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教育実習一週目

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 リビングの灯りがついている。誰か帰っている証拠だ。3人ともいるのだろうか? 門をくぐり、玄関にたどり着くまで少しだけ緊張が増していった。扉に手をかける。鍵がかかっていない。

「ただいま……帰りました。」
 声が小さくなるのは勘弁してほしい。昨日の今日だ。緊張するなというのが無理だって。暗い玄関の灯りを点けると、2足の靴がきちんと揃えて並んでいた。

『2人、帰ってる?』
 隣に靴を脱いで揃える。昨日よりもまた綺麗になったような玄関と、そこから続く廊下を眺めた。キッチンから微かに物音がする。挨拶すべき?

「お帰り。手はこっちで洗え。今りょうが風呂に入ってる。」
 いきなりキッチンへ続くドアが開いて、トモが顔を出した。ワイシャツ姿にスラックス。その上から黒のエプロン。イケメンってエプロンつけててもカッコいいな。一旦鞄を階段に置き、促されるままにキッチンに入って行った。

「ただいま帰りました。」
 ワイシャツの袖を捲りあげて水道で手を洗う。キッチンの作業台では、大きなボウルに入った具とそれを包む餃子の皮が山盛りになっていた。

「餃子、ですか?」
「ああ。好きだろ?」
「ええ。」
 昨日好きな食べ物の話なんてしたっけ? 疑問に思いながらもニンニクや胡麻油の香りが漂ってきてお腹がぐうっと鳴った。

「はははっ。着替えてきて手伝えよ。その分早く食べられる。」
「いただいてもいいんですか?」
「もちろん。」
 昨日はあまり表情がなかったトモの笑顔に嬉しくなり、僕の頬も緩んでいた。

「じゃ、着替えてきて手伝います!」
 キッチンに新しく備え付けられたタオルで手を拭き、足取りも軽く2階の自分の部屋へ駆けて行った。

『エプロンは持ってないけどな。別に汚れても……これでいいか。』

 昨日脱いだものが部屋の隅に固まっている。洗濯をいつすればいいのかタイミングが掴めずに放置していたものだ。今までは帰ってからすぐにシャワーを浴びて洗濯するのが普通だった。いつものジーンズに洗濯済みのTシャツを着る。2,3日ならどうとでもなるか。

「お待たせしました。手伝います。」
 ほんの少しの間だったはずなのに、大皿が1枚餡が包まれた餃子で埋まっていた。

「餃子、包んだことはあるか?」
「いえ……教えてください。」
 手伝うっていっても足手まとい? ちょっぴり不安になりながら大皿を見た。どれも本格的。売っている餃子と寸分も違わない。

「初めてだったら簡単に。」
 餃子の皮に餡を乗せて、周りを湿らせて半分に閉じる。そしてヒダを3つ……うん、簡単。トモが作る形とは違うけど、これなら僕でもできる。

 トモに教えてもらったやり方で、そしてトモは本格的に、2人でしばらく無言で餃子の皮に餡を包み続けた。


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