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第二章 王都への帰還
帰還の道中と騎士団の仲間たち
しおりを挟むスフェンの胸で、いつの間にか眠っていたあの日、俺は目覚めると3人の男性から自己紹介を受けた。
ちょうど夕食時の、騎士団員全員が集まっているときだ。
副団長のヒューズ、軍医のヴェスター、騎士団員のツェルベルト。
副団長のヒューズはキリッとした、鷹のように鋭い雰囲気のある精悍な風貌だった。
身長も高く2メートルは超えている。スフェンよりも高かった。長剣を腰に差し、鍛え上げられた筋肉が服の上からでも伺える。
軍医ヴェスターは、穏やかな微笑みを湛えた、たおやかな男性だった。身長もスフェンと同じくらいで、俺より頭一つ分より少し高くらい。
騎士団の皆と比べると華奢な体格ですらりとした手足の美丈夫だ。高校にいた保健室の先生。ヴェスターに抱いたイメージだった。
騎士団員ツェルベルトは、オレンジ色の髪色と目が印象的だ。その色と同じように賑やかな青年だった。
明るく陽気な性格で一番話しやすい。でも、ただの騎士団員ではないだろうなとは思った。
俺の背後に来たときに、足音が一切しなかったから。
3人それぞれに微笑みながら挨拶をすると、みんな固まったように動かなくなってしまった。
不思議に思ってスフェンを小首を傾げて見上げると、「~~っ!!」と声にならない呻き声を上げていた。俺の顔そんなに変?
訳が分からず3人も「……、これはヤバいな。」「……はあ、危険です。」「ちょー可愛い。ほんっっっと、ちょー可愛い!」とコソコソ話をしていたが、俺には内容が聞こえなかった。
他の騎士団員の前でも自己紹介をすると、笑顔で挨拶を返してくれた。しかし、そのあとに、ヒューズたちと同じような反応が返ってきて困惑した。
皆から「……天使か?」「眼福であります!」と変な言葉が聞こえたが、一体何を話しているんだ?
中には顔を真っ赤にさせたあとに、すぐに青ざめた表情をした団員もいた。
体調が悪いの?
良く分からないが、なんだか、カオスだった。
騎士団の皆は、やはり戦士ということもあってガタイも俺より大きく、厳つい雰囲気があったが、話すと皆優しく親切だった。
俺が魔力枯渇で倒れていたのを知っていて、体調をいつも気にかけてくれる。
そんなことがありながら、俺は今後のことについて、夕食中にスフェンからある提案をされた。
騎士団とともに魔石を探し、邪神を見つけ出そうと。
俺も、邪神に憑りつかれた人間を探し出すのに、一人では限界を感じていた。
スフェンは、この国には騎士団の仲間がたくさんいるから、力になると言ってくれた。
俺はスフェンの言葉に、また目頭を熱くしたのを覚えている。
そして、現在は駐留地を離れて2日経った昼。
俺たちは、王都へ帰還している最中だ。
俺は今、負傷した患者用の馬車に乗せてもらっている。
他の騎士たちは、馬に騎乗して隊列を作り、踏み固められた道を駆けていた。
この世界の馬は、日本よりも1周り大きく、馬力も強い。集団でドドドドっと地面を踏み駆ける音が、周囲に響く。
馬車は魔法が施されているようで、かなりの速度で進んでいるのに、揺れを全く感じない。
例えるなら、電車に乗っているような感覚だった。
俺は体調が万全ではないということで、特別に馬車に乗せてもらっているのだ。
何から何まで、本当にありがたかった。
木製の馬車は4人乗り用で、中に向かい合わせの座面が設置されていた。車内は広く、大人3人が寝れるくらいだ。座面には柔らかなクッションが置かれ、とても快適だ。
ちなみに俺の膝の上では、コマがくるんっと丸くなって大人しく眠っている。膝上の体温がくすぐったくて心地いい。
次の目的地は風精霊の棲み処。ちょうど、王都を経由し東側にあった。今回の魔物討伐の報告と、休息も兼ねて王都に一度戻るそうだ。
「だいぶ魔力も回復したと聞いている。あと2日くらい安静にしていれば完治するそうだな?」
向かいの席に座っているスフェンが、優しい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
小さな窓から射しこんだ光が、スフェンの金糸の髪を照らし、キラキラと輝かせている。
馬車には、俺とスフェンの二人だけ。
「はい。ありがとうございます。スフェンさん。」
俺がそう言うと、スフェンはほんの少し腰を浮かして、俺に近づいてきた。俺の唇に人差し指をそっと当てて、拗ねたような口調で言った。
「敬語はなしだと言っている。私のことはスフェンと呼んで。」
ほらっ、と促されて、俺はしぶしぶスフェンの名前を口にした。
「……スフェン…。」
「よろしい。」
まるで生徒を褒める先生のように、よしよしと頭を撫でられた。スフェンはよく俺の頭を撫でてくる。
その優しい手つき、甘い声が心地いい。
スフェンに頭を撫でられるのが気持ち良くて、俺は目を細めて笑った。
スフェンは途端に「…なんだこの可愛い生き物は……。」と言っていたが、何のことか分からなかった。
