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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

模擬戦、思い知れ

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「ぐはっ!!!」

俺は炎の剣が降り下ろされる前に、相手生徒の腹を思いっきり素早く足蹴りした。鈍い音と当時に、相手生徒が軽く吹っ飛ぶ。

さあ、反撃といこうか。


勝利は確実だと思い込んでいた相手が、目を見開いたまま喘ぐ。俺は音も立てずに、トンっと地面を蹴った。蹴りで後退した相手と瞬時に距離を詰める。


敵をいたぶる趣味は、俺にはない。

ただ、魔法を封じただけで勝てるほど、
戦闘は甘くない。

それを、思い知ればいい。


相手の驚きの顔が、すぐ目の前に見える。両手に持った双剣を正面で交差させ、苦しさに身動きが取れない相手生徒の胴体を、2度ほど刃を払って斬りつける。

近くで痛みに息を詰めた声が聞こえた。


さらに暇を与えずに、相手の肩口や身体に数度切っ先を突き入れた。次々と襲って来る剣撃に、相手は剣を構えらないのだろう。

右手の木刀は、もはや重りではないだろうか。


「……く、そっ!!燃えろ!!」

「っ!」


大きな魔力の流れを感じ、咄嗟に彼から距離を取る。
苦し気に呻く相手生徒から、俺が握っている双剣の木刀へ、圧縮された魔力を向けられた。


相手生徒が木刀を振りかぶったと同時に、俺は自分の持っていた木刀を、思いっきり相手に向かって放り投げた。
そして、地面を音もなく蹴る。


放り投げた木刀はクルクルと円を描いて、空中で炎を上げて燃え始めた。

彼はチっ!と舌打ちを打って顔を歪ませ、俺の放り投げた木刀を剣で受け止めた。1本は左に払われ、もう1本は右上へと払われて防がれる。

カンカンっ!と木刀同士が打ち付け合う音が近くで聞こえる。


「はっ!悪あがきはよ、せっ?!」

鼻で小馬鹿にしたように笑った相手生徒の声は、語尾が驚きで疑問形に変わる。その小さな口の動きさえも、彼の目と鼻の先に迫った俺には良く見えていた。

瞬時に距離を詰められたことに、驚いているのだろう。


相手の懐に入り込み、剣を握っている彼の右手首を力を入れて掴んだ。相手の身体がこちらに傾いた勢いをそのままに、彼の腹を目掛けて膝蹴りを喰らわす。


「ガッ!!!」

腹部の衝撃で、彼が右手に握っていた木刀がカランッ!と地面に落ちた。力が入らない彼の身体を、右手を強く引いて地面へ引き摺り倒す。

うつ伏せに倒れた彼の背中に素早く回り込み、右手を後ろ手に捩り上げる。項の下に片膝をついて体重をかけた。


「ぐっ……ぅ、どけ!」

呻いている相手生徒が動けないように、さらに重くのし掛かる。


彼の制服の襟から、チラリと首が露になる。

その、無防備に晒された首へ、懐に隠していた短剣型の木刀の切っ先を突きつけた。地面に顔を伏せていた相手生徒が、視線を寄越す。


目が合った瞬間、胸の中で冷たい感情が一瞬にして霜を降ろした。自分でも分かる。今の俺の瞳は、剣呑になって凍えるように冷たいだろう。

唇が勝手に動く。胸から上がって来た冷気が、自然と喉を突いて出た。自分でも思いのほか、低い声が出る。


「……平民をいたぶって、さぞ楽しかっただろう?……魔法も使えない平民に負けるのは、どんな気分だ……?」

真剣であれば、すぐに動脈を切れる位置に刃を押し当てる。ドクン、ドクンと、呼吸をするたびに相手生徒の首筋の脈が動く。

俺は、ゆっくりと彼に微笑んだ。


「……真剣じゃなくて、良かったな?」

相手に分からせるように、その木刀の刃をすぅっと動かした。


「ヒィッ……!!」

引きつった声が下から聞こえた。ブルブルと小刻みに、彼の身体が震える。


「止めっ!」

試験官の声が響く。

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