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第八章 決戦

激闘の末

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頭部を射ぬ射ても、シユウは息絶えることがない。
シユウの4つ目がギョロリと鈍く光る。その目は怒りをこれでもかと露わにし、血走っている。


『……調子づくなよ、羽虫どもが!……死ね!!』


地を這う怒りの咆哮が木霊する。咆哮と同時に、シユウの右手の槍に赤黒い靄がまとわりつく。


シユウは槍を高らかに頭上に掲げると、空の色が変わった。槍の切っ先を中心に赤黒い雲が集まる。凄まじい勢いで魔力が集まり出していた。


シユウは一度宙に跳躍し、槍を振り回して地面へと突き刺す。そして、力任せにグンっと地面に槍を押し込んだ。地面に赤黒い波紋状の光が、一瞬で広がる。


地面から凄まじいエネルギーを感じた。先ほどのレーザービームのときと同じような、凝縮された魔力。

シユウに広範囲の全体魔法を仕掛けた。あの光を食らえばただではすまない。しかし、範囲が広すぎて逃げようがない。


まずい!


そう思ったときには、遅かった。

地面から円柱状に赤黒い光が出現する。天まで貫いたそれは、スフェンたちを巻き込み、空を飛んでいる俺も爆風で揺らめく。


ドオオォォォンッ、という地面が抉られ、削り取られる轟音が響いた。大気が震えてビリビリと重い。
やがて、赤黒い光の柱が消える。


…………皆は?


俺の中で大きな絶望が、生まれた。


……この攻撃を受けて、無事なはずが……。


あまりのことに、声が出ない。

こんなこと………。



「大丈夫だ。ミカゲ。」


穏やかな声に、ハッと思考が戻る。


土煙と塵が宙を霞のように覆っている。視界が晴れてから、半円型に抉られた地面が、黒い湖のように見えた。そして、その中心にはポツンとした島が見える。

不思議にも、そこだけ地面が抉られていない。


「……極限状態にならないと、加護が発動しないって……。鬼畜ですか……??」


ヴェスターの文句が聞こえてきた。抉られた地面に残った場所には、5人と一匹の姿。
5人の回りには、金色に光輝く5つの魔方陣が発動していた。精霊達が使用する、古代文字で描かれている。
全員の体も、うっすらと金色に光っていた。


「死ぬかと思いました。」

「マジでヤバかったな。」

「さすがのオレでも、寿命縮んだわー。」


ヒューズ、フレイ、ツェルが冷静に告げる。戯言を話しているけど、ヴェスターの身体をヒューズが庇うように固く抱き締めている。
本当に死を覚悟したんだろうな。

全員の無事に、詰まっていた息が漏れた。



「……反撃するぞ。」


スフェンが低く唸った。エメラルドの眼光が鋭くシユウを射抜く。スフェンの近くまでコマが駆け、スフェンがその黒色の背中に飛び乗った。


「「光の鎖」」

ヴェスターとヒューズが同時に言葉を発した。シユウのいる地面から光の鎖がスルスルと出てくる。左右の腕を絡めとり、雁字搦めにする。

シユウは腕を動かしてもがいたが、鎖はびくともしない。光のツタよりも更に強固な拘束で、シユウの動きが封じられる。


「「終炎」!」

今度はフレイとツェルが同時に呟く。
紫色の炎がシユウの左足から、全身へと広がっていく。鋼のように硬いシユウの身体が、炎に包まれ燃えて溶けていく。


左足の封印の陣に向けてコマが跳躍する。金色の刃が横一線で封印の陣を切った。緑色の血飛沫とともに、封印の陣が光出す。

両足を負傷したシユウの動きが、とたんに鈍くなる。俺はその隙を突いて、ヒスイにシユウの右前へと飛んでもらう。

右肩の封印の陣に矢を放った。シユウの右腕に握られていた大剣と槍が、地面に轟音を立てて落ちる。光がまた1つに増えた。


コマはスフェンを乗せて、屈折されたシユウの右足を台にして飛んだ。光の鎖を上へと駆けていく。一際大きく跳躍したかと思うと、スフェンの風魔法で一気に加速した。

その疾風の勢いのまま、左肩の封印の陣をスフェンが切りつける。陣に光が灯る。


『グギャァアアァアアーー!!』

シユウの耳を劈くような、異形の悲鳴が辺りに響き渡った。大気が大きく歪み、暗闇と赤黒い満月が支配する景色もぐにゃりと曲がる。


空間の歪みが落ち着くと、そこはステンドグラスが鮮やかな教皇の間。広間の真ん中に、先ほどの戦闘をしていたシユウが横たわっている。

巨体はもはや人間と同じくらいの大きさに変化し、弱体化していた。左足は溶け、両腕は未だに光の鎖で拘束され、地面に仰向けになっている。
シユウの浅黒い肌には、緑色の血とともに、各封印の陣は眩しい光を放っていた。


残る封印の陣は、心臓の一ヶ所のみ。


俺は日本刀を持ちながら、地面に縫い付けられているシユウに近づいた。

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