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暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

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「当たり前だ。あの事故の前の晩、話した言葉も涉の浮かれ具合も全てがそっくりだった。」

 いつ? と言葉にしなくても理解できた。セイちゃんの世界での僕。セイちゃんと待ち合わせをして事故に遭って死んだという……。

「もしかしたら。そう思ったら行動せずにはいられなかった。無事であればいい。涉が同僚と合って店に入るのを見届けた後、仕事に戻るつもりだった。」

 僕はいつか、交通事故で死ぬ運命なのかもしれない。たぶん今回セイちゃんに助けられなかったら……。でも、大切なのは今、僕とセイちゃんがともにいること。

「ずっとこうしていたい。」

「ああ、涉の気が済むまで。」

 セイちゃんの肩に頭を乗せ、撫でてもらってスッと癒されていく自分がいた。もう、離れることなど考えたくない。

「セイちゃんが居なくなるのは嫌だ。」

「分かってる。俺もそうだ。でも人はいつどうなるのかは分からない。だから一日、いや1分1秒でも後悔したくない。そんな生き方をしていきたい。」

 後悔しない生き方。少し分かったような気がする。僕は自分に嘘をつかず、時間を大切にして生きていきたい。できるならセイちゃんと一生手を取り合って。

「だからな? 今日はずっとこうしていよう。」

 セイちゃんが腰を動かすと、僕の臀部に硬いものがあることが分かった。

「せ、セイちゃん!」

 
 ピンポーーン


「「!?」」

 顔から火が出たと同時に、インターホンが鳴り響いた。朝から誰だろう? セイちゃんと顔を見合わせる。ソファから降りてインターホンのところまで行くと同時にまた音が鳴った。

「はい。」

 通話ボタンを押して画面を覗き込む。そこには髪の長い女性が立っていた。

「ワタラセさんの……オタクデスカ?」

 片言の日本語。外国人? 髪の毛は黒いのか茶色なのか判別しづらい。知らない顔なのは明らかだ。何かの勧誘? でも僕の苗字を知ってるって……。

「知ってる人?」

 隣のセイちゃんが耳元で囁くのを聞いて首を振った。外国の女性には道を聞かれたことすらない。

「どうしよう? 何かの勧誘かな? 出てみる?」

 セイちゃんの顔を見た時に、インターホンから別な人の声が聞こえた。

「渡良瀬涉さんのお宅ですか?」

 インターホンの小さな画面に映り込んだ顔。そこに立っていたのは、僕のフルネームを知っているその人は、坊主頭だった。そして、今僕の隣に立っているセイちゃんと同じ顔をした人だった。




ー 完 ー
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