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王高寺 愼
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『愼様、お迎えの車が到着いたしました。』
ちょうど愼が洗面所から出てきて、俺の頭にキスをしたところで咲の声が天井から響いてきた。愼は俺が使っていたムースで髪を固めてオールバックにし、何だかいつもと違う雰囲気だ。髪型が変わっていても、俺の愼はカッコいい。
「ああ、あと5分で出ると伝えて? 優樹様の方は大丈夫なんだろうな? また小林さんが来るのか?」
『はい。今日は午前9時50分にいらっしゃいます。』
米田さんと岡村だと思っていた奴が起訴された。でも米田さんは20日間の勾留が解かれて釈放され、警察署から出てきたという。その他、親父のライバル会社に家宅捜査が入り、沢山の逮捕者が出たと聞いたが、詳しくは知らない。
とりあえずは米田さんをはじめとして俺の誘拐に携わった奴らを警戒し、駅までの小林さんの護衛は続いていた。親父が大学まで車で送迎させると言い出したが、それは断った。今までとは違う。何か自分に自信が出てきたような気がする。自分でなんとかしなくちゃという気分になっているんだ。
「では優樹様、行ってきます。お見送りのキスを。」
愼の言葉に立ち上がり、スーツ姿の愼に心を込めてキスを送る。愼が両手で俺の頬を包み込み、じっと見つめてきた。
「なんて顔してるの。俺、行きたくなくなるじゃん。」
愼はたまに「俺」という呼称を使う。特に夜には……顔がだんだん熱くなっていくのが分かった。
「そんな可愛い顔、大学では見せないで? ああ、やっぱり優樹様の様子を受信できる眼鏡を作ってもらおう。うん、そうしよう。」
「まだ給料を貰ってないんだから、これからだろ?」
愼の胸に抱え込まれて心臓の音を聞きながら呟く。すると愼が俺の肩に手を置いて顔を覗き込んできた。
「知ってる? 正孝様は私の父にもなったんですよ? 息子が親に少しぐらい甘えても大丈夫でしょう。それに。」
愼が耳元に口をつけて囁いてきた。
「昨日、電話で俺たちのことを伝えておきました。」
「えっ? いつの間に?」
俺の声を聞いて、愼が俺の額に自分のものをくっつけてきた。
「我慢ならなかったんです。優樹様をお見合いをさせる気でいたんですよ? まだ20歳にもなってない貴方を。それでつい……。優樹様を私にくださいと。子どもは諦めてくれと。」
愼の言葉にカッと全身が熱くなっていった。
「だからね? 今日は殴られに行ってくるんです。応援しててね?」
「う、うん……。」
他になんて言える? 愼のキスを受け止めながら、今日は親父と愼がどんなやり取りをするのかと訝った。
「じゃあ、行ってきます。」
瞼にキスを落とした愼が、真新しい革製の手提げ鞄を持ち上げて歩き出した。リビングを後にする愼を慌てて追いかける。
「待って! 待って。」
言いたい。今、言いたいんだ。玄関で愼に追いついて、幅の広い背中に抱きついた。
「親父が反対しても俺は諦めないから。説得しよう? 2人で。」
俺の言葉を聞いた愼が鞄を置いて振り返り、両腕で俺を包み込んできた。
「元からそのつもりです。俺が何のために人間になったと思うの。」
そこから長い口づけを交わした。俺と愼。信じられないことが起こったことは確かだけれど、だからこそ信じられる愼の気持ち。それからずっとキスをかわして、苛立った運転手がインターフォンを鳴らすまでそのままでいた。
ー 完 ー
ちょうど愼が洗面所から出てきて、俺の頭にキスをしたところで咲の声が天井から響いてきた。愼は俺が使っていたムースで髪を固めてオールバックにし、何だかいつもと違う雰囲気だ。髪型が変わっていても、俺の愼はカッコいい。
「ああ、あと5分で出ると伝えて? 優樹様の方は大丈夫なんだろうな? また小林さんが来るのか?」
『はい。今日は午前9時50分にいらっしゃいます。』
米田さんと岡村だと思っていた奴が起訴された。でも米田さんは20日間の勾留が解かれて釈放され、警察署から出てきたという。その他、親父のライバル会社に家宅捜査が入り、沢山の逮捕者が出たと聞いたが、詳しくは知らない。
とりあえずは米田さんをはじめとして俺の誘拐に携わった奴らを警戒し、駅までの小林さんの護衛は続いていた。親父が大学まで車で送迎させると言い出したが、それは断った。今までとは違う。何か自分に自信が出てきたような気がする。自分でなんとかしなくちゃという気分になっているんだ。
「では優樹様、行ってきます。お見送りのキスを。」
愼の言葉に立ち上がり、スーツ姿の愼に心を込めてキスを送る。愼が両手で俺の頬を包み込み、じっと見つめてきた。
「なんて顔してるの。俺、行きたくなくなるじゃん。」
愼はたまに「俺」という呼称を使う。特に夜には……顔がだんだん熱くなっていくのが分かった。
「そんな可愛い顔、大学では見せないで? ああ、やっぱり優樹様の様子を受信できる眼鏡を作ってもらおう。うん、そうしよう。」
「まだ給料を貰ってないんだから、これからだろ?」
愼の胸に抱え込まれて心臓の音を聞きながら呟く。すると愼が俺の肩に手を置いて顔を覗き込んできた。
「知ってる? 正孝様は私の父にもなったんですよ? 息子が親に少しぐらい甘えても大丈夫でしょう。それに。」
愼が耳元に口をつけて囁いてきた。
「昨日、電話で俺たちのことを伝えておきました。」
「えっ? いつの間に?」
俺の声を聞いて、愼が俺の額に自分のものをくっつけてきた。
「我慢ならなかったんです。優樹様をお見合いをさせる気でいたんですよ? まだ20歳にもなってない貴方を。それでつい……。優樹様を私にくださいと。子どもは諦めてくれと。」
愼の言葉にカッと全身が熱くなっていった。
「だからね? 今日は殴られに行ってくるんです。応援しててね?」
「う、うん……。」
他になんて言える? 愼のキスを受け止めながら、今日は親父と愼がどんなやり取りをするのかと訝った。
「じゃあ、行ってきます。」
瞼にキスを落とした愼が、真新しい革製の手提げ鞄を持ち上げて歩き出した。リビングを後にする愼を慌てて追いかける。
「待って! 待って。」
言いたい。今、言いたいんだ。玄関で愼に追いついて、幅の広い背中に抱きついた。
「親父が反対しても俺は諦めないから。説得しよう? 2人で。」
俺の言葉を聞いた愼が鞄を置いて振り返り、両腕で俺を包み込んできた。
「元からそのつもりです。俺が何のために人間になったと思うの。」
そこから長い口づけを交わした。俺と愼。信じられないことが起こったことは確かだけれど、だからこそ信じられる愼の気持ち。それからずっとキスをかわして、苛立った運転手がインターフォンを鳴らすまでそのままでいた。
ー 完 ー
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