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オオカミは1人だけ

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「お、お、お金は?」
 家を買うなんて何千万円と必要になるはずだ。僕の実家でもまだまだローンに追われているはず。

「あちらの世界を出ることが決まったから、退職金が出る。それは祖父母に全部渡してもらうように手配してきた。そしてこちらの世界でも……準備金が出るんだ。この家を買う頭金ぐらいにはなる。」

 秘密の国家公務員だから優遇されてる、とトモが笑顔になって囁いた。

「北村さんと佐藤さん。じゃあ、どうして2人はもう引っ越したの?」

 何だか変な気分だ。なぜ3月末までいるはずだった2人が引っ越したわけ? 僕の問いは聞こえているはずなのに、トモはなかなか答えてはくれなかった。

「…………その気になってもらった。」
「その気に?」

 何だろう? 歯切れの悪い返答を問い正したい気持ちと、聞かない方がいいのではないかという気持ちが混ざり合い、トモの顔を見上げた。それに気づいたトモが僕の額にキスをしてくる。

「12年後の世界では違法な手段。サブリミナルを使ったんだ。」
「サブリミナル?」

 サブリミナルメッセージという言葉をどこかで聞いたことがあるぞ? 何だったっけ?

「今はまだまだ平和な世界。でもあと4、5年もすると、動画配信やテレビ、ラジオを使って悪いことを企む奴らが多くなる。それで違法になったんだ。取り締まりが厳しい。」

 トモの言葉に納得ができた。12年後に違法であるはずの手段を使って何かをしたということだ。

「でも、ここでは違法じゃないんでしょ?」
「ああ、でも少しだけ後ろめたい。」

 天井を眺めながら呟くトモを見て、何だか嬉しくなってきた。ここ1ヶ月で知ったトモも、そして小池もそういう奴だった。いつも真っ直ぐに物事を捉えて自分で何とかする。

「そんなふうに悩む小池が見られるなんて、何だか得した気分。」
 ちょっとだけ伸び上がって頬にキスをする。するとあっという間にトモが身体に乗りかかり、唇を奪われた。

「んふっ、ふっ、ふっ……。」
 いきなりの事で驚いて息が荒くなる。でもトモの唇は離れなかった。舌が入り込み、僕のものを優しく捕まえる。

「う…………ん。んふっ。はぁ、はぁ、はぁっ。」
 昨夜のことを思い出し、少しだけ分身が反応してしまった。

「エッチな気分になってる。」
「ま、待って! そんなふうにされたら!」
 いつの間にかトモの手が僕のパジャマの上から分身を撫でていた。再び口を塞がれて反論できなくなる。トモの卑猥な右手がパジャマとボクサーの中に入り込んで直接扱き始めた。

「濡れてきてる。」
 そりゃそうだよ……。他人にこんな事されるのは昨日が初めてだったんだから。

「ちょっとだけ味わわせて。」
 トモはそういうと、布団を上げて僕の分身へと顔を寄せていった。
 

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