暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

僕は君が好き、君も僕が好き？

2

「同じ部屋にいるんですよ。普通に分かります。なぁ？　渡良瀬。」

「え？　ええ。僕も何となく。」

　伊東さんと話をしたことはないけど、僕もやはり気づいていた。鈴木さんの部長に対するよそよそしい様子。あまり顔を見ないようにして無関心を装っている、そんな様子。

「はっはっは！」

　部長が満面の笑みで笑った。とても満足げだ。鈴木さんは……そんな部長を睨んでいた。

「陰でバラしてたんでしょう？」

「いやいやいや、誰にも言ってないさ。それで？　覚悟はできた？」

　こんなに溌剌とした部長を見るのは初めてかもしれない。満面の笑みで鈴木さんを見ていた。

「覚悟なら、覚悟ならとっくにしてるわ。」

「よーーし、じゃあ明日入籍な。」

「えっ？　待って！」

「待たない。」

　僕と伊東さんはテニスのラリーを見ているかのように、部長と鈴木さんの顔を交互に見ていた。部長が嬉しそうなのに反して、鈴木さんはとても恥ずかしそう。

　化粧をしていても、顔が真っ赤なのが分かる。待たないという部長の言葉で、僕たちの顔を見た鈴木さんが、徐に席を立った。

「ちょっとだけ出てきます。」

　急いで部屋を出て行く鈴木さんの後ろ姿を３人で見送った。そういえば、鈴木さんのスカートも新しいかもしれない。部長のネクタイの色と同じ……紺色。

「おめでとうございます。」

「あ、おめでとうございます。」

　伊東さんの後に言葉を紡ぐ。何となく分かっていたとはいえ、こうやって顕になってみるととても驚いている自分がいた。

「ありがとう。でもこれでお終いにしてくれないか？　美代は本当に恥ずかしがり屋なんだ。近々俺は他の部署へと異動になる。俺がいなくなっても、変わらずに接してやって？」

「「勿論です。」」

　部長が異動になる？　初耳なんだけど。え？　結婚するから？　

「どちらに異動なさるのですか？」

　僕の思考を読んだかのように、伊東さんが話しかけた。

「営業部。部長補佐としてな。昔は長く営業にいたんだ。嶺の代わりをやってくるよ。来期はまた異動だ。」

『嶺さんの代わり……。』

　部長が経験豊富なのは間違いがない。たぶん、嶺さんの代わりも務まるのだろう。でもいつまで？　この会社は、あといつまで嶺さんを待ってくれるのだろう？

「経理部の部長は？」

　伊東さんと部長が話す声が聞こえてくるが、何も頭に入ってこなかった。嶺さんの事故から１か月以上。生きているなら、いや生きているのは間違いないけど、もうそろそろ連絡がほしい。

『今夜は、セイちゃんと少し話をしてみよう。』

　いつも僕が帰ってきたのを見計らうかのように連絡をくれる。先に帰っていることもあるけれど、ほとんど会社からだ。会社までは近いらしく、３０分ほどで部屋に来る。今日もそうに違いない。

　僕は今夜は絶対に残業にならないようにと、仕事に集中することにした。