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君は僕を好き、僕は君をどう思っているのだろう?

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 電車で1人吊り革に掴まって揺られる。今日は思ったより何もない1日だった。

 昼休憩で行った社食では、齋藤さんや金井が一緒のテーブルに来たけれど、最近のそれぞれの部署内での話で終わった。

 金井の所属する情報管理部では、今人手が足りなくて困っているらしい。中途採用を行うかと部長が言っていたらしい。

 営業部の田部さんや渡辺は、他の営業の人たちと一緒にテーブルを囲んでいるのが見えた。一様に沈んだ表情の営業部の人たちに話しかける人は誰もいなかった。

「……涉。」

 自宅の最寄駅で降り、住宅地を縫って歩いていると明かりの灯った電柱の陰から男が姿を現した。

 声でセイちゃんだと分かる。驚くことはなかった。何故かこうなるような予感がしていた。僕もちょうど話したかったような気持ちだったことに気づき、ホッとしている自分がいた。

「セイちゃん。」

 近くまで歩いて行って驚いた。髪が短くなっている。後ろも傍も刈り上げた髪型から一昨日の面影は全くなかった。ゆるくパーマをかけたのだろうか? 短い黒髪がふんわりと立ち上がっていた。

「ちょっと話をしないか?」

 セイちゃんの言葉に無言で頷き、一緒に歩き始める。夜の7時を過ぎて人通りは少なかった。すぐそばに見えていた公園に向かう。

 公園の入り口にある自販機でセイちゃんが止まったけれども、僕は構わずに歩き続け、ベンチを見つけてそこに座った。

「ほら。」

 後から来たセイちゃんにペットボトルのお茶を差し出されて、思わず貰ってしまった。でもその後すぐに疑問が生じる。お金、お金はどうしたんだろう?

「セイちゃん、お金、どうしたの?」

 僕の問いには答えてもらえなかった。

「この前は悪かった。」

 隣に腰を下ろしたセイちゃんが謝ってきた。あの、あの嶺さんの部屋でのことだろう。少しだけ鼓動が速くなる。別に嫌だったわけじゃない。ただ混乱していただけで、頭の整理が必要な気がして……。

『嫌だったわけじゃない?』

 今自分が考えたことに驚いて声が出せなかった。

「俺は、元の世界に戻れ言われても帰らない。この世界、涉がいるこの世界で生きていきたい。例え嫌われたとしてもだ。」

「……。」

 両手で持ったお茶のラベルを見つめる。何と返したらいいのか分からなかった。セイちゃんに帰って欲しいとは思ってない。でもこのまま留まるのは、果たして良いことなの?

「この金は、こちらの世界の嶺誠一郎のもの。もう少しだけ使わせてもらう。こちらで働くようになったら貯めてまとめて返すよ。」

「捜索が打ち切りになったって。」

「ああ、俺も知った。でも、涉はまだ信じているんだろ?」

 ラベルを見ながら頷く。信じているというか、いなくなったことを信じていないというか……。でも、一昨日のセイちゃんのある言葉に気づき、どうしても聞いてみたくなった。


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