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僕の趣味は女の子、君の趣味も女の子

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「は? 付き合ってないよ?」

 金井が1本吸えというかのように煙草の箱を差し出してきたが、首を振って断った。吸えないし、たとえ吸えたとしてもヤニがべっとりとついたようなこの分煙機の上に飲み物を置きたくない。

「最近、毎日一緒に通勤しているだろ?」

 金井がたたみかける。それは本当だった。あの研修からしばらくして、会社の近くの駅で電車を降りると必ず齋藤さんと会うようになった。「おはよう。」と挨拶をして、そして仕事のことや前日の夜に見たテレビなんかを話しながら会社まで歩く。

「偶然だよ。」

「ほらな? 渡良瀬は全然わかっちゃいないんだって。」

 僕を招き入れてから、黙っていた渡辺がニヤニヤ笑いながら金井に声をかけた。

「何が?」

 ちょっとだけ面白くない。偶然朝の同じ時間帯の電車に乗っていて、一緒に歩いてくる同期どうし。どこが付き合っているって?

「渡良瀬は齋藤さんのこと、どう思ってんだよ。」

 僕の質問には答えてもらえなかった。その代わり逆に金井から質問を受けた。

『僕が齋藤さんを……?』

 何とも思わない。いや、確かに可愛いとは思うよ? 前にふっくらと垂らした艶やかな前髪がゆらゆら揺れて、そんなにツヤツヤにするにはどうしたらいいの? なんて質問した事もあるし。

「可愛いと思う。」

 でも何て言うのか、可愛くて守ってあげたい妹って感じ? 背が小さいというのもあるかもしれないけど、高校生の妹が、無理をして社会人をやっているような気がしてしょうがない。僕に妹はいないけど。

「で? 付き合うの?」
「……。」

 渡辺のにやけ面が気に入らない。どうしてそんなに僕と齋藤さんをくっつけたがるんだ?

「お前がいかないんだったら、俺がもらうぜ?」

 なんて言おうか考えているうちに、金谷の言葉でハッと目を上げた。

「俺、齋藤さん狙いなんだよね。でも渡辺が脈がないとか何とか言ってるからさ。どうよ? 俺が告ってもいい?」

「金谷は……齋藤さんが好きなの?」

 金谷の噂はいろいろ聞いている。大学の時から短期間に次々と彼女を変えているっていう話だ。高級そうなスーツ。ピカピカに磨き上げられた靴。そしてツーブロックにカットされたおしゃれな髪型。情報管理部の彼が身だしなみに気を遣っているのは、女の子にモテるためだとか。

 親戚は皆お金持ちで、父親である営業部の金谷部長ももう時期専務に昇格するのではないかと聞いた。その庇護のもとで、大きな顔をしていると誰かが皮肉っていたことを思い出す。

「もちろんだ。同期の中で一番可愛い。渡良瀬がその気がないんだったら、俺がもらうぜ?」

「うん……。ならいいんじゃないかな。」

 なんて言ったらいいのか分からない。この答えでは合ってないような気もするけど、僕はおざなりな言い方しかできなかった。

 


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