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目を覚まして?
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技術部というぐらいなのだから、愼の体に詳しいのは間違いない。30代半ばぐらいに見えるその男は、持ってきたスーツケースを開けてコードを伸ばすと、迷いなく愼の腰の部分を開けて繋いだ。
俺とお揃いの赤のチェックのシャツがめくり上げられて、ジーンズが腰の半分まで降ろされる。線をあちこちに付け替えながら、一緒に入っていたパソコンで何やらずっと調べているようだった。
『愼……。』
床に座り込んだ田崎さんの少し後ろに立ち、祈るような気持ちで見守る。バッテリー入れを外すとその奥には、複雑そうな機械の線がたくさん見えた。
アンドロイド、つまりは愼が機械であることを目の当たりにする。けれども違う。俺にとっての愼は機械でもアンドロイドでもなくて……。
『じゃあ何なんだろう?』
何だか涙が出てきそうになって、慌ててその場を後にした。田崎さんにコーヒーを淹れることを口実に、キッチンへと回りこんだ。
「少しお話させていただいても良いですか?」
俺のパソコンやスマホも渡して調べてもらった。そして廊下の隅にあったこの部屋のシステムの機械も確認していたようだった。考えられるところを全て調べていたようだったが、かなりの時間がかかっていて田崎さんが話があると言ってきたのは3時間以上経った後だった。
キッチンの冷蔵庫から、500mlのペットボトルのお茶を取り出してきて田崎さんに手渡す。愼が寝ている側のソファへで、向かい合って座った。テーブルには俺のパソコンとスマホが置いてある。
「このアンドロイドはどこも壊れているところはありません。」
「えっ?」
いただきます、と一言呟いてペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ田崎さんが話し出した。「じゃあどうして?」と続けようとした俺の声に被せるようにして田崎さんが言葉を続けた。
「ただ、あらゆるネットワークに繋ごうとしたのですが、それをはねつけてくるので。そこがどうも解らない。」
「というと?」
幅が俺の2倍はありそうな男を目の前にして、詰め寄らずにはいられなかった。壊れてない? はねつける? どういうこと?
「ここの管理システムは正常ですよ? ちょっと失礼。」
田崎さんが先ほどまで調べていた俺のスマホを取り上げて、何やら操作をしていた。その時、天井から声が聞こえた。
『初めまして。私は王高寺優樹様をお守りするために開発されました。』
背中に冷たいものでも当てられたかのようにゾクッとした。初めてこの部屋に入った時の女の声だ。愼の声は違う。すぐさま俺の好みの男の声に変えたんだ。
「愼! 声を戻せ!」
『要望にお答えできません。もう一度おっしゃってください。』
「愼! 愼だろ?」
『「じん」とは私のことでございますか?』
「愼じゃないのかっ?」
田崎さんが少しだけ驚いた顔をしている。けれどもそんなことに構ってはいられなかった。なり振り構わず、記憶を無くした管理AIに向かって話し続けるしか方法が見つからなかった。
俺とお揃いの赤のチェックのシャツがめくり上げられて、ジーンズが腰の半分まで降ろされる。線をあちこちに付け替えながら、一緒に入っていたパソコンで何やらずっと調べているようだった。
『愼……。』
床に座り込んだ田崎さんの少し後ろに立ち、祈るような気持ちで見守る。バッテリー入れを外すとその奥には、複雑そうな機械の線がたくさん見えた。
アンドロイド、つまりは愼が機械であることを目の当たりにする。けれども違う。俺にとっての愼は機械でもアンドロイドでもなくて……。
『じゃあ何なんだろう?』
何だか涙が出てきそうになって、慌ててその場を後にした。田崎さんにコーヒーを淹れることを口実に、キッチンへと回りこんだ。
「少しお話させていただいても良いですか?」
俺のパソコンやスマホも渡して調べてもらった。そして廊下の隅にあったこの部屋のシステムの機械も確認していたようだった。考えられるところを全て調べていたようだったが、かなりの時間がかかっていて田崎さんが話があると言ってきたのは3時間以上経った後だった。
キッチンの冷蔵庫から、500mlのペットボトルのお茶を取り出してきて田崎さんに手渡す。愼が寝ている側のソファへで、向かい合って座った。テーブルには俺のパソコンとスマホが置いてある。
「このアンドロイドはどこも壊れているところはありません。」
「えっ?」
いただきます、と一言呟いてペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ田崎さんが話し出した。「じゃあどうして?」と続けようとした俺の声に被せるようにして田崎さんが言葉を続けた。
「ただ、あらゆるネットワークに繋ごうとしたのですが、それをはねつけてくるので。そこがどうも解らない。」
「というと?」
幅が俺の2倍はありそうな男を目の前にして、詰め寄らずにはいられなかった。壊れてない? はねつける? どういうこと?
「ここの管理システムは正常ですよ? ちょっと失礼。」
田崎さんが先ほどまで調べていた俺のスマホを取り上げて、何やら操作をしていた。その時、天井から声が聞こえた。
『初めまして。私は王高寺優樹様をお守りするために開発されました。』
背中に冷たいものでも当てられたかのようにゾクッとした。初めてこの部屋に入った時の女の声だ。愼の声は違う。すぐさま俺の好みの男の声に変えたんだ。
「愼! 声を戻せ!」
『要望にお答えできません。もう一度おっしゃってください。』
「愼! 愼だろ?」
『「じん」とは私のことでございますか?』
「愼じゃないのかっ?」
田崎さんが少しだけ驚いた顔をしている。けれどもそんなことに構ってはいられなかった。なり振り構わず、記憶を無くした管理AIに向かって話し続けるしか方法が見つからなかった。
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