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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

俺の手料理、ソルの好物は素朴です

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リビングのテーブルに並んだ料理を見て、ソルの琥珀色の瞳が一層キラキラとしている。


「すごいよ!ヒズミ!とっても美味しそうだ!」

「たくさん作ったからな。いっぱい食べてくれ。デザートもあるからな?」

食卓の上に並んだのは、デミグラスソースのかかったハンバーグに、まん丸なコロッケ、色とりどりの温野菜。輪切りにしたパンは籠の中にどっさりと入れた。

ハンバーグは肉汁を閉じ込めたからな。試しにナイフで斬ったら、ジュワーっと良い匂いと一緒に肉汁が滴った。


「ヒズミ?この丸いアゲモノ……?は、なに??」

ソルの視線の先にあるのは、こんがりときつね色に揚がった、まん丸のコロッケだ。コロコロとした見た目で、少し小さめに作ってある。その方が、好みの量で食べれると思って。


「ああ、それはコロッケって言うんだ。普通はジャガイモで作るんだけど、今日のは少し違ってな?……食べてみれば分かるよ。」

この世界には、揚げ物が存在しない。乙女はゲーム内でも、ダイエットというものを意識しているらしい。

だから、ソルもコロッケを見るのは初めてなのだ。サクッと薄い衣にフォークが刺さる、小気味良い音が聞こえた。ソルはフォークに刺した丸いコロッケを、一口でひょいっと頬張った。


「!!~~っ?!!」

一口噛んだ瞬間、ソルが大きく目を見開いた。そのまま、口をもごもごと動かしている。リスか。可愛いな。


「……どう?気に入った??」

無言のまま物凄い勢いで首をぶんぶんっ!と縦に振られた。しばらく無言で食べきると、興奮した様子で俺に告げる。


「これ、中身がカボチャだ。ほくほく甘くて、外はカリっとしててすごく美味しいよ。」

「カボチャコロッケって言うんだ。ソルはカボチャが好きだからな。絶対気に入ると思ってた。」

そう、俺が作ったのはカボチャコロッケだった。


ソルの好物はカボチャ。あの素朴な甘さが好きらしい。
見た目は超絶美形の、カッコいい男子なのに、好物がカボチャってギャップ萌えなんだが。
いくらでも、好きなだけ食べさせたい。


男の子らしくいっぱい食べるソルは、見ていて気持ちがよい食べっぷりだ。それでも、フォークの使い方や食べ方に下品さはない。

アトリにマナーを教えられたのもあるけど、元々上品というか、気品を感じるのは勇者だからだろうか?


ソルは「美味しい!」と終始言いながら、嬉しそうに頬を緩ませて食べていた。デザートには、カボチャのババロアを出してやると、それもまた喜んで食べた。


甘さ控えめにして、ホイップクリームにカボチャの種を砕いたものをトッピングする。ダンジョンでは、非常食なんだよな。

ソルは感動した様子で、「……幸せすぎる……。」と溜息を零していた。


「キュっ。」

図書棟でのお仕事を終えて、買い物をしてきたソルの肩に乗り帰って来たモルン。テーブルでお行儀よくカボチャの種をカジカジしている。


「……モルンも、ババロア食べてみる?」

スプーン型の小さなマドラーの先に、ほっくりとした黄色のババロアを乗せてモルンの小さな口元に運ぶ。

ふんふんっとババロアに鼻を近づけると、小さな下をチロッと出して一舐めする。


「ぷうぷう。」

そんな甘えた鳴き声をだしながら、小さな手をマドラーの柄部分に乗せて、ペロペロと食べ始める。どうやら、モルンも気に入ってくれたようだ。

小さなお口に、ほっくりとしたカボチャの色が移っている。そっとモルンの口に着いたババロアを、ナプキンで拭き取ってやる。チロリと舌で舐めとる姿が、すごく可愛い。

……はぁー、癒される。


「ぷう。」

気に入ったようで、食べた後にモルンは俺の指に頬づりをした。


「……ごちそうさまでした。ヒズミ、すごく美味しかった。」

「ソルに喜んでもらえて、良かったよ。」

料理をしてくれたお礼にと、片付けはソルが引き受けてくれた。片付けている間に、ソルにお風呂へ入るように促されて、俺はのんびりとお風呂を楽しんだ。


お風呂上りに濡れた髪のまま、パジャマ姿でいると、ソファに座っているソルに手招きされる。


「髪乾かしてあげる。ほら、ここ座って。」

そう言って、ソルはポンっと右隣を手で叩いた。寮生活が長くなって、ソファではソルの右隣が俺の定位置になっている。向い合わせで座っても良いけど、距離が近い方が居心地が良い。


「いつも、ありがとな。」

お礼を言いつつ、俺は定位置のソルの右隣に座る。ソルからは、俺と同じ石鹸とシャンプーの香りがほんのりと香った。料理している間に、先にソルにはお風呂に入って貰ったのだ。


お互い向かい合う形でソファに座り直すと、ソルがタオルでわしゃわしゃと俺の濡れた髪を拭いてくれる。これも、俺が風呂に入ったあとの恒例行事だ。


「オレも、魔力操作の練習になるから。……じゃあ、いくよ?」

「うん。」

タオルドライが終わった俺の頭に、ソルが両手を翳す。温風が髪を下から上へ、ふわっと靡かせた。

風魔法と火魔法を複合させた、日本で言うドライヤーの魔法である。ソルは仕上げとばかりに、俺の髪に指先を通して手櫛で整えてくれた。


「ヒズミの髪って、漆黒で本当に綺麗だし、サラサラだよね。伸ばしてみた姿も、見てみたいな……。」

そう言いながら、ゆるゆると髪を撫で続けるソルに、俺は気持ちよさに思わず目を細めて、クスッと笑った。


「長い髪かー。俺に似合うかなー。」

「絶対似合う。オレが保証するよ。」

そんな他愛も無い話をしていると、ふと、ソルが俺の首元に視線を移した。

首から下げていた細身のチェーンが、シャラっと細かな音を立てる。ソルは、そのチェーンの先に下げられた、『深愛の導き』を指で持ち上げた。


優し気な琥珀色の八面体の宝石が、ソルの指の中で輝いている。中には六花の白い花と、それを照らす小さな太陽。


「……ねえ、ヒズミ。出かけるときは、これが見えるくらい襟を開けられる服が良いと思うよ?……特に、エストレイアと遊びに行くときは、外は暑いんじゃない?」

確かに、最近は外が暑い。
学園の建物内は、魔道具によって一定の温度に保たれているけど、建物外は汗ばむ陽気だ。日本の猛暑とは違って風が通ると涼しいが、それでもより薄着のほうが良いだろう。


「……そうだな。そうしよう。」

何とはなしに、俺もソルのパジャマの襟口から見える『深愛の導き』を触る。ソルが身に着けているのは、俺が魔力を込めた『深愛の導き』の片割れだ。


夕焼けの橙色から、紫を経て濃紺へと変わる。銀色の粒子がチラチラと舞う中で、六花の花が咲いている。


「……気に入ってるんだ。いつも身に着けているよ。」

「……ああ、俺も。」

学園内では、冒険者の身分証であるタグは外している。でも、タグと一緒に身に着けていたソル色の宝石は、いつも身に着けていた。

これは、特別で大切な、御守りだから。


グラスに冷たいお茶を注ぎつつ、試験の結果がどうだったとか、夏休みはどうしようかとか、そんな他愛もない話をしながら、のんびりとした夜を2人きりで過ごした。



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