80 / 136
第七章 かの地に導かれて
教皇の間へ
しおりを挟む紅炎騎士団員に横抱きされていセラフィス枢機卿を、皇太子殿下は振り返る。
「……さて。……教皇の間とやらに、案内してもらおうか。」
幾分か呼吸が整ったセラフィス枢機卿は、俺たちの正面にある扉を指差した。その扉は、両開きで、やはり天井近くまで高さがある。
豪華な金色のゴテゴテと凝った装飾に、扉の中央には神殿のマークが金色で刻まれていた。
「あの扉の先に教皇の間があります……。この先は多くの魔物が待ち構えている……。」
なんでも、セラフィス枢機卿でさえ、教皇の間に入ったことは片手で足りる回数しかないらしい。そのたびに、魔物が蔓延る廊下を通っていたそうだ。
本来、人がいる建物内には魔物は生息しない。
おそらく、邪神シユウが創り出したか、呼び寄せた魔物だろう。教皇の間付近にいる魔物は、明らかに狂暴化している姿だと、セラフィス枢機卿が教えてくれた。
大広間の大きな扉を開き、俺たちは先へと進んだ。幅の広い長い廊下が続いている。
神殿本部内は白色で統一され、明るい印象のはずだが、邪気の黒い靄が周囲を漂い仄暗い。
魔道具のランプは点々と壁に設置されている。しかし、その明りも靄によって霞んでいた。
側面にガラス窓があるのに、陽光が全く入ってこない不気味な廊下。仄暗い闇に紛れて、グルルッと唸る声や、獲物を狙う荒い息遣いが聞こえてくる。
忍び足で足音を消しながら、こちらを探り、確実に近づいてくる気配がする。俺の『感知』には、至る所に魔物の反応が表示されていた。
「お前たちは魔力を温存しろ。……魔物は、俺たちが引き受ける。」
皇太子殿下の言葉に合わせて、紅炎騎士団員も俺たちに視線を向けて頷いてくれる。一緒に魔物討伐をした彼らの強さは、とても頼もしい。
俺たちパーティーを内側にして守り、外側を騎士団員達が守ってくれている。そして、何処からともなく、狼型の魔物が闇に紛れながら躍り出てきた。
異形の餓えた唸り声を聞きながら、廊下を駆ける。所々で騎士団員が剣をとり魔物と戦闘している。皇太子殿下が先頭で駆け、魔物を屠っていく。
「チッ。切りがねえな……。」
皇太子殿下は、おもむろに懐へと手を差し入れた。片手に収まる大きさの魔石に、鎖が巻かれた変わった魔道具を取り出している。
魔道具を持っていた皇太子殿下の手から、白金色の魔力が魔道具へと流れ込んでいった。
「全員伏せろ。」
そう言うが早いか、その魔道具を皇太子殿下が、前方にひょいっ、と下から軽く投げた。ちょうど、魔物達が蔓延っている廊下の地面に、魔道具が音を立てて落ちる。
ドゴォォォォオン!!
大気が震える凄まじい爆発音が響いた。それと同時に、眩しい閃光で視界が遮られる。衝撃がこちらにも伝わり、爆風が俺たちの服や髪を乱暴に翻す。
眩しさが止み目を開けると、前方にいた魔物が横になって倒れ、絶命していた。ビクビクと痙攣して、僅かに生きている魔物を見ると、ビリッと時折電気がその身体に流れているようだった。
「光魔法を流すと爆発して、電流が流れる爆発物だ。魔導師団長の特注品だぞ。」
なんと、魔導師団長は第二王子らしい。しかも、かなりの魔法オタクだと皇太子殿下に説明された。
「また、えげつないモノを渡されましたね……。」
スフェンが遠い目をしている。
皇太子殿下とスフェンは、よく第二王子から魔道具の試作品を渡されるらしい。光魔法があれば防御結界が張れるからだ。
ちなみに、魔力の消耗を抑える腕輪を作ったのも第二王子だそうだ。
皇太子殿下は、その爆発物と長剣を駆使しながら、廊下の奥へと進んでいく。騎士団員と皇太子殿下の攻撃で、魔物の数は確実に減らされ、やがて一匹もいなくなった。
俺たちパーティーメンバーは、全く手を出していない。
廊下の奥にある扉は、先ほどよりもさらに豪華だった。赤い艶のある木製の扉は、天井までの高さがあるのはもちろん、天使の彫刻が施され、宝石が散りばめられていた。花の彫刻は金で装飾されている。
神官は質素な生活を送るはずだが、この扉は明らかに贅の限りが尽くされていた。白磁のシンプルな壁に、過剰までに豪華な装飾の扉は、不釣り合いで醜い。
「……神官タグで開きます。皆さん、下がって。」
騎士団員に横抱きにされていたセラフィス枢機卿が、地面に降ろしてもらっていた。先ほどの先頭でヒビが入った神官タグを、騎士団員がセラフィス枢機卿に渡す。
セラフィス枢機卿は、神官タグを右手に持つと軽く額に当てた。そして、額に当てた神官タグを扉に嵌め込まれた宝石の1つに宛がう。その宝石は、扉に彫刻された花の一部だ。キラリと一瞬、宝石が光り輝いた。
ゴゴゴォォォっと言う音とともに、重厚な扉が独りでに内側に向かって開く。
「……ここが、教皇の間です。」
セラフィス枢機卿が、重々しく口を開いた。
45
お気に入りに追加
2,700
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞奨励賞、読んでくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる