上 下
55 / 104
教育実習三週目

20

しおりを挟む
 気がつくと、リョウの顔が間近に迫っていた。
「や、やだっ!」
 反射的に顔を背ける。一昨日の小池、昨日のトモ……。偶然とはいえキスしてしまった。でも誰でもいいわけじゃない。嫌なものは嫌なんだ。

「なぜ? 減るもんじゃあるまいし。」
「へ、へ、減ります!」
 断言してから考える。何が減る? いや何が減るのかは分からないけど、何かが僕の中で減っていくような気がする。ここでリョウとキスするのは違うだろ。……何が違うんだ? 誰とキスするのかってそんなに重要?

「……ね、トモとキスした?」
「!!」
 囁くように言われた言葉が僕の脳髄に稲妻のように響いた。驚きすぎて何も隠すことが出来なかった。僕ってそんなにおかしかった? なぜバレてるんだ? たぶん真っ赤なままの僕の顔を、リョウが真剣な目でジッと見つめていた。
 
「やめろっ!」
 いきなりキッチンのドアが開いて、トモが飛び出してきた。トモの顔を見て力が抜ける。トモは大きな手で、リョウをベリっと引き剥がして、僕から遠ざけてくれた。膝から崩れ落ちてヘナヘナと座り込む。

「なになに? 何かやってる?」
 トントンと軽い足音を響かせながら、ユウが階段を降りてきた。今まで寝てたのか、茶髪の髪に手櫛を通しながら。心臓がバクバクしているのを鎮めようとしながらユウを眺めた。降りてくる姿も何故か優雅に見えて……ユウらしい。

「いや、カズがあまりにも初心な反応だからさ、つい調子に乗っちゃった。」
 ユウがトモの隣に立ち、長身2人に迫られてリョウが舌をペロリと出す。真剣だった表情が消え、戯けた振りをしているのが丸わかりだった。

「はいはい。じゃあ、ゆっくりと話を聞こうか。」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「暴れるな。危ないだろ?」
 ユウがリョウを担ぎ上げた。それこそ俵でも持ち上げるように、軽々と肩に担ぎ上げて。降りようとするリョウの膝のあたりをしっかりと押さえ込み、また2人で階段を昇っていった。

「……大丈夫か?」
 唖然と2人を見送っていると、トモが僕の頭に手を乗せた。途端に体がピクンと反応する。昨日の事を思い出して、羞恥で顔が熱くなるのが分かった。

 2日前から、僕の周りが動き始めたように思う。いや、厳密に言えば3週間前。この3人がいつの間にかシェアハウスに乗り込んできた時からだ。教育実習も後1週間。明日はまた小池と会う。どんな顔をして会えばいい? あと5日間で、小池に何か言ってやることができるだろうか? 何を? 僕は何を言いたいわけ?

「ほら、立って。」
 トモから差し出された手を取り立ち上がる。混乱する頭を抱えながら取ったトモの手はとても温かかった。

「だ、大丈夫。」
 だと思う……。何が大丈夫なのか自分でも分からないけど、とにかくあと5日間でなんとかしなければ。小池の心を傷つけたままではダメだ。

 トモの顔を見上げながら、そんな事をふと考えていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

婚約破棄と言われても・・・

相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」 と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。 しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・ よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。 *********************************************** 誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。

処理中です...