自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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遭遇9 何で絡んでくるの? 〜侑〜

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 純に牽制してもらったから大丈夫。そう思ったけれど、今日は大学を休んだ。結構真面目に授業には出てきたし、ノートは誰かに見せてもらえるから大丈夫。

『何もする気になれない。』

 昨日はとにかく泣いて泣いて、泣きまくった。体が冷たくなって気がつくと、ソファで寝ていた。ヤバイと思って、夜中に起き出して紅茶を飲み、パンは齧ったけどそれ以上の食欲は湧かなかった。お風呂にも入らずにベッドへ行った。

『朝ごはん食べようかな……。』

 もう11時。朝起きてからシャワーを浴びてお茶は飲んだけど、何も食べてない。お腹が空いた。けれども動くのが面倒くさい。

 2時間近くお気に入りの音楽をかけながらこうしている。隣の部屋から持ってきたクッションを抱えて、タブレットの画面をただ見ているだけ。

『純……。キス拒んじゃった。』

 頭にチラつくのは純の顔。最後に戸惑った表情で口元に手をやってたあの顔。それが何度も蘇るたびに、後悔が押し寄せてくる。

『後悔か……純は気軽にキスしてきたかもしれないのに。』

 純とのキスは嫌じゃなかった。嫌じゃなかったけど、あの時に出てきた言葉が本心。

『あなた、男専門でしょ? 自分でそう言ってたよね? 何? キスは別なの? 男でも女でも誰とでもキスするわけ?』

 でも、違う言い方があったような気がしてならない。自分は可愛くない。それは分かってるんだ。もっと可愛く言葉を選んで話せるようになれば、こんな気持ちにならないのかな……。

 聴いていた音楽が止まる。たくさん寝たはずなのに眠い。お腹は空いたけれど、寝ちゃおうか。タブレットの電源を落とす。お気に入りのクッションを抱っこして寝ることにして、隣の部屋へと戻って行った。



 ピンポーン

 夢を見ていた。一度だけ乗ったことのある純の自家用車。あの車に乗って、有名な遊園地に行ってアトラクションに参加していた。狭いところでも、低いトンネルでも純の車は自由自在に変化して進むことができる。

『この車凄いね?』
『当たり前だろ? 改造したんだ。』

 トンネルの中で、大きな恐竜が突然出てきたのを上手く交わしながら純が話してた。真っ直ぐに前を向いて、ハンドルを回してカーブをやり過ごす。この真っ直ぐに前を見ながら真剣に運転する様子。嫌いじゃない。

『何だかSF映画みたい。』
『はははっ! そうだよな?』

 こちらを見てきた顔はとても優しかった。この顔も……嫌いじゃないよ。

 ピンポーン

 目を開ける。……夢。夢を見ていた。純と一緒だった。そう思ったとたんに涙が溢れてきた。……馬鹿みたい。何か食べよ。スマホで時間を確認すると、もう15時を過ぎていた。

 ピンポーン

『!』

 誰かきた? インターフォンが鳴ったことに気づいてベッドから起き上がる。体が重い。誰だろう? 新聞の勧誘? 隣の部屋のインターフォンの前で立ち止まる。

 ついこの前に来た、やたらと馴れ馴れしい新聞勧誘の男。様子を見て、同じ奴だったら居留守を使おうと、インターフォンのモニターボタンを押す。

『!!』

 そこに映っていたのは、ついさっきまで夢に見ていた男。髭を生やしたその人だった。

 
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