75 / 87
遭遇9 何で絡んでくるの? 〜侑〜
2
しおりを挟む
「はい。」
「侑? 大丈夫か?」
思わず通話ボタンを押してしまったけど、どうしたらいいの? 大丈夫って、大丈夫ではないんだけど、なんて言ったらいい?
「お前、大学を休んだだろ? また熱でも出たんじゃないかと思って食材買ってきた。開けて。」
どうして休んだことを? と思ったけど、すぐに考えついた。純が大学へ仕事で行った時に夏帆ちゃんに会ったに違いない。今日は夏帆ちゃんと同じ授業を取ってた。
「熱はないから。大丈夫。」
帰って、と出かかった言葉は辛うじて呑み込んだ。心配してきてくれた人に、それでは失礼すぎる。
「ありがとうね。」
そう言って通話を切る。その場を離れた瞬間にまたインターフォンが鳴った。純だとは分かったけれど、どうしたら良いか分からなかった。あれほど泣いたのに、また涙が溢れてくる。
ピンポーン
控えめだけど、帰る気がないような純の気持ちが伝わってきてまた通話に戻る。
「ごめん。帰ってくれる?」
自分でも情けないような声しか出せなかった。泣いていると気づかれないようにするのが精一杯。でも何度もインターフォンを鳴らされちゃあ、近所迷惑になっちゃう。
「開けて? 話がしたい。」
「何でしつこいの? どうして私に絡んでくるの? 私は、私は……。」
話をしたくないから! そう言って通話を切りたかったのにできなかった。話をしたくないわけじゃない。純の声を聞きたい。でもとても、とても怖いの……。
「泣いてないで開けて? インターフォン越しには言いたくない。顔を見て話したいんだ。」
どうしたらいい? 開けるの? 開けてどうするの? 話ってなに? 聞きたいけど……聞きたくない。純には会いたくない。本当? 会いたいんだろ? 会いたいけど、会いたくない。
「なぁ、侑。す……。」
純が話し始めた途端に、通話がプツリと途絶えた。時間切れ。真っ黒になった画面を見つめながら立ち尽くす。
『純……。どうしてここに来たの?』
ピンポーン
「侑? ドアを開けて?」
自分が話す前に純の声が聞こえる。その声を聞いた途端にリビングのドアを開けて、フラフラと玄関に向かってる自分がいた。何も考えなかった。どうせ自分では何も決断できない。無意識に涙を手で拭ってから、玄関の鍵を開ける。
「侑!」
自分が開けるのを待たずに飛び込んできた純の目が、自分の視線とぶつかる。とても、とても真剣な顔をしていた。次の瞬間目の前が真っ暗になって、何も見えなくなった。
「好きだ。」
真っ暗闇の中で、頭上から純の声が聞こえた。何を言ってるの? また溢れ出してきた涙がふんわりした布地に染み込んでいった。
「侑? 大丈夫か?」
思わず通話ボタンを押してしまったけど、どうしたらいいの? 大丈夫って、大丈夫ではないんだけど、なんて言ったらいい?
「お前、大学を休んだだろ? また熱でも出たんじゃないかと思って食材買ってきた。開けて。」
どうして休んだことを? と思ったけど、すぐに考えついた。純が大学へ仕事で行った時に夏帆ちゃんに会ったに違いない。今日は夏帆ちゃんと同じ授業を取ってた。
「熱はないから。大丈夫。」
帰って、と出かかった言葉は辛うじて呑み込んだ。心配してきてくれた人に、それでは失礼すぎる。
「ありがとうね。」
そう言って通話を切る。その場を離れた瞬間にまたインターフォンが鳴った。純だとは分かったけれど、どうしたら良いか分からなかった。あれほど泣いたのに、また涙が溢れてくる。
ピンポーン
控えめだけど、帰る気がないような純の気持ちが伝わってきてまた通話に戻る。
「ごめん。帰ってくれる?」
自分でも情けないような声しか出せなかった。泣いていると気づかれないようにするのが精一杯。でも何度もインターフォンを鳴らされちゃあ、近所迷惑になっちゃう。
「開けて? 話がしたい。」
「何でしつこいの? どうして私に絡んでくるの? 私は、私は……。」
話をしたくないから! そう言って通話を切りたかったのにできなかった。話をしたくないわけじゃない。純の声を聞きたい。でもとても、とても怖いの……。
「泣いてないで開けて? インターフォン越しには言いたくない。顔を見て話したいんだ。」
どうしたらいい? 開けるの? 開けてどうするの? 話ってなに? 聞きたいけど……聞きたくない。純には会いたくない。本当? 会いたいんだろ? 会いたいけど、会いたくない。
「なぁ、侑。す……。」
純が話し始めた途端に、通話がプツリと途絶えた。時間切れ。真っ黒になった画面を見つめながら立ち尽くす。
『純……。どうしてここに来たの?』
ピンポーン
「侑? ドアを開けて?」
自分が話す前に純の声が聞こえる。その声を聞いた途端にリビングのドアを開けて、フラフラと玄関に向かってる自分がいた。何も考えなかった。どうせ自分では何も決断できない。無意識に涙を手で拭ってから、玄関の鍵を開ける。
「侑!」
自分が開けるのを待たずに飛び込んできた純の目が、自分の視線とぶつかる。とても、とても真剣な顔をしていた。次の瞬間目の前が真っ暗になって、何も見えなくなった。
「好きだ。」
真っ暗闇の中で、頭上から純の声が聞こえた。何を言ってるの? また溢れ出してきた涙がふんわりした布地に染み込んでいった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる