61 / 201
第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
美しき麗人の怒り(ガゼットside)
しおりを挟む(ガゼットside)
しんっと静まり返った1つの試験会場。誰もが、今繰り広げられた戦闘に息を飲んでいる。
……美しき黒の麗人の、静かな怒りと激しい戦いを。
「……ヒズミの実力を侮るからだよな……。」
その場外で俺はぽつりと呟いた。誰に聞かせるでもなかったが、隣にいた幼馴染みにはハッキリと聞こえたようだ。
「僕たちなら知ってるよね……。ヒズミが、魔法を使わなくても強いこと。」
リュイの言葉に、俺も同意した。毎日、俺たちはヒズミに特訓をしてもらっている。その中には、魔法を一切使わないものがあるのだ。
魔法だけに頼る戦闘をしていると、魔力枯渇や魔道具で魔法の制限をされた場合、使い物にならないからだ。
今回のヒズミの戦いは、まさにそれだろう。
魔法が使えなくなってたっぽい。
「……ヒズミは、この国の人と比べると華奢だからね。それに、あの見た目で誰が、あんな冷酷な戦闘できると思う?」
ヒズミは、顔立ちからして異国の人間だった。
鍛えて無駄のない筋肉がついているが、骨格が細い。しなやかなに伸びる手足に、引き締まった腰。
黒檀の黒髪は珍しく、それがまた神秘的で魅惑的だ。凛とした空気を纏うのに、歳相応の危うい色気がある。
そんな美しき麗人は、真っ直ぐとした芯のある性格で、時折見せる思考はどこか大人びて穏やかだった。付き合って日が浅いが、今までで一度も怒りを露にしたことなどない。
そのヒズミが、怒りを見せている。
強欲な人間に利用された、立場の弱い者を思って。
「……あいつらだろ。ヒズミを平民だからって、自分たちの配下に置こうとしたヤツ。」
ヒズミは平民だ。しかも、家族がいない天涯孤独。
それは、貴族にとっては大変都合の良い人物だった。
本人を例えどんな境遇に置いたとしても、それを訴え反発する者がいないことを意味するからだ。
都合が悪くなったり、飽きればすぐに捨てることができる。
後腐れもなく捨て置ける、美しい玩具。
いくらでも、自分の好き勝手にできる人形。
それに加えて、あの腕前に魔法、美しい容姿である。
何人もの貴族が自分たちの権力を振り翳し、妾か愛人にしようか、あるいは愛玩動物にしようかと下卑た話の話題に上っていた。
本人の耳には入らない様に、ソルが睨みをきかせていたし、ヒズミ自体も強いために屈することは決してなかったが……。
「……ヒズミは、高嶺の花なんかじゃない。それよりも更に上みたいな感じ、かな……。」
隣でリュイが呟いた言葉に、思わずクスッと笑ってしまった。バカにしたのではない。本当にそうだと、同じ気持ちになったからだ。
「……清らかな宵闇の花。」
人間というのは、実に愚かなのだろう。
自分には手が届かない存在と認め諦める人間は、まだ賢いと言える。
手に入り辛いと分かると、ますます自分の手中に収めたくなる強欲な人間もいる。それが、今回の試験妨害組だろう。
でも……。はっきり言って、俺たちのような凡人では勝負にもなっていないのだ。お前たちが望んだのは、ただの美しい花ではない。
月夜にしか咲かない、孤高で美しく咲く、幻の一輪の花。
人間が手に触れることを許されない、見ることさえも咎めるような清らかさで。
誰の色にも染まらない黒く澄んだ宵闇。
そんなものを手に入れられるのは、古から陽光だけだと相場は決まっている。
そんじょそこらの草花が騒いだところで、彼らの世界の供えものにもならないだろう。
「……かっこいいよね。」
「……すげえよな。……俺も、あんなふうに揺るがない強さが欲しい。」
自分の意志を、信念を貫き通す力を。
他者を守れる実力と知識を。
「……僕も、誰に何を言われても胸を張れるほどの、進んでいける強さが欲しい。」
赤子のころから隣にいる幼馴染と一緒に、俺たちは心の中で拳を握った。
182
お気に入りに追加
6,044
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる