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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
実技試験、エストの手助け
しおりを挟む「始め!!」
開始の合図と共に、相手生徒が火魔法で作った火球を数個放つ。拳大の炎の塊が、俺に真っすぐに向かってきた。
俺が闇魔法で防御結界を作り、攻撃を防ごうとした、そのときだ。
「っ?!」
魔力を練り上げて魔法を発動しようとしても、魔法が放てない。魔力を外に出そうとすると、外側で何かに阻まれた。
まるで、身体全体に蓋をされているような、隙間なく見えない膜で覆われているような感覚がした。闇魔法の結界が発動しなかった俺は、身体を傾けたり、跳躍したりして火球を躱す。
……今のは、なんだ?
俺は自分のステータスを確認しようと、頭の中で念じた。頭の中でぴこんっ!という軽快な警告音が鳴る。
『制限(魔道具による、属性魔法の使用禁止)』
「……?」
この試験での、魔道具の使用は禁止のはずだ。
先ほど模擬戦をする前に、俺と相手生徒は試験官から身体検査を受けている。その際に、お互いに何も指摘をされていなかった。
目の前の生徒が、魔道具を使っていないとなると……。
俺は、チラリと場外へとさりげなく向けた。
俺たちの模擬戦を見学している生徒が、何人かいる。
その中には、相手生徒の取り巻きであろう男子生徒たちもいた。何人かの生徒がニヤニヤと目を細めて、イヤらしく笑う姿が見える。
その中に一人だけ、青ざめている生徒の顔が見えた。
……制服の左側の襟に付けているピンバッチの色は、Bクラスを意味する緑色。
さらに、右側の襟に着いている小さな緑の石。
あれは、風紀委員を示す飾りボタンだ。
属性魔法を制限する魔道具は、とても高価なものだ。そして、この学園内で所持できる人物に限られている。所持できるのは王族、王族の護衛、王族の側近候補の貴族。
そして、学園内の揉め事を解決しなくてはならない、風紀委員。
持ち出すのにだって、何等かの理由が必要になる。
この模擬戦を見ているSクラスの中で、彼を脅している人物がいるのだろう。
「得意の闇魔法はどうしたんだ?魔法を使わないと、先生方も採点できないだろ?」
こちらに次々と火球で攻撃をしながら、得意げに話しかけてくる相手生徒。
チラリと試験官を見た。試験官も、俺に一瞬だけ視線を寄越す。どうやら、属性魔法が制限されていることに試験官も気が付いているようだ。
ただ、模擬戦を中止にしないあたり、考えがあるのだろう。
このまま、風紀委員の彼を捕まえても、その裏で悪だくみをしていた貴族たちを炙り出すことはできない。最悪、あのBクラスの彼だけが全てを背負うことになってしまう。
さて……、どうするかな。
俺が考えを巡らせている中、聞き慣れた涼やかな声が耳に入った。
「……ヒズミ、3分あれば調べられる。」
声がした方向へと視線を移す。試験場所の場外に、銀髪を一つに括って風に遊ばせている美貌の青年が立っている。声の主はエストだった。
眼鏡ごしに、ダイヤモンドダストの銀色の宝石と目が合う。俺は、エストの言葉に強く頷いた。
相手生徒が木刀を炎で覆い、炎の斬撃を飛ばてきた。地面を跳躍して、身体を捻って避ける。次々に炎の刃が俺を襲う。
「……逃げるばかりか?魔法が使えなくて焦っているのだろう?1属性しか使用できないのに、学園に入学したのが間違いなんだよ。……この身の程知らずが!」
頭の中で時間を数える。……今、1分半。
「……。」
距離を詰めてきた相手生徒は、赤い炎を纏った剣を振り下ろす。熱波が俺の肌を舐めて行った。続けざまに炎の剣で斬りかかって来るのを、後退しながら避けた。
……2分。
「……私に許しを請えば、手加減してやってもいい。……それか、その身体を差し出すのなら、怪我をさせないように倒すが?」
身体を差し出す?
ワザと負けろという事か……?
俺が黙っているのを、魔法が使えず焦って言い返せないと勘違いしているのだろう。貴族らしからぬ、ペラペラとした饒舌ぶりだ。
それに、心の油断が出たのだろう。
俺が模擬戦で魔法を使えない事実を、うっかり口にしたな。
それにしても……。なんとも耳障りで不快な声だ。彼の声は耳によく届く通った声だが、その中にざらりとした砂利のようなものが混ざっているように感じる。
それに比べて冷たい美貌の青年の声は、耳に心地よい涼やかな音。その音には、どこか楽し気な雰囲気が混じっている。
「……もう、いいよ。」
____3分。きっかりだな。
エストの正確性もそうだが、その『もう、いいよ。』の言葉の言い方が、かくれんぼのそれで、思わずクスっと笑ってしまった。
「さあ、これで終わりだ!」
相手生徒が、意気揚々と炎が渦巻く木刀を振りかぶる。
……なんとも、隙の多いことだ。
どがっ!!
「ぐはっ!!!」
俺は炎の剣が降り下ろされる前に、相手生徒の腹を思いっきり素早く足蹴りした。鈍い音と当時に、相手生徒が軽く吹っ飛ぶ。
さあ、反撃といこうか。
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