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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)
冒険開始(フレイside)
しおりを挟むそれからは、俺たちは依頼を凄まじい勢いでこなした。
移動の足として、護衛依頼を受けて各々の街についたらダンジョンに潜る。ダンジョン関係の依頼をこなしながら、周辺の魔物討伐依頼も受けた。
Cランクの冒険者つうのは、一番使い勝手がいいんだ。
Bランク以上だと値が張る。かといって、Cランク未満の冒険者は腕っぷしが頼りない。だから、必然的に中間のランクに依頼が増える。
まあ、それも見込んでパーティーを組んだ訳だが。カリエンタのレベル上げに、ちょうど良いからな。
カリエンタも懐かしそうに、それは面白そうに嬉々として依頼を受けていた。俺も久々に、選り好みをしないで依頼を受けて新鮮だった。
薬草の採取はお手の物。低ランクの冒険者が請け負う、街の困りごとも解決した。
ある町で受けた、迷い猫の捜索依頼のときは、すごかった。
「うおーい!全員起きろー!」
町の高台にある丘から、カリエンタがそう大声を出した。火精霊たちに号令をかける。
すると、紅い炎の小さな光たちが一斉に、建物の屋根の上、つまり町の空へと浮上した。一気に町の上に、小さな赤い彗星たちが現れたのは圧巻だった。
ふわりと浮いた精霊たちは、カリエンタに「猫はどこにいる?」と聞いて、ものの30秒で見つかった。
ちなみに猫は、町の隅っこにある空き地にいた。土管の中で、怯えて震えていた。随分と遠くまで行って、疲れて眠ったまま、帰り道が分からなくなったらしい。
火精霊たちが、カリエンタに教えてくれたそうだ。
カリエンタの武器は槍。鋭く尖った赤色の金属に、金色の柄。金色もただのメッキではなく、星のように美しい黄金。
しなやかに動く身体に、槍を突くスピードは鋭い。槍はそこそこの重量があるのに、風を切って片手で軽々と戦うのだ。勇ましく、それでいて繊細な槍裁き。
気まぐれに炎を纏わせて戦う姿は、やはり炎の化身。
言葉を失うほどに美しく、荘厳だった。
魔獣を槍一つで仕留めるカリエンタの姿に、どうやら惚れたヤツもいたようだ。護衛依頼を受けた商人からは、専属護衛として働かないかと口説かれている姿を度々目撃した。
カリエンタはことごとく断っていたが。
カリエンタの容姿は、なかなかに目立つ。
灼熱の炎思わせる艶のある赤髪、美しい炎の瞳、一見近寄りがたい雰囲気があるが、話すと気さくで人懐っこい。年上に可愛がられるタイプと言えば分かりやすいだろうか。
酒場でも、他の冒険者に声を掛けられることも多い。俺が近くにいると気が付くと、黙ることが多いが……。席を立った隙を狙って、声を掛けてくる男女の多さよ。
カリエンタもカリエンタで、人間との会話を楽しんでいる節がある。柄の悪い奴らは相手にしないが、気前の良いヤツからはちゃっかりと酒を奢って貰ったりしている。
俺以外と仲良くしてんのは、些か面白くねえ。
……仕方ねえか。俺は何も言えてねえからな。
年甲斐にもなく、俺はだいぶ手をこまねいていた。
相手は、あの精霊様だ。
一緒に旅をしていること自体、奇跡なのだ。
もし、俺がカリエンタの機嫌を損ねれば最後、二度とお目にかかることはできない。怖気づいている自分に、嫌気がさす。
……ガキかよ、俺は。
そして、俺たちは今、ダンジョンの扉の前に来ていた。
このダンジョンは、『海底遺跡』と呼ばれている。実際に水に浸かっているわけではない。ただ、出てくる魔獣が海に住むものばかり。
ダンジョンは下層に行くほど、魔獣の強さも上がっていく。ここは10階層と比較的階層は少ないが、下級冒険者が行けるのはせいぜい2階層まで。それ以上は、Bクラス以上だ。
そして、最下層は未だに攻略されていない。
俺はこのダンジョンに初めて潜る。いつも油断はしていないが、この時ばかりはかなり慎重に準備をした。
ココに来た目的はただ一つ。
それも酒関連のな。
そして、目的達成のためには、最下層のボスを倒さなければならない。
まあ、俺は強者を相手にするのも楽しいんだが。久々に滾る。依頼以外に、自分で好きなように狩りが出来ることに、血が騒ぐ。
「行くか。」
「おう。」
『海底遺跡』の入り口がある場所は、草原。着く抜ける程の青空。そよそよと茂る一面の若草色。踏みしめる度に、柔らかく包み込むような感触。
そんな、風が吹き抜ける壮大な草原に、違和感しかない木製の扉がぽつんと佇む。扉の前と後ろには、何もない。ただ、木製の古びた片開扉が佇んでいる。
『海底遺跡』なのに入り口は草原にあるとか、ダンジョン作ったヤツは一体どうなってんだ?
カラカラと笑いながら、カリエンタはキイーと音を立て、ドアノブを回して扉を開けた。
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