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第八章 決戦

邪神シユウ

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「……おのれ……。たかだか人間ごときが、『神』と名の付く我に、ここまで逆らうとは。無礼者が……。その身体、八つ裂きでは足りぬ。魂さえも裂いて消し去ってくれるは!」


低い、猛獣のような、凶悪のような呪詛が聞こえた。


剥がれ落ちていく醜い相貌。全てが崩れる前に、教皇が赤黒い結晶に包まれる。

こちらから、中の様子は伺えない。ただ、明らかに魔力の質が変化しているのを感じた。


禍々しい、怨念。
憎しみと卑劣、残酷さをひしひしと感じる。
醜い感情を全て凝縮して、凶悪にしたような魔力。


パリンッ!


結晶が、ガラスのような音を立てて割れた。鋭利な赤黒い色の破片が、キラキラと光を反射して零れていく。


姿を現したのは、魔物のような醜い生き物。
しかし、魔物をはるかに凌ぐ、凶悪さ。


5階建ての建物ほどの巨体。
人間など、とても小さく見える。

鍛え抜かれた人間のように、筋肉が隆起した赤黒い身体。しかし、人間とは明らかに身体の造りが違う。

その太い腕は6本もある。
右手に槍と大剣、左手に盾と斧。そのどれもが鮮やかな色彩で、古代中国を思わせる装飾がされていた。
武器の一つ一つが、巨体に合わせた大きさだった。

残り2本の手には、前で腕組みをしている。


頭部は牛で、上へと伸びる長い黒色の角を、頭上に2本生やしている。

印象的なのはその目だろうか。4つの目。
そのすべてが黒色の眼球に、血色の赤黒い瞳孔。
ギョロリと4つ目が動く様は、悪寒がするほど悍ましい。


口からは肉食獣のような、鋭利に尖った鋭い牙が生えていた。全身は肩から腰に掛けて銅の鎧に覆われ、兜を身に着けている。

さながら、昔の中国の軍人と言った服装か。

足は人間よりもさらに太く、鷲のように鋭い鉤爪を持つ。爪は黒く、鈍く光を反射していた。


グォオオォオオオーっ!!!!


空気が激しく震えるほどの、鳴り響く咆哮。牛の頭部から発せられる、威嚇と闘気。

その性格は凶悪、貪欲。そして残酷。


『邪神シユウ』が、姿を現した。


「なんと、醜い姿だ……。あれが、『神』だと……?」

スフェンが邪神シユウを見て、嫌悪するように顔を歪ませた。

シユウが、右手に持っていた大剣を、大きく振りかぶる。いつの間にか地面は、石畳に変わっていた。

上空から一気に地面まで大剣を叩きつけられる。硬い石の地面に亀裂が走り、瓦礫となって宙を舞った。

振り下ろされた地面から、放物線を描いてマグマが全方位に飛んだ。ドロリとしたマグマは、炎を燻らせる。マグマはしばらくの間滞留するようで、自然と足場が制限された。


大剣を右に回避したスフェンに、大きな槍の切っ先が迫りくる。その速度は、先ほどの非ではない。早すぎる。


「スフェン!!」

寸前のところで、黒狼のコマが鋭い鉤爪で、槍を持ったシユウの腕を押さえつけた。
そのまま、鋭い爪をシユウの肉に食い込ませ、腕に噛みつく。緑色の血が滴り落ちるが、一向にシユウの腕は嚙み千切れない。


『……硬いな。』

コマが噛り付いている左手を、シユウはブンっ!と後ろに薙ぎ払った。勢いでコマが後ろに飛ばされるが、地面にすとんと着地する。


『ミカゲ。あいつの身体、相当硬いよ。金属みたいだ。』

コマが口に含んでしまったシユウの血を、ぺっと地面に吐き出しながら念話してくる。


古い文献で、シユウの額は鋼のように硬いと記されていた。それは額だけでなく、どうやら全身が硬いということのようだ。


ヒューズが木魔法で地面から石の竜を出現させる。
龍はシユウの左手に向かい、盾を持った左腕に噛みついた。その噛みついた龍を、シユウの左手に握られた斧が、一刀両断する。

強固なはずの龍は簡単に砕け散った。


振り下ろされた斧の左手に向かって、ヒューズが風魔法で風の刃を当てる。しかし、かすり傷ほどしか、つけられていないようだ。


『痛くも痒くもない。』

シユウはそう言って嘲笑った。腕組みをしていた右の手の平が、こちらに向けられる。

魔力が圧縮されていき、赤い眩しい蛍光色の玉が現れた。手の平が押し出されると、赤黒い閃光が一閃になって放たれる。

レーザービームのような攻撃は、喰らえば重症だとすぐに分かった。


ツェルが双剣に紫の魔力を纏わせる。先ほど斧で切断された石の龍を足場に、シユウの腰付近まで近づく。そのまま素早い動きでシユウの左足と、心臓部分の鎧に刃を掠めた。


紫色の魔力はシユウの足の鎧と、心臓部分にあった鎧を、ジュゥウウウっと音を出して溶かしていく。

シユウの赤黒い肌が晒される。
そして、心臓部分に見えたのは、魔法陣。


いや、こちらの世界の魔法陣ではない。


五芒星と陰陽師が護符に使用する、独特の丸みを帯びた悉曇文字。
複雑な円には、たくさんの封印の言葉が刻まれていた。


あれは、封印の陣。
太古の陰陽師が残した、戦いの爪痕だった。



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