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第六章 最後の精霊の棲み処へ
裏切られた王(スフェンside)
しおりを挟む衝撃波によって、骸骨騎士の右腕が砕け散った。
骸骨騎士の右手から離れた長剣を、ヒューズが地面から生やしたツタで絡めとる。これで骨が再生したとしても、剣は扱えない。
盾で防ぐことしか出来なくなった鎧騎士を、ツェルベルトが容赦なく切り掛かっていく。まるで、獲物をいたぶって遊んでいるようにも見える。
ヒューズが相手をしていた骸骨騎士は、土で出来たドラゴンによって全身を締め上げられていた。
翼のないドラゴンは、骸骨騎士の全身に強固なとぐろを巻き付け、ミシミシと音を立てている。土色の鋭利な鱗に、大きく開いた口。
もはや、骸骨騎士は武器を持てていない。動こうものなら、ドラゴンがさらに身体を締め上げる。
木精霊ポムフルールから加護を与えられ、ヒューズの木魔法が強力になっているようだ。
2人が骸骨騎士の動きを止めたところで、私は長剣で2体の頭部を砕いた。バキバキっという音とともに、白色の頭部に亀裂が走る。
金色の粒子が白骨の身体へと流れていき、骸骨騎士は鎧を残して砂のように消えた。
骸骨騎士たちの戦いを黙って見ていた、骸骨の王が動き出した。
骸骨の王は、長剣を手に取り黒い靄を纏わせる。その長剣を一気に地面に突き刺すと、石造りの地面が砕け足場がぐらりと歪んだ。
床に穴が開き、重力に合わせて一気に降下する。壊れた床の瓦礫が地面へと叩きつけられた。
全員に風魔法を纏わせ、地面に激突するのを防ぐ。
ふわりと着地して当たりを見回すと、仄暗い地下だった。
枯れた植物のツタや木の根が壁に食い込み、壁が腐食していた。周囲は深夜と見間違えるほどに暗い。壁に設置された小さなランプが無ければ、何も見えないくらいだ。
ランプの光も仄暗く、ぼんやりと灰色の光を灯すだけ。申し訳程度にしか灯っていない。
骸骨の王は、俺の倍はあるかという巨体。
顔までも黒色の鎧で覆いつくし、完全武装だ。
頭部の鎧の目元は、赤い痕で染められていた。まるで、血の涙を流しているようだ。マントが翻り、隠れていた鎧部分が露わになる。
心臓部分にはめ込まれているのは、赤黒い魔石。
邪気を纏った石だ。
ミカゲが教えてくれた、精霊の地図に記されていた名前を思い出す。
『裏切られた王』
その涙は誰に向けた怨恨なのか。哀しみに飲まれた王が、姿を現した。
この王の弱点は『心臓部分』と『光魔法』。
つまりは、あの魔石を壊さなければ倒せない。私の長剣で魔石を砕くしかなかった。
ヒューズが土の槍を作り出し、一瞬にして王を突き刺すように四方を囲んだ。王は素早い動きで巨体を動かし、上に跳躍する。
土の槍の囲いから抜け、くるりと身体を捻りながら長剣を振り回す。骸骨騎士よりも、圧倒的に早く強い。
攻撃を回避しながら、注意深く敵の動きを探る。
長剣での攻撃後に、僅かに王の動きが遅くなる。その隙をついて、ツェルベルトが王の右足を双剣で掠めた。右足に黒色の茨が浮かぶ。
次の瞬間に、王の右足から赤黒い炎が走った。
瞬く間に黒色のツタを燃やして消し去る。
『……この鎧に、そのような小細工は聞かぬ。』
王は再び長剣を上から振り下ろす。王の足元を中心に赤黒い炎が円状に広がる。
王の背後にいたツェルベルトが、建物の石柱を蹴り上げて昇り、何とか回避した。鎧が砕けないと分かったツェルベルトの判断は早い。
水魔法で球体を作り出し、ツェルベルトが双剣を王に向ける。大きな水球は勢いよく王の足元にぶつかり、赤黒い炎を消して霧が出来た。
さらに水の手が王の両足に絡みつく。その場に王が縫い留められた。
俺とヒューズの声が同時に重なる。
「「流星」」
ヒューズの木属性魔法で巨石を作り、その巨石に私が光魔法を纏わせる。さらに二人の風魔法で巨石を宙に浮かせ、地面へ落とした。
木、光、風属性の連携魔法だ。二人とも風属性だから、難なくとできる。
王の頭上から数多の光の隕石が降り注ぐ。
『……くっ…!小癪なっ……。』
両足を絡めとられた王は動けず、左腕で落石を防いでいる。左腕の鎧が崩れ、剥き出しの腕に光魔法を纏った隕石が落下した。王の左腕が粉砕される。
これでもう、左腕は再生しない。
左腕を失った懐には、大きな隙が出来た。
3人で、敵の前から一斉に攻撃を仕掛ける。
___7、6、5、4、……
伝達魔法を使って、時を数える声が聞こえた。
私は地面を素早く蹴り風魔法で突進する。王の心臓部分にある、魔石めがけて長剣の切っ先を突き刺した。光魔法を長剣に纏わせる。
……3、2、1。
カキンッ!
