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教育実習四週目
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「どうした?」
トモの香りが僕の全身を包み込む。夕べ一晩一緒にいたからか、何故かその香りで安心できるような気がした。
「な、何も。」
「何もなくはないだろ? 泣いてた。」
その言葉でまた涙が溢れそうになり、慌ててトモの胸に顔を押し付けた。
「が、学校で。」
「うん。」
「僕が関わっている子どもの両親と妹が。」
「…………うん。」
「交通……事故で……亡くなったって。」
そこまで話した時に、トモが背中と僕の頭に回した腕の力がギュッと強くなった。僕もトモの背中に腕を回す。トモの力にとても安心できるような気がして言葉を紡いだ。
「何もしてあげられない。」
「……その子はカズにとって特別なの?」
トモの言葉に首を振る。小池が特別なわけではない。教育実習で出会った子の中の1人。でも、先週末に告白されたとで、確実に僕の心の中に入り込んできている。
「金曜日に……。」
「うん。」
「小池に好きだと言われて。」
「うん。」
「10年経ったら考える、なんて酷いことを言った。」
「それで?」
トモの呟きはとても小さなものだったけれど、体から直接響いてくる言葉が温かすぎて、全部話してしまいたいような気がした。
「10年経ったって、小池の相手になるはずがない。今はそう分かるのに適当なことを言っちゃって。」
「うん。」
「今週はもう会えないから、弁明のしようもなくて。」
「うん。」
「きっと今頃ショックで辛いはずなのに、側に行って慰めることもできない。」
そうなんだ。僕なんか役に立たないことは分かっている。でも側に行って慰めることぐらいしてあげたい。小池にはどう取られるかは分からないけれど、僕が、僕自身がそうしたくてたまらないんだ。ただの自己満足でしかないもしれない。だけど……。
トモに話をしながら、気持ちが整理できたような気がした。佐々木先生が葬儀に参列する時に、手紙を持っていってもらおう。佐々木先生が渡せなかったらそれでもいい。でも、何かせずにはいられない。このまま教育実習が終わって、小池にも他の子どもたちにも会えなくなって、何事もなかったようにはもう過ごすことはできない。
そこまで考えた時に、トモの顔が僕の肩に押し付けられた。
「大丈夫だ。絶対にその子は乗り越えられる。辛いことも切なかった気持ちも全部過去のものとなる。俺が保証する。だから、もう泣くな。」
トモの言葉は僕が小池に言いたかったことと同じ。でもまだ14、5歳の子どもに言っても絶対に分からないだろう。そう考えれば、この状況は良かったのかもしれない。
知らないうちに涙が止まっていた。トモに聞いてもらったことで心の整理ができた。僕は自分から体を離してトモを見上げた。
「ありがとうございます、話を聞いてくれて。もう大丈夫です。」
ぐちゃぐちゃな顔で見上げると、トモが苦笑いを浮かべた。
「鼻水垂れてるぞ? ティシュはどこ?」
大慌てで箱ティシュを探して、顔を拭う。本当にトモは意地悪だ。けれどその遠慮のない言葉が、今は全然嫌ではなかった。
トモの香りが僕の全身を包み込む。夕べ一晩一緒にいたからか、何故かその香りで安心できるような気がした。
「な、何も。」
「何もなくはないだろ? 泣いてた。」
その言葉でまた涙が溢れそうになり、慌ててトモの胸に顔を押し付けた。
「が、学校で。」
「うん。」
「僕が関わっている子どもの両親と妹が。」
「…………うん。」
「交通……事故で……亡くなったって。」
そこまで話した時に、トモが背中と僕の頭に回した腕の力がギュッと強くなった。僕もトモの背中に腕を回す。トモの力にとても安心できるような気がして言葉を紡いだ。
「何もしてあげられない。」
「……その子はカズにとって特別なの?」
トモの言葉に首を振る。小池が特別なわけではない。教育実習で出会った子の中の1人。でも、先週末に告白されたとで、確実に僕の心の中に入り込んできている。
「金曜日に……。」
「うん。」
「小池に好きだと言われて。」
「うん。」
「10年経ったら考える、なんて酷いことを言った。」
「それで?」
トモの呟きはとても小さなものだったけれど、体から直接響いてくる言葉が温かすぎて、全部話してしまいたいような気がした。
「10年経ったって、小池の相手になるはずがない。今はそう分かるのに適当なことを言っちゃって。」
「うん。」
「今週はもう会えないから、弁明のしようもなくて。」
「うん。」
「きっと今頃ショックで辛いはずなのに、側に行って慰めることもできない。」
そうなんだ。僕なんか役に立たないことは分かっている。でも側に行って慰めることぐらいしてあげたい。小池にはどう取られるかは分からないけれど、僕が、僕自身がそうしたくてたまらないんだ。ただの自己満足でしかないもしれない。だけど……。
トモに話をしながら、気持ちが整理できたような気がした。佐々木先生が葬儀に参列する時に、手紙を持っていってもらおう。佐々木先生が渡せなかったらそれでもいい。でも、何かせずにはいられない。このまま教育実習が終わって、小池にも他の子どもたちにも会えなくなって、何事もなかったようにはもう過ごすことはできない。
そこまで考えた時に、トモの顔が僕の肩に押し付けられた。
「大丈夫だ。絶対にその子は乗り越えられる。辛いことも切なかった気持ちも全部過去のものとなる。俺が保証する。だから、もう泣くな。」
トモの言葉は僕が小池に言いたかったことと同じ。でもまだ14、5歳の子どもに言っても絶対に分からないだろう。そう考えれば、この状況は良かったのかもしれない。
知らないうちに涙が止まっていた。トモに聞いてもらったことで心の整理ができた。僕は自分から体を離してトモを見上げた。
「ありがとうございます、話を聞いてくれて。もう大丈夫です。」
ぐちゃぐちゃな顔で見上げると、トモが苦笑いを浮かべた。
「鼻水垂れてるぞ? ティシュはどこ?」
大慌てで箱ティシュを探して、顔を拭う。本当にトモは意地悪だ。けれどその遠慮のない言葉が、今は全然嫌ではなかった。
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