47 / 201
第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう
光るキノコの洞窟、金属トカゲとの戦闘開始
しおりを挟む「冷たっ!」
ビクッと身体を窄めたガゼットの、驚いた声が洞窟内に響き渡る。
天井から伸びる氷柱のような鍾乳石から、ピチャンっ、ピチャンっと水滴の滴る音が不規則に響く。湿りを帯びて、籠った空気の独特なカビ臭さが洞窟内を満たしていた。
「光るキノコは食べるとお腹壊すって、母様が良くいってたなー。」
洞窟を進む中、のんびりとリュイがそんなことを言う。
ポコポコと光るシメジのようなキノコが壁や床に繁殖していて、これが明り代わりに青白く光っている。まん丸で触ると光る胞子を出して、ぽよよんっと跳ねるのが見ていて楽しい。
ガゼットがリュイに、「リュイは小さいとき、食べようとしてたもんな……。」と懐かしげに笑っている。
「……ヒズミ、ルクスキノコ気に入ったの?何個か持ち帰ろうか?」
ソルが岩肌に生えている光るキノコを指差して、短剣を片手に聞いてくる。
「そうしようかな……。」
いや、こんなに綺麗に光るキノコなんて初めて見たから……。それに、動きが生きてるみたいな、バネ張りにぼよよんっと動くのでついつい指で突っついて進んでいたのだ。
俺が時折、指で光るキノコを突いていたのを、皆が生暖かい目で見ていたようだ。
床や天井、壁の岩肌には、時折りキラキラとした粉末が混ざる。暗い洞窟内に星が散っているように見えて、夜空を歩いているような感覚になる。
「意外にヒズミって、可愛いモノ好きだよなー。部屋にいるモモンガも、随分可愛がってるし?」
ガゼットに言われ、確かに可愛いモノやモフモフが好きだよなー、と自分でも思い当たる。
あの日を境に、モモンガは俺の部屋に度々遊びに来るようになったのだ。図書棟に朝連れて帰って、結果的にモモンガを勝手に連れ出してしまったことを怒られると思ったのだが……。
司書さんには驚かれたものの、『おや、モモンガが別荘を見つけたみたいですね?』と、ぽやんとした感じで返された。
『モモンガたちは自由行動です。お手伝いも木の実が欲しいときに、気まぐれにします。基本的な巣穴はここですが、学園内であれば好きに行動して良いことになっています。』
なんて緩いお手伝い。
一度だけ、モモンガが全員働かなかった日があるらしい。その日は図書棟を休館して職員も休みになったとか。
あまり巣穴を離れることはないそうだが、たまに学園内を散歩するモモンガはいるらしい。モモンガの居場所は腕輪で分かるようで、お手伝いをしたかどうかも腕輪に記録されるのだそうだ。
数日おきに、時には毎日俺の部屋を訪れてくれるようになったため、司書さんからはリンゴの形をした巣箱を貰った。
赤いリンゴに丸い穴が開いていて、そこに入ってモモンガは眠る。リンゴの中に入って寝る姿は、悶絶するほどに可愛い。
そんな他愛も無い話をしていた中、感知のセンサーに反応がある。まだ距離はあるが、構えておいたほうが良い。
「……もうすぐ、オリハルコンリザードに辿り着く。」
ここからは声を抑え、気配をなるべく消す。俺の言葉にゴクリっと、ガゼットとリュイが喉を鳴らした。魔物と対峙するときは、いつだって油断してはいけない。
降ろしていた武器を全員が構える。
ゆっくりと足音を立てない様に、洞窟内を進んでいくとやや明るい光が洞窟内を照らし始める。どうやら、開けた場所が近づいているようだ。
「まずは、逃げられない様に囲い込む。……そこからは、焦らずに攻撃しよう。」
