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第四章 火精霊の棲み処へ
出立
しおりを挟む紅炎騎士団の皆は、早朝にエーデルベルクの街を出発した。短い間ではあったが、共に戦って仲良くなった皆と離れるのは寂しかった。
見ず知らずの俺にも、皆が親切にしてくれた。旅の時も、この世界の常識に疎い俺を、何かとフォローしてくれたのだ。
感謝の気持ちをこめて、皆と握手をして別れを告げる。
「俺、絶対強くなって、女王様の元で働けるようになります!」と宣言していた人もいた。
うん、すごく頑張るみたいだ。尊敬してしまう。
騎士団の皆が王都に帰る後ろ姿を、俺はしばらく見送り続けた。
俺たち6人は騎士団と別れた後、俺たちは領主の館の会議室にいる。
「ほんと、人遣いが荒いなあ。……そんじゃ、さっさと始めるぞ。」
会議室の机に座っているのは、俺たち以外にもう一人。50代くらいの男性。
黄色に近い金髪に茶色の瞳。もみあげから顎にかけて髭を生やし、左目には大きな傷跡がある。
がっちりとした体格に、胸元までワイシャツを開けたラフな格好だ。
「すまないな。事がことだけに、ギルド長のガウロにしか頼めなかった。」
スフェンが苦笑いをしながら、ガウロに言った。
そう、この男性こそが荒暮れ者の冒険者を統べる、冒険者ギルドの長である。
自身も元Sランクの冒険者だ。現在でもその腕は衰えていない。時々、冒険者たちに戦闘訓練をしていて、大勢の冒険者たちが戦いを挑んで負かされている。
「4人分の偽名による冒険者登録。身分証タグの発行。……まあ、俺にしかできないわな。」
俺たちとガウロは机を挟んで座っている。その机には、金属の装飾に縁取られたガラスの透明な薄い板と、金属製で楕円形のメダル4つが置かれていた。
「そんじゃ、順番に魔道具に手を置いてくれ。」
ガウロに促され、スフェンから順に手をガラス製の板に置いた。
手の平全体を置いた瞬間にガラス板が薄く金色に光る。それと同時にメダルも金色に光だし、メダルに文字が刻まれていく。
このガラス板は、冒険者登録するときに使用する魔道具だ。手をかざすことによって、その人物の属性やスキルが登録される。登録された情報は、冒険者ギルドに厳重に管理されるのだ。
これは、有事の際に緊急で冒険者を招集するためでもある。
そして、文字が刻まれたメダルは冒険者の身分証明書のタグ。冒険者はこのタグを首から下げて、街の関所などで見せて身分を証明するのだ。
スフェンに続いて、ヒューズ、ヴェスター、ツェルも冒険者登録を終える。
「それと、6人でパーティー申請もしておくぞ。そのほうが活動がしやすいだろ。」
冒険者は複数人でパーティーを組んで活動することが可能だ。今回はスフェンをリーダーとして組むらしい。
パーティー申請も無事終えたところで、ガウロが魔道具を片付けたあと、用意されたお茶を飲みながら言ってくる。
「……しっかし、『氷花の青魔導士』がこんなだったとはねえ。とんだ、可愛い子ちゃんじゃねえか。」
ガウロは顎に手を添えながら、まじまじと俺のことを見る。
そのガロウの視線に、俺は身体がビクッと反応した。どうも、伯父と同じような年代の男性は苦手だ。贅肉にまみれた醜悪な伯父とは似ても似つかないが、それでも何だろう。
少し、怖いのかもしれない。
両膝に置いていた拳が、力が入って微かに震える。
「見るな。ミカゲが減るだろう。」
俺が着ていたローブのフードを、スフェンがポスっと被せてくる。ガウロの視線が遮られて、俺は自分でも気が付かないうちに詰めていた息を、ふっと吐き出していた。
「っ!ぶはっ!……あの、冷酷なスフェン坊が!」
勢いよく噴き出して、ひーっ、とガウロはお腹を抱えて笑っている。
スフェンのことを『スフェン坊』と呼ぶ辺り、どうやらこの二人は知り合いらしい。
「……うるさい。……今回は急な申し出だったのに、助かった。礼を言う。」
スフェンが俺を伝えると、ガウロは笑うのを止めて、ニヤリと不敵に笑った。
「貸し一つな。あとで返してもらうぞ。……神殿が怪しいことしてるみてえだから、俺たちも気をつけるよ。……あー、面白いもんも見れたし、王都に帰っか。じゃあな。」
冒険者ギルドの本部は王都にある。
王都からエーデルベルクの街までは、馬で飛ばしても4日くらいかかるのだ。
フレイが連絡を入れてすぐに、ガウロは行動してくれたようだ。文句を言いつつも、優しい人だ。
こうして、俺たち6人は、晴れて冒険者になった。
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