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第四章 火精霊の棲み処へ
突然の口付け ※
しおりを挟む俺はスフェンが座っている後ろに回り込んで椅子に座った。スフェンの背中はやっぱり幅が広くて、筋肉がつかない俺にとってはとても羨ましい。
石鹸を泡立てて、少し目の粗いタオルでその背中を擦ってやる。
「……痛くないか?力加減は大丈夫か?」
ごしごしとタオルでスフェンの背中を擦る。
鍛えられた背中は、筋肉が隆起していてカッコイイ。
思わず背中を素手で撫でて、その筋肉を触ってしまった。俺が背中を撫でていると、スフェンがクスクスと笑いだした。
「……ああ。とても気持ちが良いよ。…でも、ふふっ。くすぐったい。」
ふふっと笑って、くすぐったそうにスフェンが身体を震わせる。いつものキリッとした騎士団長の顔と違って、今は年相応の若者に見える。
もこもこの泡に包まれたスフェンの身体を、シャワーで洗い流す。
「……気持ち良かったよ。今度は、俺がミカゲの背中を流そう。貸してくれ。」
くるりとこちらを振り向いたスフェンに、泡だらけのタオルを取られてしまった。
今度は交代で俺がスフェンの前に座る。
「……ミカゲの国では、皆が背中を流し合うのか?」
スフェンにごしごしと背中を擦られながら、俺は日本のお風呂事情を説明した。
「そうだな。親子とか、友達とか……。俺も男友達と一緒に風呂に入って、みんなで洗い合ったよ。……そういえば、肌がスベスベだって褒められたな。」
修学旅行とか、部活の遠征の時とかは、男子なんてはしゃいでふざけ合うものだろう。
俺の背中を流していた友人が、『美影の肌スベスベじゃん!なにこれ、手入れでもしてんの?ずっと触ってられるんだけど。』と褒められたのだ。
「………へえ。」
??
なんだ?
一瞬スフェンの声が低く、不機嫌になったような気がする。気のせいだろうか?
シャワーでスフェンに身体を流してもらい、俺たちは湯舟に浸かった。
ふうっとため息を零して、肩まで浸かる。
久々の湯舟は、やっぱり全身が湯に揺蕩って気持ちが良い。温度もちょうど良くて、身体も暖まってポカポカする。
お湯を両手で掬うと、少しトロリと手から滑り落ちる。トロトロとした美容液のような水質は、お肌に良さそうだ。
透明な水面には光露石のランプの光が映って、僅かに揺らめいていた。
パシャリっと水面が揺れて、スフェンが俺の右隣に腰かけて座る。
街の喧噪から少し外れたこの場所は、とても静かだ。
暗闇に天の川のようにたくさんの星が散りばめられている。ビルやネオンライトで隠されてしまう日本の空とは全く違う、どこまでも深く広がる空だ。
お湯の気持ち良さと星の美しさに、思わず頬が緩んだ。
「……ミカゲ。」
「……っ?!」
名前を呼ばれて右隣のスフェンに顔を向けた瞬間、口に柔らかな感触が当たり塞がれた。
そのまま、言葉を発することも許さないとばかりに、角度を変えて齧り付くようなキスをされる。
「んンっ!」
後頭部はスフェンの左手で押さえつけられて、顔を背けることができない。
訳も分からない俺をよそに、スフェンの舌はするりと俺の口に入ってきて、あっという間に俺の口腔内を貪りはじめた。
「んぁっ。」
さすがに焦った俺は、とっさにスフェンの舌を押し返そうと抵抗する。その抵抗する舌を巧に絡めとり吸われて、ぞくっと身体が粟立つ。
甘くて熱い、トロリとした蜜が喉を通り、身体が支配されていく。身体は、この蜜の味をすっかり覚えこまされいる。
「……ん、ンくっ……。」
もっと、もっと欲しいと強請って、自然に甘い蜜を飲み込んでしまった。身体は何か他のことを期待して、ふるふると震えだす。
…この熱はだめだ……。
以前恥ずかしい思いをしたばかりではないか。
それに、この熱が自分のはしたない欲を生み出すことも、俺は知ってしまったのだ。
心は抵抗しようとするのに、体は快感を求めて蜜を欲しがった。
……でも、どうして?
スフェンは今、どうして俺に魔力譲渡を……?
この街に来る途中で、確かに魔物を俺の魔法で倒したが、俺はそんなに魔力を使っていない。
魔力枯渇状態ではないのに、何で口付けられているのだろうか。
そんな俺の疑問に構わず、激しく何度も噛みつく口づけをされる。舌は絡めとられて、甘い蜜は飲み切れず口の端から零れていった。
スフェンの唇がほんの少し離れたすきに、ふわつく思考とぼんやりする視界で、俺はなんとか言葉を紡いだ。
「……ンっ、……あつ…い…。」
俺の零した言葉を聞いて、スフェンは俺の両脇に手を入れるとグイっと身体を持ち上げて、湯舟のふちに座らせた。
ざぶっと湯舟から出た身体は、少しひんやりした外気に晒されて湯気が立っている。
不安定な体勢になって、咄嗟に石畳に両手をついた。スフェンに流された魔力のせいで、熱くて身体に上手く力が入らない。
スフェンは俺に覆いかぶさるように迫ってきた。
後ろ手についた俺の両手に、スフェンの一回り大きい手が重ねられる。美貌の顔が目の前まで迫ってきて、俺は咄嗟に目をぎゅっと瞑って顔を右に背けた。
首筋に湿ったものが這わされる。首筋にスフェンの顔が埋められ、下から上にねっとりと舐め上げられた。皮膚の薄いそこは、スフェンの舌の感触を敏感に捉える。
「…っあ……。」
身体がビクッと反応して、思わず声が漏れ出てしまい、必死に口を引き結んだ。柔らかな金糸の髪が俺の頬を擽る。その些細な接触さえも、身体は粟立ってしまう。
ちゅうっ、と音を立てながら、スフェンが俺の首筋に吸い付いた。柔らかな唇に吸われて、その後にチクッと小さな痛みが走る。
痛みに身を捩って逃げようとするけど、両手を石畳に縫い付けられて逃げようがない。スフェンは首筋にから、徐々に下へと顔を移動させる。
時折、チクッとした痛みを俺に与えながら、舌を肌に這わせる。スフェンが、唇で触れてくる部分が熱い。自分自身も息が荒くなって、何とも言えない、熱くて悩ましい吐息を溢していた。
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