34 / 87
遭遇5 〜侑〜
4
しおりを挟む
開け放されたカーテンからの光が顔を直撃して、眩しすぎて目を覚ました。ここは……自分家の寝室。あれ? 夢を見てた?
『ん?』
首を壁側に回すと、顔の傍に濡れたタオルがあった。
『あれ? 昨日は……。』
昨日のことはあまり良く思い出せない。杏とお昼を一緒に食べて……夕方からの講義に出て。
「あっ! っつ……。」
慌てて起き上がった拍子に頭がひどく痛んだ。自分の服を確かめる。Vネックの茶色のTシャツ。買ったばかりでいつ着ようか迷っていたもの。ブラックジーンズ。昨日履いていたものだ。靴下は履いてない。
『純に送ってもらったんだよね?』
和樹に襲われた。それを助けてくれたのは純。支えて送ってもらった……ということは、上着を着替えさせてくれたのは、純?
周りを見ると、ベッドの脇の壁際に自分が着ていたダウンジャケットと、黒のニット、靴下、そしてインナーとして愛用していたヒートテックが畳まれていた。その脇には鞄。
『何だか恥ずかし過ぎるんだけど。』
一晩寝て、昨日襲われた時のショックがすっかり抜けているのに気づいた。今度和樹が来たら、殴ってやるぐらいの気持ちがある。けど、この状況。自分で着替えた覚えはないし、きっと純が着替えさせてくれた。
『今、何時だろ。』
少しだけ頭痛も治ってきた。枕元にあるいつもの充電器にはスマホは繋がれてなかった。その代わりにほとんど空になったコップが、ストローが入った状態で置かれていた。思わず手に取って口に含む。
ズズッ
『あ、これだ。夕べ飲んだやつ。』
少しだけ甘さがある水。夕べは少しだけ温かかった。スポーツドリンクより薄いけど、美味しい。ベッドから降りて立ち上がる。うん、大丈夫そう。
『スマホは、ジャケットの中かな?』
1番下に畳まれたダウンを引っ張り上げてスマホを取り出す。時間は10時を過ぎていた。
『純がいる、なんて事はないよね?』
家の中はしんと静まり返って物音ひとつ聞こえない。でももし純がいるならば、お礼をしなくては。たぶん、たくさん迷惑かけた。
空になったコップとスマホを持って、恐る恐る寝室のドアを開けた。そこには誰もおらず、いつもの自分の部屋があるだけだった。
『あれ?』
キッチンのカウンターの上に、ミルクパンとコップがラップをかけられた状態で置かれている。近づいて見ると、メモが置いてあった。
『水分補給と栄養補給。飲め、そして食え。』
汚い字。これはきっと純だ。メモを取り上げると、下からもう一枚のメモ。何かの手帳を破り取ったものらしい。
『鍵は郵便受けに入れておく。医者に行け。』
「ふふふっ。」
何だか急速に体が軽くなった気がする。まだ少し頭は痛いけど、大丈夫そう。ミルクパンのラップを外すとそこには、たまご粥が入っていた。みじん切りにしたネギが散らしてある。
「お腹が空いた。」
もうすっかり冷めているけど、このままでいいや。キッチンへ回り込んでスプーンを取り出し、鍋を掴んでソファへと持っていく。
行儀が悪いけど、背に腹はかえられない。ソファに座って鍋から直接スプーンで掬って口に入れる。ほんのりと出汁と塩が効いた冷たいお粥は、とても優しい味がした。
『ん?』
首を壁側に回すと、顔の傍に濡れたタオルがあった。
『あれ? 昨日は……。』
昨日のことはあまり良く思い出せない。杏とお昼を一緒に食べて……夕方からの講義に出て。
「あっ! っつ……。」
慌てて起き上がった拍子に頭がひどく痛んだ。自分の服を確かめる。Vネックの茶色のTシャツ。買ったばかりでいつ着ようか迷っていたもの。ブラックジーンズ。昨日履いていたものだ。靴下は履いてない。
『純に送ってもらったんだよね?』
和樹に襲われた。それを助けてくれたのは純。支えて送ってもらった……ということは、上着を着替えさせてくれたのは、純?
周りを見ると、ベッドの脇の壁際に自分が着ていたダウンジャケットと、黒のニット、靴下、そしてインナーとして愛用していたヒートテックが畳まれていた。その脇には鞄。
『何だか恥ずかし過ぎるんだけど。』
一晩寝て、昨日襲われた時のショックがすっかり抜けているのに気づいた。今度和樹が来たら、殴ってやるぐらいの気持ちがある。けど、この状況。自分で着替えた覚えはないし、きっと純が着替えさせてくれた。
『今、何時だろ。』
少しだけ頭痛も治ってきた。枕元にあるいつもの充電器にはスマホは繋がれてなかった。その代わりにほとんど空になったコップが、ストローが入った状態で置かれていた。思わず手に取って口に含む。
ズズッ
『あ、これだ。夕べ飲んだやつ。』
少しだけ甘さがある水。夕べは少しだけ温かかった。スポーツドリンクより薄いけど、美味しい。ベッドから降りて立ち上がる。うん、大丈夫そう。
『スマホは、ジャケットの中かな?』
1番下に畳まれたダウンを引っ張り上げてスマホを取り出す。時間は10時を過ぎていた。
『純がいる、なんて事はないよね?』
家の中はしんと静まり返って物音ひとつ聞こえない。でももし純がいるならば、お礼をしなくては。たぶん、たくさん迷惑かけた。
空になったコップとスマホを持って、恐る恐る寝室のドアを開けた。そこには誰もおらず、いつもの自分の部屋があるだけだった。
『あれ?』
キッチンのカウンターの上に、ミルクパンとコップがラップをかけられた状態で置かれている。近づいて見ると、メモが置いてあった。
『水分補給と栄養補給。飲め、そして食え。』
汚い字。これはきっと純だ。メモを取り上げると、下からもう一枚のメモ。何かの手帳を破り取ったものらしい。
『鍵は郵便受けに入れておく。医者に行け。』
「ふふふっ。」
何だか急速に体が軽くなった気がする。まだ少し頭は痛いけど、大丈夫そう。ミルクパンのラップを外すとそこには、たまご粥が入っていた。みじん切りにしたネギが散らしてある。
「お腹が空いた。」
もうすっかり冷めているけど、このままでいいや。キッチンへ回り込んでスプーンを取り出し、鍋を掴んでソファへと持っていく。
行儀が悪いけど、背に腹はかえられない。ソファに座って鍋から直接スプーンで掬って口に入れる。ほんのりと出汁と塩が効いた冷たいお粥は、とても優しい味がした。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王妃はわたくしですよ
朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。
隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。
「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」
『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる