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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう

魔物を倒した!素材が集まった。

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先のとがった矢尻のような形をした金属が、俺たちに向かって放たれた。いくつもの金属の鱗が俺たちを貫こうと襲い掛かろうとする。


……早い段階で、この攻撃をしてくるのは好都合だ。

練り上げていた魔力を、手の平に集中させていく。
頭の中で作り上げていたイメージを、魔力に乗せて空間全体に放った。


ゆっくりとした流れの渦。
全てを余すことなく集め、閉じ込める闇。
空間に存在するものを絡め取る、貪欲さ。


「螺旋」

言葉を放ったと同時に、俺の手の平から漆黒の風が立ち昇る。細かな粒子の黒煙が渦となり、ぶわっと俺たち4人の周りを囲った。


「……何度見ても、すごいね……。」

上のほうを見上げたリュイが感嘆の声を上げる。先ほどまで俺たちに向かっていた金属の鱗が、黒色の粒子の波の中で滞留するようにゆっくりと動いていた。

黒煙の螺旋の中に、いくつものオリハルコンリザードの鱗が光を反射しながら、ゆっくりと光を反射して煌めいていた。


「……集約」

蠢いていた螺旋が、今度は俺の手の中に巻き戻るように素早く動く。そのまま俺が腰に付け、蓋を開けた状態のマジックバッグへと向かった。

しゅるりと黒色の渦が、マジックバッグに納まっていく。


今戦闘しているオリハルコンリザードの体長が、かなり大きいためだろう。1度に鱗を10枚は回収で来たんじゃないか?


「うりゃっ!!」

鱗攻撃をした直後は、オリハルコンリザードの動きがほんの少し鈍くなる。その隙を見逃さない。


ガゼットは気合いの声とともに、長剣を構えて地面を蹴っていた。リュイに射貫かれた左目の死角を利用して、素早く左側へと移動する。


踏ん張っている前足の後方へと回ると、前足の後ろ部分を長剣で斬りつける。

そこはちょうど、関節の後ろ部分。鎧と鎧の隙間を、ガゼットは見極めて魔物の肉を切り裂いた。強固な鎧の隙間から緑色の鮮血が飛ぶ。


グギィャャャャッァァアー!!!

再び、オリハルコンリザードの悲鳴が上がった。
左前足を膝折り体勢を崩す巨体の右側を、素早くソルが駆け抜ける。


「……燃えろ!!」

長剣に紅蓮の炎を纏わせると、後ろ足へと剣を降り降ろす。鎧が炎の熱で解け脆くなり、打ち砕かれて隠されていた肉に大きな切傷が刻まれる。


ソルは武器強化の魔法と同時に、火魔法の温度をマグマほどまでに上げて攻撃をしたようだ。

前足と後足を1本ずつ攻撃され、オリハルコンリザードは身動きが取れなくなる。ソルはさらに、腹部、長い尾と斬りつけオリハルコンリザードの体力を削いでいった。


もはや、此方の勝利は近い。


黄色の獰猛な瞳が、ギラっと怪しく光った。オリハルコンリザードが、ぶるっと大きく身体を震えさせる。巨体の魔力が肥大していくのが分かった。


全身に生えている金属の鱗が、ギシギシっと不穏な音を立てて直角に逆立っていく。先ほどしまった頭部のヒダが、ヒクリ、ヒクリと動いていた。


……最後に、何か仕掛ける気か。

右目だけとなった目が、カッと見開かれた。


キギャァァァァー!!!!


「っ!!結界!!」

頭部のヒダがバッ!と開かれたと同時に、逆立っていた全身の鱗が四方八方へと弾丸のごとく発射される。


闇魔法で4人全員に防御結界を作り、金属片の降り注ぐ雨を耐え忍ぶ。その鱗の数はかなり多く、攻撃を放ったオリハルコンリザード自体の隠された肌が露出するほどだ。


俺は先ほどと同じく、闇魔法で黒色の螺旋を空間に放った。金属の鱗を黒色の粒子が飲み込んでいく。鋭利な鱗の雨が止んだ瞬間を見計らって、結界を解く。


「僕に任せて!」

上に向かって弓を構えたリュイが、力強く皆に伝える。
弓に番えた矢は氷。水魔法の濃い青色の魔力を、ゆらゆらと纏っている。

番えられている本数は10本ほど。10本の矢を、リュイは一度に上空へと放った。

ヒュンっ!と風切り音が鳴る。


「氷流星!!」

上に向かって放たれた氷の弓矢は、オリハルコンリザードの巨体の真上でキンッ!と甲高い音を立てると、空中に霜柱に似た鋭利な氷の花を幾つも咲かせる。

そこから、次々と氷柱がヒュンっ!ヒュンっ!と音を立ててオリハルコンリザードへと降り注いだ。


鱗を失ったオリハルコンリザードの柔らかな皮膚を、氷の矢が襲う。巨体にいくつもの氷が突き刺さると、とうとうオリハルコンリザードはぐらりと身体を前に傾けた。


大きな音とともに、地面が揺れて土埃が舞う。
見開かれた黄色の目の光が失われ、オリハルコンリザードが絶命した。


「……すごいな、リュイ。一度に何本も矢を放てるのか。」

武装を解きながら、俺はリュイの肩をポンと叩いて労った。


「練習したらできるようになったんだ。……本数はもっと多くもできるよ?」

そう言ったリュイは、何とも頼もしい。普弓術に関しては、本人もかなり自信がついたようだ。普段の温厚で気弱そうにしている少年の面影はなく、冷静に標的を狙う狙撃手の顔をしている。


全員で手分けして、倒したオリハルコンリザードから素材を入手する。鱗だけでなく、牙や爪も、素材として売れるのだ。肉は煮て食べると美味しいらしい。


「……この肉で、なんか料理を作ろうかな……。」

「っ!!」

前にトカゲに似たモンスターの肉を食べたけど、少し固めな牛肉って感じだった。ビーフシチューもどきとか、美味しくできるかも……。


ブツブツと呟いていた独り言を、ソルは聞いていたようだ。おもむろに、ソルが耳元まで顔を寄せて囁いた。


「……ヒズミ、オレにも作ってほしいな……。また、ヒズミの手料理食べたい……。お願い……。」


ほんのり頬を赤らめて、ソルが期待の目を俺に向ける。琥珀色の瞳をうるっと潤ませての、上目遣い。金髪のくせっ毛がふるりと揺らし、首を傾ける。


美形のソルの全力おねだりに、俺はパキューンッ!と胸を撃たれた。カッコいいのに、可愛いさをチラッと見せるとか、ずるいだろ!


そんなイケメンが、可愛くおねだりするんじゃありません!
俺だけじゃなくて、女の子とか、下手したら男の子もギャップに胸を貫かれるだろう。
……心臓に悪い。


「っ!!……うん、もちろん。今度な?」


俺の返事に、ソルは目に喜びの色を素直に浮かべて、嬉しそうに微笑んだ。


今の戦闘で、鱗が20枚以上取れた。目標を達成したため、早々に俺たちはダンジョンを出る。すぐに近くの鍛冶屋へと、俺たちは足を進めた。



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