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僕の趣味は女の子、君の趣味も女の子

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「部長、兼子食品上がりました。確認をお願いします。」

「おう、ファイルに保存しておいて。」

「はい。」

 午後5時半。今日の業務はこれで終了。間違いをおかして大幅な修正がなければ定時で帰ることができる。コーヒーでも買ってこようかな? 僕が勤めるこの5階のフロア、廊下の一番奥の片隅には自販機が2台並べて置いてある。

「どこか行く?」

 机の引き出しから財布を取り出してポケットに入れていると、パソコンのモニターに集中していたはずの伊東さんから声がかかった。目線を上げてこちらを見ている。

「自販機でコーヒーを買ってこようと思って。」

 ここから給湯室まではちょっと遠い。それにいつ近くを通っても人気がなく、電気もついてなくて、まだ1度しか利用したことがなかった。いつも電気ポットで湯が沸いているのも知っているし、インスタントのコーヒーや紅茶、緑茶が常備してあるのは知っているけれど、1人で行くにはちょっとだけ勇気が必要だった。

「あ、いいな。俺のも買ってきて。」
「私のも。」

 伊東さんと鈴木さんから声がかかる。

「いいですよ。いつもの無糖ですか? 鈴木さんは?」

 伊東さんが飲んでいる缶コーヒーは、いつも同じメーカーの無糖のものだ。伊東さんがまた画面に視線を戻して頷いた。グレーの生地に黒の小さなベイズリーが散りばめられたネクタイ、ベイズリー柄って大人な雰囲気だと思う。僕はまだ買ったことがなった。

「おい、みんなの分買ってこい。俺は甘いコーヒー。」

 柿崎部長が椅子の後ろに掛けてあったヨレヨレのスーツの内ポケットから、財布を取り出して金を渡してきた。

「やった! 部長の奢り。じゃあ私はペットボトルのオレンジティーで。」

 途端に明る声を上げた鈴木さんに苦笑い。柿崎部長から千円札を一枚受け取って、買い物に行くことにした。

 缶コーヒー3本にペットボトル1本。片手で持てるものじゃない。両手に包み込むようにして廊下を歩いていると、喫煙室から話し声が聞こえた。さっきここを通った時には誰もいなかったはず。

「おい、渡良瀬。」

 通り過ぎようとしたところでドアが開き、中から聞き慣れた声がした。

「渡辺……と金井?」

 ドアから除いた手招きされて行ってみると、そこには壁にもたれかかるようにして煙草を吹かす金井と渡辺がいた。

「ちょうど良かった。今、渡良瀬のことを話していたんだ。」

「話?」

 渡辺が左側によけたところで中に入る。奥には金井がひっきりなしに煙草の煙を吐き出していた。

「どうした? 何かあった?」

 僕は煙草は吸わない。吸いたいと思ったこともない。でも大学の時の友だちに1人ヘビースモーカーがいて、結構、煙には慣れていた。

「なあ、お前、総務の齋藤さんと付き合ってる?」

 ふうっと煙を吐き出した金井が、何を言い出したのか分からなかった。

 

 
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