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君は誰? そして僕は君の何?

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「……ああ、ごめん。寝てろよ、ほら。」

 男の手が僕の肩を押さえつけ、またベッドに寝かされた。濡れたタオルがまた額にかけられる。

「これ、要らない。」

 タオルが煩わしい。自分でタオルを取って、そのままベッドヘッドに置いた。男は何も言わずに僕を見ていた。

「君は誰なの? どうして嶺さんを名乗るの? なぜ僕の過去を知っているの?」

 黙ってこちらを見つめる視線に耐えきれなくなり、僕から話しかけた。深夜なのに全く眠気は来ず、全神経が起きて張り詰めているような、そんな気がした。

「俺もまだ夢の中にいるようで信じられないんだ。聞いてくれるか?」

 男の静かな声が室内に響いた。男は僕の顔を見ながらもどこか遠くを見つめているようなそんな表情で話し出した。

 会社の新年度がもうすぐ始まるという3月頃、男は仕事が終わり、家に帰ってから手を洗おうと洗面所に行った。そこで信じられないものを見た。僕だ。思わず手を伸ばすと、鏡の中に引き込まれるようにして違う世界に行ってしまった。

「違う世界?」

 小説でよくある設定? え、この嶺誠一郎を名乗る男はどこかおかしいのだろうか? そんな事が現実にあるなんて信じられない。

「そうなんだろうな……。そこにいるのは俺だけだった。小さな星が散りばめられただけの狭い空間で、ただ1人。そこには何もなく、時間も流れていないようだった。たぶんな。今は……2022年で間違いないか?」

「2022年の7月14日。」

 日付が変わって今日は木曜日。あと数時間で出社。僕は今日も普通に会社に行くのだろうか? そんな事が頭によぎった。

「そうか。……俺は4か月近く彷徨っていたんだな。」

「4か月?」

「ああ、立ったり座ったり。歩いても同じ景色ばかり。そしてたまに見えてくる窓を眺めて過ごしていた。」

「窓?」

 4か月? 小さな星が散りばめられただけの空間で? 睡眠は? 食事は? ますます信じられないような気持ちで男を見るが、何故だか嘘を言っているようには感じなかった。

 僕も何度か窓に映るこの男を見ていたからかもしれない。それに窓に映ったこの人が実際に現れたから? ……もしかしたら、嶺さんであってほしいと僕もどこかで思っているのかもしれない。

「窓としか言いようがない。たまに現れるぼんやりとした空間。その先の涉をよく眺めていた。」

「僕を?」

「俺は涉が好きだった。同じ会社に内定を貰ったと聞いた時には、ものすごく喜んだ。住む場所を決めるのを手伝おうと申し出たほど。」

「だった……?」

 言葉の端に引っ掛かりを感じる。「だった」とは何だろう? 僕はこのマンションを決めるのに1人で不動産巡りをした。予めネットで目星をつけてから。でも、この男の言う通りだったと仮定して、その「涉」はどうしたんだろう?

 でも、こちらに視線をよこした男は、少し寂しそうに微笑んだ。


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