俺が配った音声伝達の魔法を付与した紙で、皆に言葉を伝える。
ただの紙に、魔力を込めたインクで魔法陣を描いたのだ。言葉を伝達するための魔道具はあるが、中々に高価で手は出せない。これはその代わりである。
日本の護符にヒントを得て作ってみた。
……中二病だな、とかは傷つくので言わないでほしい……。
伝達魔法での言葉に、皆が音を出さない様に無言で頷く。俺たちは明るさの元へと近づいて行った。
はるか上空に、歪な円を描いて開いた小さな穴。この明るさの正体は、曇天を映しているこの穴なのだろう。そこから降り注ぐ仄暗い光を一身に浴びて、魔物は身体を丸めて目を閉じていた。
「……さっきのやつよりも、かなりデカいな……。2倍はあるんじゃね?」
銀とも、玉虫色とも形容しがたい。
銀の中に薄い緑色を反射させる身体は、鉤爪のような鋭く尖った鱗が幾重にも隙間なく重なり、強固な自然の鎧と化している。
尻尾までも鎧に覆われているが、硬い見た目と違って良く撓っている。身体に長い尻尾を巻き付け、オリハルコンリザードは洞窟の中でスースーと寝息を立てて眠っていた。
……今のうちに、退路を塞ぐ。
全員に目だけで合図を送り、俺は練り上げた魔力を洞窟内に放った。薄紫色の小さな6角形が床や壁、地面を覆いつくす。やがて天井近くまで伸びると、穴を完全に塞いだ。
半透明だから光を遮らないで済んだ。闇魔法の強固なタイルで、この空間全てを覆う。
隠蔽を掛けたおかげか、未だにオリハルコンリザードは硬い金属に覆われた瞼を閉じている。
先手必勝といこう。
片膝を地面に着いて弓を構えていたリュイが、一瞬にして魔法で赤色の弓矢を作り出す。
ピクッとオリハルコンリザードの巨体が、魔法の気配に動き出した。重い瞼をバチっと音がなるほどに持ち上げる。黄色の目に縦長の黒色の瞳孔から、此方を射貫かんばかりの殺気が放たれた。
灼熱の矢を作り出し、リュイは素早く矢を引き絞って手を離す。
ヒュンっ!
疾風の速さで、赤色の弓矢がオリハルコンリザードの左目に突き刺さる。
ギィギャヤアアァァァー!!!
地面を揺るがすほどの悲鳴を上げて、苦しさにオリハルコンリザードがのたうち回る。太い尻尾を地面に打ち付け、ドシン!ドシン!と地面が上下に跳ね岩がぐらぐらと崩れた。
巨体が動くたびに、ギシギシっと金属が軋む音が洞窟内に木霊する。
前足を踏ん張りワニのように上に大きく口を開け、身体に響く怒りの咆哮を俺たちに放つ。岩をもかみ砕かんとする硬い顎が地面を擦った。
「うるせぇ!!」
悪態をつくながら、ガゼットが長剣の切っ先をオリハルコンリザードに向ける。
巨体の足元から、スルスルと太い植物のツタが生えはじめ、咆哮を上げていた大きな口を閉じさせるように絡みつく。ツタを振り払おうと首を大きく左右に振り回すが、藻掻くほどギチギチと音を立てて拘束を強めた。
口への拘束が解けないと分かると、オリハルコンリザードは鼻息を荒くして大きく息を吸いこんだ。鱗の鎧が空気を含んだように逆立ち、身体が膨らむ。
いよいよ、来るかっ!
巨大な金属のトカゲが、太い前足を持ち上げて、宙へと身体を持ち上げた。
閉じていた顔周りの襟巻状のヒダが、一斉にバッ!と開く。ギシャギシャっと耳に障る金属が擦れ合う不快音とともに、左右に鉄扇が勢いよく開かせた。
地面にどしーんっ!と前足を着いた瞬間、金属の巨大な鱗が俺たちに切っ先を向けて一斉に放たれる。
152
お気に入りに追加
6,044
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる