上 下
15 / 136
第二章 王都への帰還

帰還の道中と騎士団の仲間たち

しおりを挟む


スフェンの胸で、いつの間にか眠っていたあの日、俺は目覚めると3人の男性から自己紹介を受けた。
ちょうど夕食時の、騎士団員全員が集まっているときだ。

副団長のヒューズ、軍医のヴェスター、騎士団員のツェルベルト。

 
副団長のヒューズはキリッとした、鷹のように鋭い雰囲気のある精悍な風貌だった。
身長も高く2メートルは超えている。スフェンよりも高かった。長剣を腰に差し、鍛え上げられた筋肉が服の上からでも伺える。

 
軍医ヴェスターは、穏やかな微笑みを湛えた、たおやかな男性だった。身長もスフェンと同じくらいで、俺より頭一つ分より少し高くらい。

騎士団の皆と比べると華奢な体格ですらりとした手足の美丈夫だ。高校にいた保健室の先生。ヴェスターに抱いたイメージだった。

 
騎士団員ツェルベルトは、オレンジ色の髪色と目が印象的だ。その色と同じように賑やかな青年だった。
明るく陽気な性格で一番話しやすい。でも、ただの騎士団員ではないだろうなとは思った。

俺の背後に来たときに、足音が一切しなかったから。

 
3人それぞれに微笑みながら挨拶をすると、みんな固まったように動かなくなってしまった。


不思議に思ってスフェンを小首を傾げて見上げると、「~~っ!!」と声にならない呻き声を上げていた。俺の顔そんなに変?

 
訳が分からず3人も「……、これはヤバいな。」「……はあ、危険です。」「ちょー可愛い。ほんっっっと、ちょー可愛い!」とコソコソ話をしていたが、俺には内容が聞こえなかった。

 
他の騎士団員の前でも自己紹介をすると、笑顔で挨拶を返してくれた。しかし、そのあとに、ヒューズたちと同じような反応が返ってきて困惑した。

皆から「……天使か?」「眼福であります!」と変な言葉が聞こえたが、一体何を話しているんだ?

 
中には顔を真っ赤にさせたあとに、すぐに青ざめた表情をした団員もいた。

体調が悪いの?
良く分からないが、なんだか、カオスだった。

 
騎士団の皆は、やはり戦士ということもあってガタイも俺より大きく、厳つい雰囲気があったが、話すと皆優しく親切だった。
俺が魔力枯渇で倒れていたのを知っていて、体調をいつも気にかけてくれる。

 
そんなことがありながら、俺は今後のことについて、夕食中にスフェンからある提案をされた。


騎士団とともに魔石を探し、邪神を見つけ出そうと。


俺も、邪神に憑りつかれた人間を探し出すのに、一人では限界を感じていた。
スフェンは、この国には騎士団の仲間がたくさんいるから、力になると言ってくれた。

 
俺はスフェンの言葉に、また目頭を熱くしたのを覚えている。

 

そして、現在は駐留地を離れて2日経った昼。
俺たちは、王都へ帰還している最中だ。
俺は今、負傷した患者用の馬車に乗せてもらっている。

他の騎士たちは、馬に騎乗して隊列を作り、踏み固められた道を駆けていた。
この世界の馬は、日本よりも1周り大きく、馬力も強い。集団でドドドドっと地面を踏み駆ける音が、周囲に響く。

馬車は魔法が施されているようで、かなりの速度で進んでいるのに、揺れを全く感じない。
例えるなら、電車に乗っているような感覚だった。

 
俺は体調が万全ではないということで、特別に馬車に乗せてもらっているのだ。

何から何まで、本当にありがたかった。

 
木製の馬車は4人乗り用で、中に向かい合わせの座面が設置されていた。車内は広く、大人3人が寝れるくらいだ。座面には柔らかなクッションが置かれ、とても快適だ。

ちなみに俺の膝の上では、コマがくるんっと丸くなって大人しく眠っている。膝上の体温がくすぐったくて心地いい。


次の目的地は風精霊の棲み処。ちょうど、王都を経由し東側にあった。今回の魔物討伐の報告と、休息も兼ねて王都に一度戻るそうだ。


「だいぶ魔力も回復したと聞いている。あと2日くらい安静にしていれば完治するそうだな?」

向かいの席に座っているスフェンが、優しい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
小さな窓から射しこんだ光が、スフェンの金糸の髪を照らし、キラキラと輝かせている。


