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遭遇7 〜侑〜
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えっ、妊娠? 俄には信じられずに言葉が出てこなかった。杏の彼氏……確か隣の大学の4年生。住んでいるマンションが杏と近くて、県内に就職が決まったとも聞いてる。
「慶太くん?」
一応今の彼氏の名前を確認。その人以外にあり得ないとは思うけど、杏の彼氏には会ったことがない。頷く杏にちょっとだけホッとした。
妊娠7週目。先週の水曜日に判明して、彼氏とずっと話をしていたらしい。今、彼氏は両親に報告、そして説得中。
「結婚?」
頷く杏を見て複雑な気分になる。年が明けたら入籍するらしい。そんな、そんなに安易に結婚って決まっちゃうわけ?
「慶太が金曜日の晩から実家に行って、まだ帰ってこないの。本当は昨日帰ってくるはずだった。説得できるって。でもメールで一言『もう少し時間がかかる。』って……。」
杏の目から涙が溢れてきたことにとても慌てた。えっ? なんて言ったらいいの? 自分はそんな性的な経験なんてないし。杏は経験はあるだろうことは分かっていたけど、そんなに赤裸々に語り合ったこともないし。
「泣かないで。」
ありきたりの言葉しか出てこなかった。鞄のポケットからティッシュを取り出す。杏は受け取って、顔を拭い始めた。
「これ、返す?」
「バカ、いらないから。」
真っ赤な目をしながらも、にっこり笑って使用済みのティッシュを返そうとする杏に吹き出す。そういえば、今日はメークが薄い。
つわりがきて妊娠に気づいたという杏。甘ったるいものが飲めなくなったらしい。ホットレモネードもそんなに減ってない。それから1時間ずっと、大学はどうするのかとか、杏の両親にはいつ話すのかとかこれからのことを話し続けた。
ブーブーブーブー
バイブ音が聞こえてきて、杏と2人でそれぞれの携帯を確認する。連絡がきたのは杏だった。
「うそ……!」
口元に手を持ってきて目を見開いた表情から、朗報であることが分かった。自分の胸の中でも何か重いものがスッと降りていった。杏がどうなるのか心配だったみたい。
「大丈夫だったの?」
杏の笑顔が移る。嬉しい。杏は涙を溜めながら頷き、にっこり笑ってこちらを見た。
「今、ご両親と一緒にこっちに向かってるって。侑、ゴメン。行ってもいい?」
「もちろん! 慌てて転んだりしないでよ?」
「うん! ありがとう!」
弾むように立ち上がり簡単に挨拶をした杏が、レモネードのカップを返却口に置いてフードコートを出ていった。
『良かった……!』
杏の話の方が大きすぎて、自分のことは言い出せなかった。でも、まあいいかも。杏が幸せになるのなら。大学に在学中に結婚をして子どもを産む杏。これからが色々と大変そうだけど幸せそうな杏の顔を見て、結婚も悪くないのかも、なんて少しだけ考えた。
『さ、自分も少しお店を覗いてから帰ろ。』
自分も空になったコップを持って席を立つ。返却口に返して、どこへ行こうか考える。杏がしていたフワッフワのマフラー。自分もマフラーを1枚ぐらい持っていてもいいかな? 3階は男物の売り場が多いから、2階に降りて……。
長い通路をエスカレーターへ向かって歩いていく。ここからはエスカレーターまでの距離が長すぎる。そんなことを思いながら歩いていくと、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。
「慶太くん?」
一応今の彼氏の名前を確認。その人以外にあり得ないとは思うけど、杏の彼氏には会ったことがない。頷く杏にちょっとだけホッとした。
妊娠7週目。先週の水曜日に判明して、彼氏とずっと話をしていたらしい。今、彼氏は両親に報告、そして説得中。
「結婚?」
頷く杏を見て複雑な気分になる。年が明けたら入籍するらしい。そんな、そんなに安易に結婚って決まっちゃうわけ?
「慶太が金曜日の晩から実家に行って、まだ帰ってこないの。本当は昨日帰ってくるはずだった。説得できるって。でもメールで一言『もう少し時間がかかる。』って……。」
杏の目から涙が溢れてきたことにとても慌てた。えっ? なんて言ったらいいの? 自分はそんな性的な経験なんてないし。杏は経験はあるだろうことは分かっていたけど、そんなに赤裸々に語り合ったこともないし。
「泣かないで。」
ありきたりの言葉しか出てこなかった。鞄のポケットからティッシュを取り出す。杏は受け取って、顔を拭い始めた。
「これ、返す?」
「バカ、いらないから。」
真っ赤な目をしながらも、にっこり笑って使用済みのティッシュを返そうとする杏に吹き出す。そういえば、今日はメークが薄い。
つわりがきて妊娠に気づいたという杏。甘ったるいものが飲めなくなったらしい。ホットレモネードもそんなに減ってない。それから1時間ずっと、大学はどうするのかとか、杏の両親にはいつ話すのかとかこれからのことを話し続けた。
ブーブーブーブー
バイブ音が聞こえてきて、杏と2人でそれぞれの携帯を確認する。連絡がきたのは杏だった。
「うそ……!」
口元に手を持ってきて目を見開いた表情から、朗報であることが分かった。自分の胸の中でも何か重いものがスッと降りていった。杏がどうなるのか心配だったみたい。
「大丈夫だったの?」
杏の笑顔が移る。嬉しい。杏は涙を溜めながら頷き、にっこり笑ってこちらを見た。
「今、ご両親と一緒にこっちに向かってるって。侑、ゴメン。行ってもいい?」
「もちろん! 慌てて転んだりしないでよ?」
「うん! ありがとう!」
弾むように立ち上がり簡単に挨拶をした杏が、レモネードのカップを返却口に置いてフードコートを出ていった。
『良かった……!』
杏の話の方が大きすぎて、自分のことは言い出せなかった。でも、まあいいかも。杏が幸せになるのなら。大学に在学中に結婚をして子どもを産む杏。これからが色々と大変そうだけど幸せそうな杏の顔を見て、結婚も悪くないのかも、なんて少しだけ考えた。
『さ、自分も少しお店を覗いてから帰ろ。』
自分も空になったコップを持って席を立つ。返却口に返して、どこへ行こうか考える。杏がしていたフワッフワのマフラー。自分もマフラーを1枚ぐらい持っていてもいいかな? 3階は男物の売り場が多いから、2階に降りて……。
長い通路をエスカレーターへ向かって歩いていく。ここからはエスカレーターまでの距離が長すぎる。そんなことを思いながら歩いていくと、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。
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