『はっ!……この程度の攻撃など造作もない。』
高い金属音が響き、火花が散る。心臓部分を貫こうとした私の攻撃は、王の長剣に阻まれた。
ニヤリっと、王が剥き出しの歯で笑った気配がする。
その気配を感じて、さらに面白いと顔を歪める人物が、もう一人。
キンっ!
『……なっ??!!』
王の腹と頭部、右肩の3点を光の矢が貫いていた。こちら側に矢尻が見えるのは、背後からその矢が放たれたからだ。
闇の魔法『闇討ち』。
ツェルベルトは予め王の背後に、光の弓を放つ魔石を設置していた。
この魔石は、玉座の間に入る前に、ヒューズとツェルベルトに渡しておいた。ミカゲから『裏切られた王』の弱点が光魔法だと聞き、光の矢を放つ魔法を付与し魔石を作った。
二人に危険が及んだ場合、光の矢が放たれ、退避する時間稼ぎができるようにと。
それをツェルベルトは、奇襲に利用したのだ。
ただ魔石を置いただけでは、敵に気が付かれる。
だから、闇魔法によってその気配と、存在自体を隠蔽した。そして、時間差で魔力が魔石に流れるように、闇魔法をさらに付与する。
時を数えていたのはツェルベルトの声。
魔法が発動されるタイミングを狙い、私が王に向かって攻撃を仕掛ける。全員が前方から攻撃したため、王は完全に背中を警戒していなかった。
名前のごとく、卑怯にも敵の背後から攻撃をする技。
光魔法によって身体の3点を貫かれた王は、背中から地面に倒れた。砂埃が舞い、ガシャンっと鎧が地面に落ちる。白い身体が、どんどんと砂に変わって、サラサラと流れていった。
頭部を半分まで失った口が、カタカタと動き言葉を紡いだ。
『………おのれ、酷薄な人間どもが…。』
よほど、人間に強い恨みがあるようだった。
酷薄とは、残酷で薄情なこと。『裏切られた王』という名からも、何かしら人間から仕打ちを受けたのか。
王の身体が砂に変わっていく様子を見ながら、私は巨大な鎧の胸元に乗り上げた。心臓部分の魔石に長剣の切っ先を向けた。
ミカゲのように、優しい祈りの言葉は浮かばない。
邪悪な存在を消し去ると、強く念じて。
私は魔石に切っ先を突き刺した。
キンッ、と空気が張りつめたような音が響き、赤黒い魔石に亀裂が入る。魔石の亀裂に、刃から出る白色の光が流れ込んでいった。
魔石の中で白い光が邪気を絡めとり、吸収していく。
「……うっ、……くぅっ!」
魔力が自分の体内から大量に抜けていく。一気に魔力を奪われるこの感覚は、恐怖を感じるほどだ。
この感覚を、ミカゲはいつも味わっているのか。
魔力枯渇で長剣を握る手が震える中、赤黒かった石が透明になる。
パキンッ!
白色の光が収束していき、透明になった石は小さな音を粉々に砕けた。仄暗かった室内も、邪気が浄化されて幾分明るくなっている。
残ったのは、王が着ていた鎧だけだった。
魔石の浄化を終えると、私は安堵したためか、ぐらりと前に身体が傾く。
「団長!」
崩れた私にヒューズが肩を貸して支えてくれる。
左側はツェルベルトが支えてくれた。肩で息をしながら呼吸を整える。
「……すまない、力が抜けた。進むのは少し休んでからでいいか。」
「そうしましょう。魔物の気配もありません。……それに、この部屋は攻略したようです。」
そう言ってヒューズが前方を指差した。
崩れた建物の壁に、古びたダークブラウンの扉が見える。戦闘中は見えなかったから、おそらく敵を倒して現れたのだそう。
一息ついてから、私たちは木製の古びた扉を開けた。
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