そんなたわいもないやり取りをしていた時に、俺の『感知』にピンっと何か引っかかった。
波紋状のレーダーのように広がっていた『感知』に、魔物の反応が複数発見される。
俺は馬車の座席から立ち上がる。コマは俺の動きに合わせて、ピョンっと床に着地した。寝たフリをしていたな。
天井に着いている扉を、俺は剣の柄でガタッと押した。
騎士団の馬車には、緊急脱出のために天窓が付いていた。扉を開け、青空が見えたことを確認すると、俺は床をトンっと蹴ってするりと天井まで登った。
「っ!ミカゲ?!」
突然の俺の行動に驚いて、下からスフェンの驚きの声が聞こえる。スフェンに大丈夫だと告げながら、俺は『感知』で魔物の気配を注意深く観察した。
やはり、鳥類型の魔物であるプレストバードだ。
ダチョウのような飛ばない鳥だが、大きさは3メートルほどある。獲物に突撃して仕留めるという、なんともアグレッシブな魔物だ。
魔物の気配は全部で5頭。正面から扇形の陣形で、かなりの速度で近づいてくる。まだ目視はできないが、時間の問題だろう。
「ミカゲ!どうした?!」
馬車の横を並走していたヒューズが、俺に呼びかける。
「正面から、プレストバードが5体来る!扇型の陣形で、あと3分で接触する!」
馬車も結構な速度で走っていて、俺の着ている青色のローブが翻ってる。
これでは魔物と正面衝突してしまう。
「っ!なに?!」
スフェンも俺が言った言葉を素早く理解して、馬車の窓から顔を出した。魔物たちの姿が遠くに、点のように目視できる位置まで迫っていた。
俺は天井を足場に右足を前に出し、ぐっと足を広げて戦闘体勢に入る。
俺の周りの空中には、5本の鋭利な氷の結晶が出現する。
「行け。」
左に身体を少し捻って、左手の親指で鍔を押しあげた。
身体の捩じりが戻る勢いを利用して、右手で刀を横に振り抜いた瞬間、氷結晶が一斉に正面に飛んだ。
鋭い氷結晶は、突撃してくる5匹のプレストバードに迷いなく向かっていく。
氷結晶は高速で3匹のプレストバードの胴体を射貫いた。残りの2匹は横に飛び、器用に攻撃を躱す。
だが、躱しても無駄だ。
躱したと思われた鋭い氷結晶は、地面に着弾した瞬間、キンッ!と高い音を立てながら地面から跳ねた。
そして、横に飛んで矢を躱した2匹の胴体に横から思い切り突き刺さった。
俺がイメージしたのは氷の銃弾。
しかも、追跡能力を有したもの。
弾丸にした氷結晶が跳ねたのは、跳弾をアイデアに入れたからだ。
騎士団の人達にはお世話になっているから、これぐらいの護衛はさせてほしい。
魔物討伐できたことを確認すると、俺はスフェンとヒューズに「もう大丈夫だ。」と声を掛けた。
ヒューズは呆気に取られたいが、しばらくして深くため息をついた。
「……全く、少しは俺たちにカッコイイことさせろよ。」
苦笑しているヒューズに、俺は意味が分からず首を傾げる。
「お世話になっているお礼だ。それに、皆が戦っている姿は、いつも強くてカッコイイだろ?」
俺としてはお礼をしたつもりだったが、迷惑だっただろうか……。
それに、騎士団のメンツはイケメンが多く、魔物と戦う姿も猛々しく勇ましい。
線の細い俺よりも、皆が戦っている姿はまるでファンタジー映画を見ているように、迫力満点だ。
剣を振る度に呼応する筋肉、統率された連係プレイ。同じ男としては惚れ惚れとするし、バッサバサと魔物を倒す姿は爽快だった。
「っ!!……ミカゲ…。そういうところが……。」
ヒューズはもう一度、大きなため息をついている。
なにか疲れさせてしまったようだ。
気を取り直したヒューズが、騎士団の数名を先に向かわせて、魔物の処理をさせている。
火魔法で死体を燃やして、魔物が集まらない様にするのだ。
周りの騎士団の人も、何かざわついている。
「……×××。俺にも冷気を!」という言葉が騎士団員の一人から聞こえた。
始めのほうの言葉は聞こえなかったが、冷たくなりたいらしい。
外はちょうど良い気温だけど、熱いのだろうか?
「……『氷花の青魔導士』。」
ツェルベルトがおもむろに呟いた。
巷で今話題になっている冒険者のことだ。
この1か月の間に、冒険者レベルがFからBに急速に上がった冒険者がいる。
普通は、1つのレベルを上げるのに1年、下手をすると数年かかる者もいる中で、その冒険者は歴代最短だった。
当然、噂にも上がるが存在自体が謎に包まれていた。戦闘スタイルも不明。
分かっている情報は、深い青色のローブを纏い、フードを目深に被って素顔を見せないこと。
そして、氷魔法を使うという事だけ。
その冒険者に護衛を依頼した商人が「花のように綺麗で、見事な氷魔法だった。」と話したことが広まり、ついた二つ名が『氷花の青魔導士』。
まさか今話題の人物に会えるとは……。とツェルベルトは内心興奮していた。
俺はツェルベルトが何か呟いていたのが気になったが、次の瞬間に吹っ飛んだ。
「………ミカゲ、降りてこい。」
下から、呻くように低く、威厳のある声に俺は突き刺され、命令されたのだった。
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