自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
上 下
52 / 87
遭遇7 〜侑〜

3

しおりを挟む
 えっ、妊娠? 俄には信じられずに言葉が出てこなかった。杏の彼氏……確か隣の大学の4年生。住んでいるマンションが杏と近くて、県内に就職が決まったとも聞いてる。

「慶太くん?」

 一応今の彼氏の名前を確認。その人以外にあり得ないとは思うけど、杏の彼氏には会ったことがない。頷く杏にちょっとだけホッとした。

 妊娠7週目。先週の水曜日に判明して、彼氏とずっと話をしていたらしい。今、彼氏は両親に報告、そして説得中。

「結婚?」
 頷く杏を見て複雑な気分になる。年が明けたら入籍するらしい。そんな、そんなに安易に結婚って決まっちゃうわけ?

「慶太が金曜日の晩から実家に行って、まだ帰ってこないの。本当は昨日帰ってくるはずだった。説得できるって。でもメールで一言『もう少し時間がかかる。』って……。」

 杏の目から涙が溢れてきたことにとても慌てた。えっ? なんて言ったらいいの? 自分はそんな性的な経験なんてないし。杏は経験はあるだろうことは分かっていたけど、そんなに赤裸々に語り合ったこともないし。

「泣かないで。」
 ありきたりの言葉しか出てこなかった。鞄のポケットからティッシュを取り出す。杏は受け取って、顔を拭い始めた。

「これ、返す?」
「バカ、いらないから。」
 真っ赤な目をしながらも、にっこり笑って使用済みのティッシュを返そうとする杏に吹き出す。そういえば、今日はメークが薄い。

 つわりがきて妊娠に気づいたという杏。甘ったるいものが飲めなくなったらしい。ホットレモネードもそんなに減ってない。それから1時間ずっと、大学はどうするのかとか、杏の両親にはいつ話すのかとかこれからのことを話し続けた。

 ブーブーブーブー

 バイブ音が聞こえてきて、杏と2人でそれぞれの携帯を確認する。連絡がきたのは杏だった。

「うそ……!」

 口元に手を持ってきて目を見開いた表情から、朗報であることが分かった。自分の胸の中でも何か重いものがスッと降りていった。杏がどうなるのか心配だったみたい。

「大丈夫だったの?」

 杏の笑顔が移る。嬉しい。杏は涙を溜めながら頷き、にっこり笑ってこちらを見た。

「今、ご両親と一緒にこっちに向かってるって。侑、ゴメン。行ってもいい?」
「もちろん! 慌てて転んだりしないでよ?」
「うん! ありがとう!」

 弾むように立ち上がり簡単に挨拶をした杏が、レモネードのカップを返却口に置いてフードコートを出ていった。

『良かった……!』

 杏の話の方が大きすぎて、自分のことは言い出せなかった。でも、まあいいかも。杏が幸せになるのなら。大学に在学中に結婚をして子どもを産む杏。これからが色々と大変そうだけど幸せそうな杏の顔を見て、結婚も悪くないのかも、なんて少しだけ考えた。



『さ、自分も少しお店を覗いてから帰ろ。』

 自分も空になったコップを持って席を立つ。返却口に返して、どこへ行こうか考える。杏がしていたフワッフワのマフラー。自分もマフラーを1枚ぐらい持っていてもいいかな? 3階は男物の売り場が多いから、2階に降りて……。

 長い通路をエスカレーターへ向かって歩いていく。ここからはエスカレーターまでの距離が長すぎる。そんなことを思いながら歩いていくと、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

男友達の家で寝ていたら、初めてをぐちゃぐちゃに奪われました。

抹茶
恋愛
現代設定 ノーマルな処女喪失SEX

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...