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バドミントン(おまけのSS)

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「早く、行こ。」
 家から30mほど離れた駐車場に車を止めて、降りるとすぐに手を掴まれた。と、トモ……真っ昼間なんですけど! 恥ずかしいと思う間もなく家に着いて扉が開かれた。

「トモっ!」
 ようやく声が出せたのに、すぐに壁際に追いやられて口を塞がれた。と、トモ……激しいんだけど。でも、僕もいつの間にか夢中になって、トモの背中に手を回して舌を追いかけていた。

「嬉しい。妬いてくれてた?」
 ようやく唇が離れたかと思うと、頭を抱え込まれた。トモの香り。いつもの香りに少しだけ汗の匂い。今日は暑かったから。

「ん。だって女の人はみんなトモのこと見るんだ。僕、僕の……。」

 ……トモなのに。そう言おうとして気がついた。僕はあのギャラリーで、トモに視線を送る人全員にヤキモチを焼いていたんだ。トモは一度も他の人に視線を送らなかった。試合を見ているか、僕の方に視線をよこすかのどちらかだけだった。途端に恥ずかしくなる。体を離して靴を脱ごうとした。

「どこに行くの?」
「うっ? と、とりあえず上がる……。」
「上がって? それから?」

 僕が靴を脱いで廊下に上がると、トモも靴を脱ぎ廊下で向かい合った。後退りしながら言葉を続ける。

「へ、部屋で着替えを。」
「うん、そして?」
「そしてって……。」

 階段を後ろ向きに昇りながら言葉に詰まる。トモの長くなった前髪の隙間から、鋭い視線が注がれていて、目が離せなかった。な、何て言ったらいい? ゆっくり手すりを掴みながら一段ずつ昇るけど、それと同じようにトモも上がってくるからどうしたら良いか分からなくなっていた。

「俺は逃がさないよ?」
 ゾクっと全身に痺れが広がる。心臓が激しく鳴り響いてきた。あれから2回、トモと身体を繋げた。初体験の時には何が何だかわからなかったけれど、それからの官能的な体験で、何かを期待してしまってる僕もいるんだ。でも……。

「まだ、昼間だし。」
「だから?」
「明日は学校もあるし。」
「うん、そして?」
「…………。」

 もはや、何を言おうとしていたのかすら分からない。エッチは嫌だって? いや。……後からにしようって? いや、そうじゃない。そうではないんだ。でも何を言ったらいいか分からずに混乱して、体の向きを変えて残りの階段を駆け上がった。

 自分の部屋に入って後ろ手に鍵を閉める。扉を背もたれにしてずるずると座り込んだ。とりあえず落ち着きたい。このドキドキを抑えてから、トモにキチンと話をするんだ。北側に面した部屋の中は、遮光カーテンを開けてなかったから、とても薄暗かった。

『!』

 いきなりドアが開いて態勢が崩れる。慌てて起き上がると、そのまま入ってきた男に、床に押さえつけられた。トモの視線が鋭く僕の瞳を貫く。

「昼間だろうと何だろうと、カズが欲しい。カズは? 俺だけ? こんなに欲しいと思っているのは。」

 そうじゃない。そうじゃなくて……。

「ぼ、僕も本当はトモが、トモが……欲しい。」

 最後は声が小さくなってしまった。でもトモにはちゃんと聞こえたようで、熱くなった顔中に優しいキスが降ってきた。

「優しくする。」

 耳元で囁いたトモの手がワイシャツのボタンにかけられる。この長くて大きな指が、僕の身体を撫で回す。そして僕のいい所を探り当てるんだ。

「トモ……好き。僕だけの……。」

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