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第六章 最後の精霊の棲み処へ
門番との戦闘、しゃぼん玉
しおりを挟む両腕を失くした門番は、羽を広げゆらりと宙に浮いた。
コマによって焦がされた翼を広げると、門番の頭上にある天使の輪が光り出す。背中を反らせるように一度、翼をはためかせた。
翼を前に向けた瞬間、無数の白い羽根が針のように降り注ぐ。
「あのゴーレムの岩に比べたら、序の口です。」
コマに乗っているヴェスターが呟いた。
俺の頭上には、金色の半透明なシールドが出現する。ヴェスターの光魔法による防御結界だ。
フレイ、コマにも施されたシールドに、カカカッという羽根が刺さる音が聞こえた。何本もの羽根の針がシールドに突き刺さり、行く手を阻まれている。
俺は門番の右後方から胴体を斬りつけようと、日本刀を横に払った。その刃は白い翼によって弾かれる。
阻まれることは想定内だ。
翼で弾かれた勢いを利用して、素早く手首を返し門番の頭部に刃を振り下ろす。刃が鎧に当たり、かすり傷から黒色のツタ模様が描かれる。蒼色のバラが1輪咲いた。
一瞬動きが止まった門番の頭部を、フレイの大剣が左側から剣を横凪ぎして砕く。
門番の頭部が砕け、ガシャンっ!ガシャンっという激しい音を立てながら、鎧の身体が雲の床へと倒れた。
そのまま、金色の光の粒子となってサラサラと消えていく。
部屋に残ったのは、門番が手にしていた太陽の彫刻が施された大剣だけだった。
「……ふう。終わったか。」
フレイが大剣を背中の鞘に納める。俺も『感知』で周囲を確認したあとに、日本刀を収めた。
コマもポンっと可愛い音を出して、黒色の子犬の姿に戻った。皆の怪我の様子を確認したあとに、ヴェスターは床に投げ出されたままの大剣を見る。
「この彫刻が、扉の鍵でしょうか?」
門番が握っていた金色の大剣。柄部分には、揺らめく太陽の見事な装飾が施されている。
その装飾にヴェスターが触れたが、何をしても大剣から外れそうにない。装飾が鍵ではないのか?
皆で8つの扉を注意深く観察した。その扉の全てに『光を注げ』という、文言が書かれている。
ふと、俺は門番の姿を思い出してみた。あの門番は、最初に大剣をどうしていただろうか。
俺は門番が最初に鎮座していた場所に立つ。ちょうど部屋の中心だ。そこから風魔法を使い、ふわりと床一面を覆う雲を風で散らした。
「っ!……魔法陣?」
大理石の床には、部屋を覆うほどの大きな魔方陣が描かれていた。複数の円と、複雑な模様と文字が白色の大理石の床に茶色の線で書かれている。
その繊細な模様は美しい。
その魔方陣の中心には、円の中に横一線が刻まれている。ちょうど、大剣の刃体くらいの幅だ。
「……なるほどな。」
フレイが門番の大剣を手に持つと、魔方陣の中心へと切っ先をあてがう。そのまま、横一線の部分に大剣を突き刺した。大剣は刃体の半分ほどを地面に埋めると、ピタリと止まる。
床に剣を刺したまま、フレイが大剣を縦になるように回した。鍵を回すように。魔方陣の中心の模様と、外側に描かれた模様が繋がる。その瞬間、魔方陣の中心から外側に向けて、金色の光が伝わり始めた。
あっという間に魔方陣全体が光り、魔法が発動する。8つの扉は、太陽の形をした凹凸部分が光だす。さながら、本物の太陽のようだ。そして、扉がドロリと飴のように上から溶けていく。
俺たちが部屋に入ってきた際と同じ方向、つまり後ろの扉が最後に残った。
「もしも、魔方陣に気づかず、光魔法等でハズレの扉に光を注いだら、どうなっていたんでしょう?」
ヴェスターが、顎に手をあてながら、こてんっと首を傾げて口にした。
「恐らくだが、トラップが発動する。それか、扉を開いた先で魔物に襲われるか、閉じ込められるかだな。」
フレイがさらりとヴェスターの疑問に答えていた。
恐ろしいことを言わないでほしい。
最後に残ったダークブラウンの扉を開ける。ギギギィーという、古びた木が軋む音を立てながら、次の部屋に進んだ。
扉を開けると、そこは草原だった。
柔らかで背の低い下草が葉を揺らす。空は雲一つ無い快晴だ。
その水色の空に、透明な球体が風に任せて、宙を軽やかに、ふよふよと漂う。
これって……。
「……しゃぼん玉?」
触ると弾けてしまいそうなほど、薄い膜の球体。光を反射して、オーロラ色に変化している。宙を漂うしゃぼん玉の一つが、俺に近づいてきた。
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