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第三章 風精霊の棲み処へ
美貌の騎士団長と ※
しおりを挟む「……男の前で、そんな顔をするとどうなるか、よく学ぶんだな。」
いつも優し気に微笑む王子然としたスフェンが、今は獲物を見つけたと、舌舐めづりをして目をぎらつかせているように見えた。
「……スフェン…?…」
なんだか、危険な雰囲気を感じ取った俺は、再びスフェンの胸を押し返して距離を取ろうとした。しかし、俺の手は、スフェンに簡単に振り払われてしまう。
元々、魔力枯渇状態で思うように力が入らず、そのままソファに俺の両手は投げ出された。
スフェンの顔が再び近づいてきたのが見えて、俺は咄嗟に顔を左に背けた。
これ以上キスをされたら、なんだか頭がふわふわして、ぼんやりしてしまうのだ。
スフェンは俺が顔を背けた様子に、クスっと小さく笑った。そのまま、顔を近づけてきたかと思うと、首に柔らかな感触が触れる。
「んあっ…!」
予想していなかった刺激に、思わず高い声が出て、身体がビクっと跳ねた。
皮膚の薄い首筋部分に、チュッ、チュッと何度も柔らかな唇が当てられて、そのたびに身体が跳ねて反応してしまう。
スフェンの唇が当たった部分から、じんわりと熱が発せられる。まるで、熱を首筋から植え付けられて、そこから身体に染み込んでいくような感覚だ。
……熱い。それに……。
身悶えてしまうのが恥ずかしい。
必死に耐えようと、ふるふると身体を震わせていると右の耳元にふうっと息を吹きかけられた。
「……自分から首筋を差し出すなんて……。喰われたいのか?」
いつもよりも低くて掠れた声で耳元で囁かれた。
どこか、その声音は俺を揶揄っていて、俺を虐めてくるのが分かる。
「っふぁ!……ち、が…。んっ!」
食べてほしいとか、なんのことか分からないけれど、とにかく俺は否定しようとした。でも、否定の言葉は、耳を甘噛みされたことで胡散する。
ぴちゃっ、くちゅっ、ちゅうっ。
耳の中にスフェンの舌がぬるりと入ってきて、執拗に舐められる。
耳元で卑猥な水音をわざと聞かされて、俺はさらに顔を真っ赤にした。鼓膜を湿った音が震わせて、お腹の熱を強制的に全身に巡らせようとしてくる。
頭の中に響くイヤラシイ音を意識しすぎた俺は、俺の身体を這う手の怪しい動きに気付くのが遅くなる。
黒色のTシャツの裾から、スフェンの手が入って着て脇腹をするりと撫で上げた。
スフェンが触った肌から、じんわりとした熱が伝わってくる。体温よりも少し高くて、意図的に温められているのが分かる。
この、温かいのがスフェンの魔力なのだろう。
唾液とは違って、スフェンの魔力が身体に少しづつ、ゆっくりと中に入り込んでくる。
そのゆっくりとした熱が、なんだかもどかしく感じてしまった。
自分の吐く息が、はぁ、はぁと少しずつ熱を帯びていくのを感じる。
右手はスフェンに絡めとられて、ぎゅっと握られた。その絡まった手からも温かい魔力が流れ込んでくる。もう、どこもかしこも、熱を感じておかしくなりそうだ。
「……ミカゲ、こっちを見ろ。」
どこか甘い響きのあるスフェンの声に命令されて、誘われるように俺は正面からスフェンの顔を見上げた。
金糸の髪は相変わらず綺麗だけど、その彫刻のような美貌は熱を帯びて、妖艶な大人の色気を惜しげもなく晒していた。
スフェンの色気に当てられた俺は、ぞくりとまた身体が熱で粟立つ。
エメラルドの瞳の奥に、欲情の熱が揺らめいているのが見えた気がして、その欲に濡れた瞳から逃れられない。
「ふっ、ン……。」
再び口を塞がれて、スフェンの舌が口を割り開く。
もう、俺の口腔内を散々暴いたのに、スフェンは足りないというように貪った。
舌を絡めて、擦って、時々唇で甘噛みされて、吸い上げられる。
湿った音がさらに俺の熱を昂らせた。
スフェンの唾液が甘い蜜のように、俺の身体に流れ込んでくる。体液による魔力譲渡はくらくらするように熱い。
そして、魔力が溜まる場所の腹部はスフェンの手でじんわりと熱を与えられる。そのもどかしい熱と手つきに身を捩って、ビクンっと勝手に身体が跳ねた。
絡めとられた右手からは、安心するような温かな魔力が流れて、熱で変になる身体の心細さから守ってくれる。
スフェンに翻弄された俺の身体は、素直に快感に流されようと反応してしまっていた。下半身に熱が集まって、自分自身でも兆しているのに気が付く。
俺は元々、性欲が薄いほうだったと思う。
生活することで精一杯で、あんまり自分自身でもする暇がなかったし。
この世界に来てからもそれは一緒で、ここのところは全くそういったことをしていなかった。
つまり、俺は溜まっているのだ。
こればっかりはしょうがないけど……。
恋人もいなかった俺は、友達とさえもこんな卑猥な行為をしたことはない。
人にこんなことをされている……。
それだけでも、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
自分でするのと、人にされるのとでは刺激が違い過ぎる。
そして、いつも騎士団長として勇ましく、威厳ある美貌のスフェンが、こんなはしたない行為を俺にしているのかと思うと、ほんの少し興奮してしまった。
……でも、人の前で、ましてや、
スフェンの前で醜態を晒したくない。
だめだ。このままじゃ……。
スフェンの唇が離れて隙を見て、俺は必死にスフェンに訴える。
「……スフェ…、ン…っ!…もっ!……は、なっ!……んンっ!」
切羽詰まっているはずなのに、俺の口からは自分でも驚くほど鼻にかかったような声しか出なかった。
心とは反対に、身体は快感の予感に素直に従おうとしている。
太ももが小刻みに震えて、快感の予感に抗えない。
俺を見下ろしたスフェンが、片方だけ口角を上げてニヤリと笑った。
するりと腹部を撫でていたスフェンの右手が、俺の兆していたモノを服の上からぎゅっと軽く握りこむ。
「っあ!…やぁっ……は、なっ…して…!」
エメラルドの瞳は、快感に身もだえる俺の様子をじっと見ていた。獲物をいたぶって追い詰めてくる。
大きな手に包まれた俺のモノは、ほんの少し擦られるただけで、もう限界だった。
「…ぁっ、あっ、……っンんん!!」
瞼の奥にチカっと火花が一瞬飛ぶ。身体を一度ぶるりっと震わせながら、俺は軽く達してしまった。
久々の欲情の快感に素直に身体は喜んで、ふるふると快感の震えが止まらない。
スフェンにも、達した姿を見られて恥かしくて、羞恥で居たたまれない。顔を見るのだ怖くて、思わずプイっと顔を正面から背ける。
荒い呼吸を繰り返していたが、やがて疲れて急激な眠気に襲われ始めた。
「……ミカゲ、可愛い……。ゆっくり、おやすみ。」
そう言うと、スフェンは俺の目元を手の平で覆った。爽やかな匂いを感じながら、俺はどっと疲れて眠りについた。
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