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アンドロイド

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 ヒタヒタとリビングを歩く足音がする。……また裸足か。水の出る音。たぶんポットを準備しているんだ。お湯を沸かして今日は何を作ってくれるんだろう。

 シュガートーストは上手に作れるようになった。パンに買っておいたクリームを塗って焼くだけだし。焼くのは今までもやってきたしな。今日は卵はきちんと割れるだろうか……。

『気を許せる相手と一緒にいることができるっていいな。』

 目が覚めた。俺は目を開けて、暫く愼が動いている物音を聞いていた。アンドロイドとして誕生した愼と暮らし始めて5日目。
 
 最初はどうしても慣れない姿で戸惑ったけど、愼はやはり愼だった。今まで会話してきた愼、パソコンの画面越しに話していた愼がそこにいる。そう気づいた時、自分の中でとても大きな安心感が生まれていた。

 ガタン! グワングワングワン……。

「何!?」

 何をやらかしたんだ? 俺は布団を捲り上げて飛び起きると、ベッドを降りて走ってリビングへ続くドアを開けた。愼が、今まさに足元に落としたフライパンを拾い上げたところだった。

「ああ優樹様、申し訳ありません。落としてしまいました。」

 愼はハイネックのグレーのシャツの上に黒いカーディガンを羽織っていた。下はベージュ色のチノパン。なかなか似合う。この時期に合った服装をするために毎日何かしら購入していた。今日はジーンズが届くはず。

「何をしようとしてたの?」
「フライパンで目玉焼きを作ろうとしていました。まだ、力加減が上手くいかず。」

 初めて料理を一緒に作った時には両手鍋が片手鍋に変化していた。おまけにに無くなった取っ手の跡に丸い穴が2つもあいて。たまに壁やドアにも凹みができるが、いつの間にか直っているから不思議だ。

「俺もやるよ。愼も今日は食べよ? 何を作る?」

 俺もまだ着替えてないし裸足だけど、まぁいいだろう。床は暖房が入れてあって少し温かい。空調も快適だ。パジャマのままの姿で、朝食を一緒に作ることにした。

「では、私はコーヒースティックで美味しいコーヒーを淹れましょう。優樹様はトーストを作っていただけますか?」
「オーケー。目玉焼きを作って、ジャムを塗ったトーストに乗せて食べたい。」

 愼は食事ができる。容量に限りがあるし消化するわけではないから、体に入れたものは定期的に廃棄している。でも、人間により近い生活をするために備えられた機能が俺は嬉しかった。

 愼からフライパンを受け取って、食パンをオーブントースターで焼き始めた愼と、何のジャムを塗るか話しながら目玉焼きを焼き始める。2人で作る朝食は、とても楽しかった。

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