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第3章 学園に通うのは、勇者だけで良いはずです

ソルの手合わせ、やっぱり少し本気出された

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上下左右から、炎の弓矢がソル目掛けて迫る。

ソルは、土の塔をビュンビュンっと移り飛びながら、四方八方から迫る弓矢を避けつつ、魔力を練り上げていった。そして、一つの塔の上で動きを止める。

動きを止めた標的へ、一斉に炎の弓矢が襲う。


「はっ!!」

ソルの気合の声とともに、魔力がぶわっと放たれる。
ソルの身体全体を覆うように、足元から透明な水柱がバシャバシャっ!と勢いよく爆ぜ出た。

ソルを中心に円を描いた、流動する太い水飛沫。全方位から降り注ぐ炎の弓矢が、水の流れる繭に激突する。


ドォオオオオーーンっ!!!


身体を地面ごと揺らす爆音に、服を翻す爆風が土を巻き上げる。凄まじい風圧に、とっさに目の前に手を翳す。土埃と白色の霞みが視界を覆った。


水蒸気爆発だな……。
水は、突然とてつもない高温のモノに触れると一気に蒸発する。その蒸発の力は凄まじく、正しく爆発が起こるのだ。


「うーん……。見えない!」

ジェイド副騎士団長の、水蒸気に覆われた様子を楽しそうに話す声が聞こえた。ソルはこの霞みの中に、姿と気配を消して潜んでいるようだ。


ヒュンッ。


小さな風切り音が聞こえた直後、金色の長剣に3連の光の輪を纏わせたソルが、ジェイド副騎士団長の目と鼻の先に現れる。


「……武器強化魔法だな。」

ヴィンセント騎士団長が、ぽつりと呟く声が聞こえた。


ジェイド副騎士団長の右側に躍り出たソルは、長剣を後ろへと引き、右胸に向けて切っ先を勢いよく突き出す。

正面を向いたままのジェイド副騎士団長に、ソルの切っ先が届いたように思えた。


カキィィィインッ!!……ドゴッ!

激しい金属の衝突音とともに、金色の光がキラッと白色の宙へと舞った。続いて聞こえたのは、勢いよく肉同士がぶつかる打撃音。

ヒュンヒュンと回転したような音が響いたかと思うと、地面を金色が滑っていく。


「ぐっ……!!!」

しばらくして霞が薄まると、腹に手を当てて膝立ちになっているソルが見えた。そのゴクリと鳴る喉元に、鈍色の鋭利な切っ先をピタッと突きつけられている。


「……へえ。最後の俺の蹴りも防御したんだね。本当なら気絶して倒れてもおかしくないんだけど……。」

ソルに切っ先を当て、見下ろしている翡翠の瞳は、笑いながらも冷酷に敵を見据えていた。怖いくらい鋭利な殺気の余韻が、瞳の奥に残っている。


「そこまで!!」

アトリの制止の声が、訓練場内に響き渡った。
その声を合図に、ジェイド副騎士団長がソルから切っ先を降ろす。翡翠の瞳から殺気を消すと、ソルの右横から脇に手を差し入れて肩を貸していた。


「……ごめんね?結構本気で蹴ったから、痛かったでしょ?……いやー、想像以上にやるからさー。思わずね……?」

そんなことを宣いながら、ソルを見学席のベンチへと座らせる。


最後にソルが繰り出した攻撃を、息をする間もないほど素早く長剣を返して、ジェイド副騎士団長が剣で受け止めていた。

それと同時に、ソルの剣を絡め取り宙へと飛ばし、ソルの腹部へと膝蹴りを喰らわせたのだ。ソルは直前で防御魔法を腹部に展開したが、魔法を纏った膝蹴りはダメージが大きかった。


「……ありがとうございました……。」

ソルはアトリからポーションを貰い、一気に中身を煽った。悔しそうに顔を歪めながら、ジェイド副騎士団長に手合わせのお礼を言う。


「……ソル、大丈夫か……?」

心配になってソルのもとへ駆け寄る。ソルは俺を心配させないように、努めて明るく言葉を紡いだ。


「……大丈夫、もうどこも痛くないよ。……それより、ヒズミも頑張って。応援してる。」

そう言って微笑んだソルに、俺は強く頷いた。


俺は別に、学園とは関係がない。
俺はこのゲームの中で既に死んでいる設定の、ソルの幼馴染みだ。スタンピードを無事乗り越えたなら、居ても、居なくても変わらないキャラクターだろう。


だけど、ソルの雄姿を見た俺は、感動と興奮で心が沸き立っていた。ソルの驚くほどの成長ぶりも、すこぶる嬉しい。

ぎこちなかった戦闘が、この短期間の間に全く別次元のものへと変化している。なにより、格上の敵だというのに臆することなく全力をぶつけたソルは、とてもカッコよかった。


……ここは、ソルを見習って俺も全力を出す場面だろう。


「……ヒズミ、準備は良いか?」

黒色の騎士服を着た、長身の美丈夫が、鷹を思わせる切れ長の目でひたっと俺を見据えた。


「……もちろんです。」


アイスブルーの冷淡な眼差しを、俺は見つめ返した。




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