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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう

眷属契約、俺とソルはモモンガの身内になった

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……眷属契約って、あの『身内だよ!』契約?


眷属契約とは、いわば『この存在を、種族間を越えて仲間にする。』という印。

これは、人間が行うものではなく、妖精やエルフなど、尊き存在と言われている人外が行うものだ。もっと言うと、加護を与えるのに近い。


契約は媒体を通して行う。媒体に契約魔法を施して、眷属にしたい相手に持たせるのだ。契約時の媒体が貴重なものほど、絆が強くなる。

そして、もう1つ契約に必要なのが名前。契約者同志で呼び合う際の名前が必要になる。


なるほど……。モルンに名前の話をしたときに、慌てた様子で花を持ってきたのはこれが理由だろう。こんなに可愛い存在と眷属になれると思っていなかったから、眷属契約なんて頭に浮かんでこなかった。


……モルンに気に入られたのは嬉しいけど……。
なんだか、してやられた感は否めない。


「……俺とソルは、晴れてモモンガの仲間入りか。」

モフモフの仲間入り……。それ、良いな。


「……多分、モルン的にはヒズミが本命でしょ?……オレは家来か下僕の位置づけだと思う……。」

モルンをリンゴの巣箱にゆっくりと寝かせ、俺たちも眠ることにした。



『絶望の倒錯』の呪いが終わった俺は、学園にやっと通えるようになった。体力も回復して、完全復活だ。その日の放課後に、俺とソルは揃って図書棟を訪れた。

「キュイ!」

「ぶっ!」

図書棟の扉を開けてすぐに、モルンがどこからか飛んできて、俺の顔面にモフっとへばりついた。ずるずると移動して右肩に落ち着く。


……モルン、わざとやってる?


「モルン、お仕事偉いな。お疲れ様。」

右肩に乗ったモルンの頭を撫でつつ、俺は中央にある大樹を仰ぎ見る。相変わらず、たくさんのリンゴの置物がぶら下がった大樹。

俺たちは、大樹をぐるりと囲っている受付カウンターに迷うことなく進んだ。いつもお世話になっている、のんびり司書さんに眷属契約について報告をするためだ。


「学園の生徒で、お手伝いモモンガと眷属契約をした人は初めてですね。……しかも、これまた熱烈だ。」

今回モルンが用意した媒体は、妖精しか見つけられない貴重な花だったそうだ。モルン的には、「ヒズミはぼくの!ぼくのなの!」と言う感じだと、司書さんは教えてくれた。

ソルについては……。
多分ついでだろうね、と司書さんがのんびりと言った。


「……でも、勝手に契約して大丈夫だったでしょうか……。」

俺が心配げに話をすると、司書さんは事も無げに告げる。


「問題ありませんよ。モモンガたちは学園に住んでいるだけで、学園側が飼育しているわけではないのです。……そうですね……。君たちはモモンガの身内ですから、少し込み入った話をしましょう。」


司書さんは、いつもののんびりした口調のまま、不意に指をパチンっと鳴らした。俺とソル、司書さんのいる受付カウンターに、何やらうっすらとドーム型の膜が張られる。

……これ、遮音の魔法だ。
密室でない空間に遮音の魔法をするのは、かなりの魔法操作技術が必要になる。この人、のんびりとした雰囲気と違ってかなりの実力者だ。

……いつも仕事に没頭しすぎて、モモンガが大量に身体に乗って、何匹乗れるか試しているのに気が付かない人とは思えない。


遮音の魔法をかけたところで、司書さんはすいっと俺たちに視線を移した。


「……実は腕輪の本来の目的は、モモンガの拉致防止です。……お手伝い記録は二の次なのですよ。」

司書さん曰く、モモンガはこの学園の広大な敷地内を生息地としている妖精。本来なら自由気ままに敷地内で暮らし、腕輪をする必要はない。

しかし、その貴重性と、身近にいる手の届きやすさで悪意に晒され、拉致されかけたことがあるらしいのだ。


「君たちに眷属契約をしたモモンガは上位種なので、魔法を使用して身を守ることが可能です。……しかし、下位のモモンガや子供は魔法を使用できない。」

妖精や尊き存在に手を掛ければ、それ相応の罰が下る。それは、その行為をした者だけには留まらず、人間全体で巻き添えを喰らう可能性もあった。


そんな悪意や人間の危機から守るために、開発されたのがあの腕輪である。

モモンガ本人の意思に反して学園外に出た場合は、強制的に腕輪に施された転移魔法で学園に戻れる。そして、万が一本人が望んで外出し、外出先で危険に晒されても、位置が分かれば助けに行けるし、遠隔で防御魔法を施せる。

24時間体制で、モモンガは守られているらしい。


「お手伝いは、初代モモンガが教授の育てた甘い木の実を、盗み食いしたのが始まりと言われています。……当時の土魔法の教授は妖精と言葉を交わせる人だったそうです。」

その教授は、初代モモンガにこう言ったそうだ。


『ただで美味しいものに、ありつけるはずなかろう!働かざるモノ、食うべからず!』


「そう言って、自分の仕事を手伝わせたそうですよ。」

司書さんは『おかしいでしょ?』と言って、クスクスと笑った。


モモンガたちには、その言葉は衝撃的だったらしい。
以降は、働けば美味しい木の実がもらえると学習して、木の実が欲しい時だけお手伝いをする。働きすぎはいけないから、腕輪で仕事をさせ過ぎないようにもしているらしい。


「……眷属仲間が増えて嬉しいですよ。私も、モモンガの長に眷属契約してもらってるんです。……もっとも、私の契約時はその辺にあった綺麗な石ころが媒体でしたけど。」


今度のんびりと、眷属仲間同士でお話でもしましょうね。


そう言って、司書さんはいつもどおり朗らかに微笑んだ。胸元には透明で歪ながらに、光を浴びてキラキラと輝く石を加工したブローチを付けていた。





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