不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編(エリオットside)

手紙とフォリアと僕(エリオットside)

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(エリオットside)


僕の起きている時間は、日に日に短くなっていった。
すぐに疲れて眠ってしまうんだ。でも、お医者さんから貰った薬のおかげで、あの身体が溶かされるような、変な痛みは感じなくなった。


夢の中でお願いしていた、お菓子と木の実は、ミカゲさんから孤児院に贈り物として届けられた。皆喜んで食べてくれて、僕も嬉しかった。


悪夢は、とても楽しい夢に変わって、
眠るのが怖くなくなったんだ。


その日の夢は少し変わっていた。
今日の景色は、今まででも見たことがない。

綺麗な青白い満月が浮かんでいて、干し草みたいないい匂いのする、床だった。天井が少し低いけど、落ち着いた雰囲気の静かな部屋だ。


綺麗な格子模様の引き戸が空いていて、満月の光が部屋の中に入ってきている。その先には木の床が続いて、すぐに外と繋がっているみたいだった。


「……おう、なんだ?坊主、迷子か??」


木の床には、男の人が片膝を立てて座っていた。


ミカゲさんに似た肌の色に、真っ白な髪。
黒色なのに蒼くも見える不思議な目。
長い髪は項辺りで結んでいて、蒼い紐で一括りにしていた。


見たことも無い、前で襟が重なった服に、長い袖。太い紐みたいなのを、腰に結んでいる。バスローブみたいにも見えるけど、それよりも裾が長い。紺色がよく似合う人だ。


片膝を立てて床に座っている男の人は、僕たちのほうへ振り返ると、面白いとばかりにニヤリっと笑った。


『……こっちにおいで。今日は、月が綺麗だぞ。』

僕とフォリアは、男の人の隣に座った。外に繋がっている床は、地面より高い位置にあった。僕は足をプラプラさせて、その床のふちに座った。


床にはお盆が置いてあって、その上には取っ手のないコップに、緑色の温かい液体が入っていた。男の人が言うには、緑色の液体はお茶なんだって。


お茶はなんだか、飲んだことのない、渋くて不思議な味だった。


お盆には、他にも細い木の棒が4本置いてある、お皿が載っていた。不思議に思ってその木の棒を見ていると、男の人はクスっと笑った後に、月を見上げた。


『おっ。来た来た。』

僕も男の人のまねをして、月を見てぼうっとしていると、トトトトっ、て月から急いで何かが走って来たんだ。

よく目を凝らしてみると、白色のラパンが月を背にして駆けて来た。男の人と同じような服をきたラパンは、人間みたいに二本足で立っている。


『道満、お待たせ。今日の『オモチ(御餅)』は最高の出来だよ!さあ、お酒と交換だぞ!』


ラパンがしゃべった。もう、夢の中だから驚かない。
なんでもアリだもん。


ラパンは背中に背負った大きな布を、そっと床に置いた。


『おう。ありがとな。いい酒を用意しといたぞ。』

ドウマンって名前の男の人は、丸が2つ繋がったようなヘンテコな容器をラパンに渡していた。そしたら、ラパンはまたトトトトッっ、て月に返っていった。


『オモチ』って確か、ラディ―スとハーミットが言っていた、お菓子じゃなかったっけ?


