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番外編(武道大会の舞台裏)
戦闘中の煩悩 (スフェンside)
しおりを挟む私の得意とするのは、雷魔法。吹雪に囲われた中でも、火魔法とは違い発動できる。魔力を練り電流を発生させる。吹雪の渦を逆に利用して、嵐のように雷を風に纏わせた。
蒼色の刃体に、切る部分は金色の長剣。邪神を倒すために、聖剣となった強き剣。
上に構えて、電流をさらに強くして集約する。
腹に響くような、雷が集まる音。不穏に金色に光る白き渦。
確か、北のほうでは雪が降るなかでも、雷が落ちると言う不思議な現象が起こると聞いた。自然の猛威とも言える、それは……。
「雷雪(らいせつ)。」
白と銀、そして金色の稲光が走る渦の中、私は剣を振り下ろした。渦を拡大するかのように、突風が一気に渦状に吹き荒れる。白い床と化していた雪は一気に宙に舞い踊り、降り注いでいた雪は、疾風に煽れて斜めに叩きつける。
バチバチと雷たちがひしめき合い、とうとう耐えきれずに地面に落ちた。
眩しい稲光を、闘技場に落としていく。地面を揺さぶる轟音が、けたたましく続いた。ミカゲは『感知』によって回避し、闘技場内を駆け巡っている。
私は地上に降り立つと、長剣に光魔法を纏わせる。光粒子が長剣を金色に光らせた瞬間、長剣を横に払った。
光魔法で波動を放つ。扇状に広がった衝撃波がミカゲに壁となって押し寄せる。この闘技場内に、逃げ道などない。
「ぐっ!」
ミカゲが呻き声を上げながら、落雷から逃れている。もうすぐ、ミカゲに光の衝撃波が届くはずだ。
さあ、どう防ぐ?
闘技場の壁際まで走り抜けたミカゲは、勢いを使たまま壁を蹴った。素早く氷魔法で空中に足場を作り出す。そのまま、いくつもの氷の床が作り出される。
「……すごい…。浮いているみたいだ。」
宙にいるミカゲを見上げていた観客が、思わずといったように呟いた。
「氷剣!」
ミカゲの周囲に氷でできた複数の剣が浮いた。こちらに剣の切っ先を向けて、一斉にミカゲが氷の剣を放つ。氷の矢よりも質量が重く、より鋭くなっている剣。私はいつもより強固な光魔法の防御結界を上に施して、それを防いだ。
「……これくらいなら、まだ……。」
このくらいの衝撃であれば、防御結界も持ちこたえれる。
……そんな考えは、甘かったのだろう。
防御結界越しに、ミカゲが動き出したのが見えた。氷剣を放ってすぐに、軽やかに宙を舞う。
ミカゲは自分の頭上にも氷を作り出すと、氷の床を蹴って宙返りをした。頭上の氷へと足を着くと、ぐっと膝を曲げた。そのまま、風魔法でブーストを駆けて急降下してくる。
「っ?!なっ?!」
白雪の髪が靡き、額が露わになっている。その降下するスピードが凄まじいことを語っていた。ミカゲは左手を前に出し、剣の切っ先をこちらに向けた。剣が白色へと変わり、3連の氷の輪が剣を囲うように現れる。
キンッ。キンッ。キンッ。
冷気が鋭くなっていく音。その音に合わせて、ミカゲが防御結界へと降下する。氷の輪は大きくなり、魔力が格段に上がる。
「貫け!!」
ミカゲはそう叫ぶと、防御結界に剣を突きたてた。
パリンッ!!
「なっ?!」
防御結界の中でも最上級と言われている光魔法の結界が、ガラスのように砕け散る。見事に割れた光の破片が、そこっかしこに散らばった。
これでも、硬度をさらに上げていたんだぞ?!
言葉通りに貫かれ、激突した衝撃で冷気が爆発した。視界が一瞬にして真っ白になると、地面は雪深い白の世界に変わる。先ほどよりも、さらに雪が降り積もり、足場が悪くなった。
ヒュンっ。
「っ!」
僅かな風切り音と共に、銀色の光が一閃。長剣を構えて、ミカゲの巧みな剣撃を受け止める。素早く繰り出される切っ先、しなやかに動き、時には足で蹴りさえも繰り出してくる。
くそっ。こちらに魔法を出す暇も与えてくれないのか!
息が荒くなり、吐いた息が白色に変わる。
こんな本気の戦闘は、久々だ。
それを、ミカゲとするとは思わなかったが!!
慣れない雪の足場は、踏みしめる度に沈む。体重移動が上手くいかず、僅かに体勢を崩したところに、ミカゲが突っ込んできた。
「ぐっ!」
真正面から振り下ろされたミカゲの攻撃を受け止め、剣が交わった。ミカゲの美しい額からも、一筋の汗が流れているのが見える。体力も魔力も、お互いが限界に近い。お互いが力で押し合い、隙を窺がう。
ギシギシと、鍔が軋んで鋭い刃が擦れる。
ミカゲの顔が間近に迫り、私の頭にはふと、悪魔が降り立った。
こんな戦闘の最中で、自分でもどうかしている。
刃を食いしばって耐えている身体とは違い、
心はなんとも呑気に、
目の前の愛しい人の顔に見惚れていた。
……ああ、自分の言葉で。
この愛しい人の顔が、どんな風に愛らしく変わるのか、
どうしても見たい。
そんな、なんとも子供っぽい、悪戯心だ。
「……ミカゲは、私にどんなお願いをするんだ?」
「……??」
戦闘中だと言うのに、何を言っているんだと、ミカゲの宵闇色の目は問いかけてきた。
訝し気にしながらも、普段の訓練の成果からか、全く動揺していない。臨戦態勢のまま、ミカゲは目で私に会話の続きを促す。
「……私の願いは、ここで……。」
ミシミシと、まだお互いに力を入れたまま、剣は交わっている。力は決して抜かず、そして、ミカゲの表情の一挙一動を見逃すまいと、愛しい人を見つめる。
次の言葉を聞いたら、ミカゲはどんな顔をするだろう?
きっと、私がこんな下卑た願いをするなどとは、
考えもしていないだろう。
「……ミカゲに、キスをしたい。」
鍔迫り合いをしている最中、真剣が交わるのとは対照的な。
耳に低く、ミカゲの鼓膜を甘美に揺さぶるように。
閨をわざと思い出すように、しっとりと妖艶に甘えた。
「っ?!?!!」
隙あり。
カキンッ!!
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