自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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遭遇2 〜侑〜

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「ゆ、侑ちゃん、こ、この後どうする?」

 今まで、昨日テレビでやってた映画の話をしていたはずなのに、急に和樹に話を振られてドキッとした。全国チェーンのファミレスで、2人でハンバーグセットを食べていた。ハンバーグを刺したままのフォークを持つ手が止まる。

「この後って?」

 フォークに刺さったハンバーグを持ったまま和樹の顔を見ると、真っ赤になっていた。耳まで真っ赤にしてじっとこちらを見ている。えっ? 私に何を言って欲しいわけ?

「あ、あ、あのさ。ぼ、僕ドーテーで……。」

 穴があったら入りたい様子の和樹が俯いてしまった。いや、それ違くない? えっ? 自分も経験なんてないけど。リードするのは自分なの?

 ここで自分も顔を赤らめて俯いて「和樹くんの部屋に行きたい。」なんて呟いてみせれば可愛い彼女なんだろうけど、生憎そんな自分じゃない。

「する?」

 あーーあ、こっちから誘っちゃった。……ため息が出そうになって慌てて飲み込み、フォークを置いてコーラに口をつけた。和樹は自分の声を聞いた途端に、パッと顔を上げて笑顔になった。

「早く食べていこ。」
 俄然元気になってモリモリと食べ始めた和樹をグラス越しに見る。食べることに夢中で、こちらには無関心。何故か今になって、顔が熱くなってきた。

『するってなんだよ。する? って……。自分、経験豊富そうじゃん。』

 別に処女を捨てる相手は結婚相手がいい、なんて思ってない。結婚なんてするつもりもないし。でも和樹、自分が経験あると思っているわけ? そんな風に見えてるの?

 和樹が食べることに集中している間、空になったコーラを水のコップに替えて飲み続けた。何か話してよ。ちょっとこっちを見てもいいんじゃない? 今、自分、超恥ずかしいんだけど。

「あれ? 侑ちゃん食べないの?」
「だから『侑』だって。『ちゃん』つけるな。」

 思わず飛び出した言葉に自分でもビックリ。コップを置いて、大きくため息をついてしまった。

「ごめん和樹、今日は帰る。ここ自分の奢り。」

 財布の中から、千円札を3枚テーブルに置く。ちょっと痛い出費だけど、仕方がない。野口英世の髭が、何故かさっきすれ違った「ジュン」と呼ばれていたアイツの髭と重なって見えた。アイツの髭はこんなに立派じゃなかったけど。

 何か言ってた和樹の言葉も耳に入れようせずに、鞄を提げて席を立ち出口に向かった。

「侑!」
 出口の取っ手に手をかけた時、和樹の声が遠くから聞こえてきた。けれども、そのままドアを開けて外に出た。



「和樹とも終わりかな。」
 晴れた空にくっきりと浮かぶ月を見ながら呟いた。今日は満月だっけ……。ちょっとだけ下の方が欠けてるかな?

 経験するのが嫌なんじゃない。自分だって人並みには性欲がある方だとは思ってる。手を繋いで、キスをして……もうそろそろかな? 和樹とならいいかな? なんて考えていた部分もある。

 でも違うんだ。和樹じゃなかった。和樹が童貞だろうがヤリチンだろうがそんな事どうだっていい。問題はそこじゃない。そこじゃないんだよ。

 けれど、何が自分をこうやって1人で家に向かわせているのかが、分からない。月と睨めっこをして纏まらない考えを何度も反芻しながら、ゆっくりとアパートへ向かって歩き続けた。


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