ドウマンさんは、床に置かれた布の包みを開けた。そこには白色の小さな丸い何かがたくさん入っていた。


何個か、ドウマンさんはそれを手で摘まむと、お皿にあった木の棒に刺していく。4つずつ木の棒に刺して、丸が繋がったヘンテコな木の棒が出来た。


『坊主も食べてみろよ。美味いぞ。』

そのお菓子は『ダンゴ』って言うんだって。
『オモチ』を小さく丸めて、木の棒に刺したもの。


モチモチして面白い食感で、ほのかに甘くて美味しい。フォリアは、一つまん丸のオモチを貰って、ぱくって食べてた。


『……坊主、『付喪神』に愛させているなんて、すごいやつだな。……きっと、良いことをたくさんしたんだろうよ。』


そう言って、フォリアを膝の上に乗せたドウマンさんは、僕の頭を撫でてくれた。


……僕、ちゃんと良いこと出来たのかな?
……そうだと良いな。


『……父さんと、母さん、褒めてくれるかな……。』


僕が呟くと、ドウマンさんは少し目を見開いていた。でも、そのあと、くしゃくしゃと僕の髪をぐちゃぐちゃに撫でた。


『……きっと、褒めてくれるさ。こんなに、優しい坊主なんだから。』

ドウマンさんは、お土産にって小さな袋に『オモチ』を何個かくれた。『オモチ』は、僕の夢の中でしか食べられないから、早めに食べなさいって言われた。



僕は、もうベッドから起き上がることが、出来なくなった。

寝ている時間がさらに多くなっていて、僕はあることをしようと決心した。


もう一度、ラディ―スとハーミット達に会えないかなってお願いをして、眠りについたんだ。


『久しぶりだね。エリオット?どうしたの??』

『……どうしたんだ?エリオット?』


眠ると、この前ティーパーティーをした部屋に、僕とフォリアは辿り着いた。


「……実は、二人にお願いがあるんだ。」

お願いを聞いてもらうお礼として、二人に『オモチ』をあげたら、それは、それは、びっくりしていた。
二人とも顔を見合わせた後に、嬉しそうに受け取って食べてくれた。


『ああ、美味しかった。……エリオットのお願いって、なんだい?』

今なら、何でも聞いてあげるよって、ラディ―スとハーミットが言ってくれた。


だから、僕は自分のしたいことをお願いした。



なんだか、今日はとても眠い。
明日、ちゃんと起きられるかな……。


近くにフォリアがいるから、そっと撫でて、話をした。


「……フォリア、僕が死んだら、皆のことをお願いね……。」

僕がフォリアにそう言うと、フォリアは僕の顔に何度も頭突きをして、「ミヤア、ミャア」って鳴いた。
なんだか、『ずっと一緒に居るよ。』って、言われているみたいだった。


「……そっか。フォリアは僕と、ずっと一緒にいてくれるの?……すごく、嬉しい。」

フォリアとの夢の旅は、すごく楽しかった。見たこともない美しい景色に、不思議な体験。
全部、全部、フォリアのおかげだね。


もし、天国で両親に会えたら、フォリアとも一緒に住めるようにお話しなくちゃ。
皆で一緒に暮らしたら、もっと、もっと楽しいよ。


僕は、眠った。
笑顔の両親が僕を待っていて、
フォリアと一緒に僕を抱きしめてくれたんだ。


『頑張ったね』って、いっぱい褒めてくれた。



翌日の朝。
エリオットという13歳の心優しい少年は、穏やかな微笑みとともに永遠の眠りについた。

麻薬の禁断症状である、痛みや悪夢に苛まれることなく、安らかな最後だったそうだ。少年と一緒に居た白色の猫は、その日を境に見かけなくなった。


エリオットの眠ったベッドの近くには、小さな引き出しの付いたチェストがあった。その引き出しを開けた、孤児院の院長は驚いたと言う。


そこには、孤児院の子供たちや院長、職員一人一人に宛てられた、手紙が入っていた。

エリオットは手紙を書くほどの体力は、残されていなかった。だから、どうやってその手紙を書いたか不思議でならなかったが、手紙には『夢の中で書いた』と書かれていたらしい。


・。・。・。・。・。・。・。・。・。・

院長へ

短い間だったけど、とてもお世話になりました。
この手紙を読んでいるときは、
きっと僕はこの世にはいません。

この手紙は、ラディ―スとハーミットって言う、夢の中で出会ったお友達に手伝ってもらって、書いたんだ。


病気の僕を、優しく看病してくれて、
手を握ってくれて嬉しかったです。


小さい子たちの面倒を見れなくて、ごめんなさい。

小さい子たちには、僕とフォリアが夢の中で、色々な人に貰った綺麗な宝物をあげるから、皆で仲良くするように言ってください。


僕はね。夢の中でフォリアと一緒に、いっぱい冒険をしたんだ。たくさんの人に会って、たくさんの思い出が出来た。


生きていて辛いことばかりだったけど、それを忘れるぐらい、この数か月はとても楽しかった。


だから、僕の楽しかった思い出を、
本当は皆にたくさん話したかった。

もっと、もっと、皆と一緒に遊んで、
一緒に居たかった。


でも、それはできないから。

だから、手紙に書いて皆に伝えることにしたんだ。
きっと、皆もわくわくしてくれると思う。


世界は広くて、素敵なことがたくさんあるよって、
皆に伝わると良いな。


院長、僕は、短い間だったけど、
孤児院に来て、とても幸せだったよ。
すごく、すごく、幸せだった。


いつまでも、長生きをして、元気でいてね。


心からの感謝を込めて。

エリオット

・。・。・。・。・。・。・。・。・。・


子供たちの手紙には、人魚の鱗や星の石、色々な宝石が入っていた。子供たちの人数分の10個。孤児院の子供たちは喧嘩をしないで、大切に手紙と一緒にしまった。


エリオットの手紙にあった、夢の中の冒険は、その後長きに渡って孤児院で言い伝えられる。

やがて国中にも広まって、心優しい少年と猫の冒険は本になり、国中で愛される物語になった。




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