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第七章 かの地に導かれて

自分色の宝石

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北の農村ゲレルドルプから、王都は馬で駆けて5日を要する。途中で野宿をしたり、村や街で宿に泊まりながら南下する予定だ。

農村ゲレルドルプを出発してから2日後の夕方、俺たちはルーセントという街に到着した。

旅人や商団が使う道沿いに街があるため、規模は小さな街だが賑わっていた。こじんまりとした木製の建物が多く、食堂兼宿屋がほとんどだ。
観光地ではなく、本当に旅の途中地点として、役割を担ってる街だとスフェンが言っていた。


今日はこの街にある宿に泊まる予定だ。冒険者ギルドでおすすめの宿を聞き、街の大通りから外れた静かな宿に泊まった。質素だが清潔感があり、食事と酒が美味しい。

この街では、必要な食料や物資を買い込む予定だ。少しだけ、街を散策してみようとスフェンが提案してくれた。出発は明後日だ。


そして、翌日、俺は皆と一緒に街の大通りを散策していた。街の広場では、流れの商人が街道で敷物を敷いて、自由に露店を開いている。


見たことも無い魔道具や、珍しい服、キレイな装飾品までたくさんの露店が所狭しと並んでいた。街の領主が、この広場では誰でも自由に商売をしていいと、許可しているそうだ。


興味深げに露店を見ていると、ふと、きらりと輝く石が目に留まる。その屋台の敷物の上には、魔石を使ったネックレスやブレスレットが売られていた。

どれも繊細で美しく、また男性でも付けられるようにシンプルなものもあった。その中の一つに、俺は惹きつけられる。


それは銀色の金属で装飾された、透明な宝石のペンダントトップだった。雫型にカットされた透明な宝石を、銀色の細い金属が二重に囲うシンプルなデザイン。大きさは親指の半分くらいだ。

ペンダントトップの上部分は、チェーンが通せるように輪になっていた。


「お客さん、お目が高いねえ。これは、魔力を注ぐと自分の色に染まる宝石さ。私の故郷では、自分の色に染まった魔石を大切な人に渡す風習がある。お守り代わりに持ち歩くんだよ。」


露店商の男性が説明してくれる。その男性はこの辺りでは見かけない、異国の服を身に纏っていた。
ゆったりとしたワンピースのような服に、ズボンを履いてウエストを紐で括っていた。その上から長いジレを着ている。


魔石に魔力付与するときは、付与した属性に合わせた色になるが、この宝石は注ぐ人の魔力によって色が変わるそうだ。


「……これを2つ貰えるだろうか?」

俺の隣にいたスフェンが、おもむろに露店商の男性に持ち掛けた。男性はスフェンから代金を受け取ると、透明な宝石のペンダントトップを差し出す。

2つのペンダントトップを受け取ったスフェンは、そのうちの一つを俺に渡した。


「……ミカゲの魔力が籠った宝石を私にくれないか?……私の宝石も、受け取ってほしい。」

スフェンに言われる前から、俺はそのつもりだった。


「……もちろん。実は、俺もスフェンに贈りたいと思っていたんだ。」

俺にとって大切な人は、スフェンだから。
俺も、スフェンの魔力が籠った宝石がほしかった。スフェンの魔力は、どんな色の宝石になるのだろうか。


「良かったら、ここで魔力を注いでくれんか?ワシは、宝石の色が変わる瞬間がすきなのさ。人それぞれ、魔力の色は違うから楽しくてのお。」

露店商の男性に言われ、俺たちはその場で宝石に魔力を注いだ。透明な宝石に液体が染み込むように、じわりと色が広がっていく。やがて、色の変化が落ち着いた。


「ミカゲ、私の宝石を受け取ってくれるか?」

俺の右手を、スフェンは恭しく左手で取り、右手でそっと宝石をおいた。スフェンの宝石は、瞳と同じ深緑色。透き通ったエメラルドに、よく見れば金色の細かな粒子が舞っていた。
粒子はエメラルドの中を、流れるように控えめに輝いている。


その宝石は、スフェンそのものに見えた。


「……ありがとう。すごく綺麗だ。俺の宝石も受け取ってほしい。」

今度は、俺がスフェンの右手を手にとって、宝石を手渡した。宝石を見たスフェンは、光に翳すと嬉しそうに笑った。


「これは、ミカゲそのものだな。美しく澄んでいて、強い。それでいて、月夜のように落ち着いた輝きだ。」

俺の魔力を注いだ宝石は、瞳の色に似た暗い蒼の宵闇色になった。蒼い宝石の中には、霜柱を思わせる、線状の白色の結晶が入っていた。

冒険者タグをつけていた細身のチェーンに、スフェンからもらったペンダントトップを取り付ける。

好きな人からもらった、大好きな色の宝石。
ずっと大事にしよう。


ヴェスターとヒューズも、俺たちとは違うデザインのペンダントトップを買っていた。お互いに魔力を注いで、交換しあっている。遠目から見えたが、ヒューズの宝石は琥珀色に、ヴェスターの宝石は透き通る紫色だった。

ヴェスターが拗ねたような顔をして、ヒューズから顔を背けている。でも、顔が赤いから照れているだけのようだ。

俺たちの様子を見ていたフレイとツェルは、『惚気んなよなー。全く。』『あーあ。砂を通り越して、砂糖ゲロゲロ。』と呟いていた。
ツェルが、何故かいきなり蛙になったようだ。

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