっごく暇なんだ!!』
『遊び?』
俺が返事をすると、少年妖精はぱっと目を輝かせた。俺と会話が出来たことが嬉しいのか、頬を赤らめて興奮したように、勢いよく宙で一回転する。
『湖で水遊びしようよ!涼しくなるし、楽しいよ!』
水遊びか……。ここは春と夏の合間のようで、風が少し生暖かい。水を浴びれば確かに気持ちが良いかもな……。
ちらっと右肩に乗っているモルンを見る。モルンは俺に応えるように、モフモフの尻尾を頬にスリッとこすりつけた。
どうやら、モルンも遊びたいらしい。
俺も今はやることがないし、妖精と遊べる機会なんてまたと無いだろう。
『うん、一緒に遊ぼうかな』
了承の意を伝えると、少年妖精はやったー!!と両手を上げた。
『そうと決まれば、こっちにおいでよ!』
少年妖精に手招かれ一緒に向かったのは、キラキラと日差しを反射する湖だ。俺が湖の近くで立ち止まると、妖精たちは『大丈夫だよ!そのまま歩いて!』とだけ告げて、先に湖の奥まで飛び去ってしまう。
俺は意を決して、ちゃぷっと揺れる水面に一歩踏み出した。
「なっ?!」
俺のブーツの足底は、水面に着地した。硬い床に足を付けたかのように、トンッと確実に足が乗る。また一歩足を進めると、小さな波紋を作りながら水面を歩けた。
俺の近くを通り過ぎた少年妖精は、悪戯が成功したとばかりにクスクスと笑った。
透明な水の色は、中央に近づくにつれて宝石の青色に変わる。中央には先ほどまで空を飛んでいた、妖精たちが宙に固まっている。
『僕たちも人間サイズに合わせるぞ!』
そう言うや否や、妖精たちがほわりとした温かな光に包まれる。一つの大きな光は、やがて湖の上に降り立った。ぽんっ!という軽快な音ととともに、光の球がはじける。
『よし!これで、おあいこだ!』
湖の上には、妖精の羽根を生やした小学生くらいの少年、少女たちが立っていた。皆の手に何か持っている。
あれは……?ピストルのような?
『今から、二手に分かれて水鉄砲で戦うぞ!このバッジが水に濡れたら負けな!』
俺の胸位まで身長が伸びた少年妖精が、俺に金色のリボルバーと円形のバッジを渡した。バッジにはにっこり顔のマークが書かれていて、水に濡れると目が☓になるそうだ。
リボルバーはかなり本格的な見た目で、金色の歯車が幾重にも装飾された、手に重い物だった。これ、水鉄砲だよな?
スチームパンクの雰囲気が漂って、カッコイイ。
ちなみにモルンには、赤色の小さなパラソルを渡された。モルンのふわふわな毛並みが濡れるのは、忍びないもんな。
同じチームの妖精たちに、よろしくね、と短く挨拶をする。一番最初に俺に笑いかけた少年が、同じチームになった。
上着は脱いだほうが動きやすいだろうと、ローブを脱いで、白色のワイシャツに黒色ベスト姿になる。ついでにと靴を脱いで裸足になった。
ひんやりとした水が気持ちいい。
『じゃあ、はじめ!!』
そう言ったと同時に、水面から幾つもの水球がぽやんっ、と生み出され宙に浮かぶ。妖精たちは素早く宙に浮く水球に、手に持っていた水鉄砲を突っ込んだ。
俺も皆にならって、近くに浮く水球にちゃぷんっ!と右手に持ったリボルバーを突っ込む。カチッという音と共に、リバルバーに水が装填された。
なるほど、宙に浮く水球は補充目的だな。
『ヒズミ!来るよ!!』
のんびりしていた俺に、少年妖精が叫んだ。チリッと気配を感じ取って、俺は身体を右に傾ける。俺の左脇をビューっ!と勢いよく水が通過していった。正面には、ピストルを構えた赤髪の少年妖精。
『惜しい!避けるな―!!ガンガンいくぞー!!』
そこからは、水の攻防戦だ。水泡が勢いよく行き交う。水飛沫がひっきりなしに起こって、キラキラと反射する。俺も負け時と水の弾丸を撃つ。空を飛ぶ妖精たちは、巧に弾丸を避ける。
四方八方から襲う水を、気配を察して何とか躱す。皆よりもやや体格の大きい俺を、相手の妖精チームは集中的に狙い撃ちしてきた。
『もう、何で当たらないの!……こうなったら、奥の手だ!!』
相手チームのリーダーでもある、赤髪の少年妖精が後ろに潜んでいた仲間に合図を送る。
「……えっ。」
赤髪の妖精の後ろに隠れた妖精たちは、頭上に手を伸ばしている。俺たちの上には大きな影。見上げた空には、巨大で木製のバケツが今にも水を零そうと傾いていた。
あっ、これ逃げれないパターンだ。
右肩のモルンが、パラソルを頭上にさっと差した。
『卑怯だぞー!!こっちもあれを出せ!』
俺の隣りにいた少年妖精が、仲間に指示を出す。アイアイサー!という返事と共に、後方から現れたのは金色の大きな大砲だ。経口が大きいから、一回撃てば相手を一網打尽に出来そうだ。
1人の少女妖精が特大の水球を大砲に込める。何発も込めたから、一回で連続砲弾できるようだ。
『撃てーーっっ!!』
『ぶっかけろーっっ!!』
威勢の良い声が、同時に響く。ドンッ、ドンッ、ドンッ!という大きな音がして、水の砲弾が相手チームを襲う。3発の砲弾は見事に妖精たちに被弾し、バシャッ!と妖精たちを水浸しにした。
『うわーーっ!!冷たい―!』
「うわっ?!」
こっちのチームの頭上にあったバケツ勢いよくひっくり返る。バシャーンっ!!と思いっきり頭から大量の水を被った。あまりの水の多さに、目が開けられない。
もう、全身どころか下着までずぶ濡れだ。当然、バッジのにっこりマークは、目が×印に変わった。モルンは、しっかりとパラソルで毛並みを防御している。偉いぞ。
『やったなー!これでどうだ!』
『なにを!まだまだー!!』
もう、全員のバッチが濡れてしまっているが、そんなことはお構いなしでとにかく水遊びを楽しんだ。
「きゅきゅう!!」
しばらく妖精たちと水遊びをしていると、突然ラパン画伯が大きく鳴いた。俺にちょいっと手招きするので、俺はラパン画伯のところへ向かう。
「……わぁ、すごい……。上手だな」
感嘆の言葉を零したおれに、ラパン画伯はエッヘン!と胸を張った。
真っ白だったキャンパスには、いつの間にか絵が完成していた。色彩鮮やかな色で描かれたのは、俺と妖精たちが水遊びをする姿だった。
宙に浮かぶ透き通った水泡。空を飛ぶ妖精たち。そして、銃を構えて笑顔の俺とパラソルを差すモルン。躍動感とファンタジーの世界が、見事に描かれている。
俺のワイシャツが水に濡れて透けているところまで、細かに表現されていた。
キャンパスの前で突っ立っていた白い人たちも、次々と作品を完成させていった。どれも美しく、妖精たちの水遊びの様子が良く描かれている。
アトリとソルは、白い人と何やら物々交換をして絵を譲ってもらっている。お気に入りの絵があったのかもしれない。
ラパン画伯は納得したようにうん、うんと頷くと、キャンパスを台から外した。俺にそのキャンパスを向けると、ぐいぐいとキャンパスを俺に押し付ける。
「……えっ?俺にくれるのか?」
コクンと頷いたラパン画伯にお礼を言って、絵を受け取る。俺がキャンパスを受け取ると嬉しそうに目を細め、長いお耳の間に被っていたベレー帽にそっと脱いだ。帽子の中からは、エメラルドグリーンの歯車が現れる。
ラパン画伯は頭から歯車を取ると、俺にそっと差し出した。
「きゅう、きゅきゅう!」
『良い絵が描けたお礼だってさー。ヒズミ、良かったね!』
妖精たちが、ラパン画伯の鳴き声を通訳してくれた。
「ありがとう。素敵な絵を貰ったお礼に、ニンジンを受け取ってほしい」
ニンジンを受け取ったラパン画伯は、ベレー帽の中にニンジンをしまい込んだ。もしや、ベレー帽がマジックバッグなのでは?
「絵を描くのが攻略法かと思ったけど、違ったのか……。それにしても、ヒズミ。ずぶ濡れだね?いつもどおり、俺が乾かしてあげる。」
いつもどおり、と言うソルの言葉のあと、アトリがなぜかピクっと片眉を動かしたのが見えた。ソルに服を乾かしてもらい終わると、妖精たちや白い人達、ラパン画伯に手を振られた。
手を振り返したところで、ぐわんっと景色が変わる。
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