もこ

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「で? 愼なんだったんだよ。」

 コンシェルジュから受け取った食材を仕分けしながら、愼に問いかける。今日はチョコレート菓子がいっぱい入ってる。暫くは甘いものに困らないな。冷蔵庫に全てしまい込んだ。

『いくつかの衛星を経由して、優樹様のスマホの位置情報を追っているのですが……。』
「何?」

 愼の躊躇いがちな声が気になった。いつもは自信に満ち溢れた口調なのに。今日届けてもらったレトルトの親子丼の箱を調理台に乗せ、肉と魚だけ冷蔵庫にしまって寝室へと歩いて行った。

「愼? 何なんだよ。お前がその調子だと不安が倍増するんだけど。」

 パソコンを立ち上げて画面を表示する。そのままリビングのテーブルへと運び込んだ。愼はまた着替えてる。ハイネックの黒いシャツ。黒も似合うな。

『数日前から同じIDを持つスマートフォンが近くにあるのが気になりまして。』

 パソコンから愼の声が聞こえた。小首を傾げながら話す姿は本当に人間みたいだ。愼は眼鏡をかけたら似合うかな? いや、このままのほうがいいかも。

「それで?」
『相手を特定しようにも、まだセキュリティを破ることが出来ずにいます。』

 どういうこと? 誰かに俺が狙われているってことなのか? ソファに座って愼をじっと見つめながら、考え込んでしまった。

 夕べもここのセキュリティが危ないという話だった。普段着に着替えてすぐに逃げられるように準備を整えて寝たぐらいだ。えっ? 俺が……狙われてんの?

「なあ、親父って敵いるのかな?」

 ふと思いついたことを口にする。IT関係で俺が狙われるっていったら、親父が敵を作っていると思うしかないじゃないか。愼の顔が微かに顰められた。

『その可能性は否定できません。優樹様、正孝様に連絡を取って指示を仰いでも宜しいでしょうか?』
「えっ? 連携してなかったの?」
『はい。私独自の考えで動いておりました。』

 愼のこの言葉には驚いた。えっ? 俺が主人だろって言ったから? 親父との連絡は断っていたのか?

「うん、連絡してみて。俺は難しいことがさっぱり分からないから、愼が動いてくれたほうが安心する。」

『ではそのように。少しお時間がかかるかもしれません。会社ではなく、正孝様個人に連絡を取りたいと思います。』

 人の眉が少しだけ緩んだ。俺も安心だ。愼になら、何もかも任せられる。

「ありがと。じゃあ風呂に入って夕飯でも食べるかな。」
『お風呂が先ですか? お腹が空いているのでは。』

「バーカ。こんな時にゆっくり浸かってられるかよ。湯船はいいや。シャワー浴びてくる。浴室暖房つけといて。」
『承知いたしました。』

 ここの部屋にいる限りは愼が守ってくれる。けれども誰かに狙われてるかもしれないって思ったら、のんびり風呂に浸かる気にはなれないだろ? 俺はまだ残っていた食材を片付けてしまおうと立ち上がり、キッチンへと向かった。


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