馬車には、俺とスフェンの二人だけ。


「はい。ありがとうございます。スフェンさん。」

俺がそう言うと、スフェンはほんの少し腰を浮かして、俺に近づいてきた。俺の唇に人差し指をそっと当てて、拗ねたような口調で言った。


「敬語はなしだと言っている。私のことはスフェンと呼んで。」

ほらっ、と促されて、俺はしぶしぶスフェンの名前を口にした。


「……スフェン…。」

「よろしい。」

まるで生徒を褒める先生のように、よしよしと頭を撫でられた。スフェンはよく俺の頭を撫でてくる。
その優しい手つき、甘い声が心地いい。

スフェンに頭を撫でられるのが気持ち良くて、俺は目を細めて笑った。


スフェンは途端に「…なんだこの可愛い生き物は……。」と言っていたが、何のことか分からなかった。

 
そんなたわいもないやり取りをしていた時に、俺の『感知』にピンっと何か引っかかった。

波紋状のレーダーのように広がっていた『感知』に、魔物の反応が複数発見される。

 
俺は馬車の座席から立ち上がる。コマは俺の動きに合わせて、ピョンっと床に着地した。寝たフリをしていたな。


天井に着いている扉を、俺は剣の柄でガタッと押した。

騎士団の馬車には、緊急脱出のために天窓が付いていた。扉を開け、青空が見えたことを確認すると、俺は床をトンっと蹴ってするりと天井まで登った。


「っ!ミカゲ?!」


突然の俺の行動に驚いて、下からスフェンの驚きの声が聞こえる。スフェンに大丈夫だと告げながら、俺は『感知』で魔物の気配を注意深く観察した。

やはり、鳥類型の魔物であるプレストバードだ。
ダチョウのような飛ばない鳥だが、大きさは3メートルほどある。獲物に突撃して仕留めるという、なんともアグレッシブな魔物だ。

 
魔物の気配は全部で5頭。正面から扇形の陣形で、かなりの速度で近づいてくる。まだ目視はできないが、時間の問題だろう。

 
「ミカゲ!どうした?!」

馬車の横を並走していたヒューズが、俺に呼びかける。

 
「正面から、プレストバードが5体来る!扇型の陣形で、あと3分で接触する!」

馬車も結構な速度で走っていて、俺の着ている青色のローブが翻ってる。
これでは魔物と正面衝突してしまう。


「っ!なに?!」

スフェンも俺が言った言葉を素早く理解して、馬車の窓から顔を出した。魔物たちの姿が遠くに、点のように目視できる位置まで迫っていた。

 
俺は天井を足場に右足を前に出し、ぐっと足を広げて戦闘体勢に入る。

俺の周りの空中には、5本の鋭利な氷の結晶が出現する。


「行け。」


左に身体を少し捻って、左手の親指で鍔を押しあげた。
身体の捩じりが戻る勢いを利用して、右手で刀を横に振り抜いた瞬間、氷結晶が一斉に正面に飛んだ。


鋭い氷結晶は、突撃してくる5匹のプレストバードに迷いなく向かっていく。

氷結晶は高速で3匹のプレストバードの胴体を射貫いた。残りの2匹は横に飛び、器用に攻撃を躱す。


だが、躱しても無駄だ。


躱したと思われた鋭い氷結晶は、地面に着弾した瞬間、キンッ!と高い音を立てながら地面から跳ねた。

そして、横に飛んで矢を躱した2匹の胴体に横から思い切り突き刺さった。


俺がイメージしたのは氷の銃弾。
しかも、追跡能力を有したもの。

弾丸にした氷結晶が跳ねたのは、跳弾をアイデアに入れたからだ。

 
騎士団の人達にはお世話になっているから、これぐらいの護衛はさせてほしい。

 
魔物討伐できたことを確認すると、俺はスフェンとヒューズに「もう大丈夫だ。」と声を掛けた。

ヒューズは呆気に取られたいが、しばらくして深くため息をついた。


「……全く、少しは俺たちにカッコイイことさせろよ。」

苦笑しているヒューズに、俺は意味が分からず首を傾げる。


「お世話になっているお礼だ。それに、皆が戦っている姿は、いつも強くてカッコイイだろ?」

 
俺としてはお礼をしたつもりだったが、迷惑だっただろうか……。

それに、騎士団のメンツはイケメンが多く、魔物と戦う姿も猛々しく勇ましい。

線の細い俺よりも、皆が戦っている姿はまるでファンタジー映画を見ているように、迫力満点だ。

剣を振る度に呼応する筋肉、統率された連係プレイ。同じ男としては惚れ惚れとするし、バッサバサと魔物を倒す姿は爽快だった。

 

「っ!!……ミカゲ…。そういうところが……。」

ヒューズはもう一度、大きなため息をついている。
なにか疲れさせてしまったようだ。


気を取り直したヒューズが、騎士団の数名を先に向かわせて、魔物の処理をさせている。
火魔法で死体を燃やして、魔物が集まらない様にするのだ。

 
周りの騎士団の人も、何かざわついている。

「……×××。俺にも冷気を!」という言葉が騎士団員の一人から聞こえた。
始めのほうの言葉は聞こえなかったが、冷たくなりたいらしい。

外はちょうど良い気温だけど、熱いのだろうか?


「……『氷花の青魔導士』。」

ツェルベルトがおもむろに呟いた。


巷で今話題になっている冒険者のことだ。
この1か月の間に、冒険者レベルがFからBに急速に上がった冒険者がいる。

普通は、1つのレベルを上げるのに1年、下手をすると数年かかる者もいる中で、その冒険者は歴代最短だった。

当然、噂にも上がるが存在自体が謎に包まれていた。戦闘スタイルも不明。

分かっている情報は、深い青色のローブを纏い、フードを目深に被って素顔を見せないこと。
そして、氷魔法を使うという事だけ。

その冒険者に護衛を依頼した商人が「花のように綺麗で、見事な氷魔法だった。」と話したことが広まり、ついた二つ名が『氷花の青魔導士』。

 
まさか今話題の人物に会えるとは……。とツェルベルトは内心興奮していた。


俺はツェルベルトが何か呟いていたのが気になったが、次の瞬間に吹っ飛んだ。


「………ミカゲ、降りてこい。」

 

下から、呻くように低く、威厳のある声に俺は突き刺され、命令されたのだった。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...