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3人のオオカミ

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「さ、まずは夕飯にしようか。」
「えっ?」
 夕飯? ここでの生活はお互いが干渉し合わないのがルールだった。社会人の北村さんと佐藤さんは帰宅時間がバラバラだし、バイトに明け暮れている1つ下の田中くんはここでは滅多に夕食を食べない。

「それとも……風呂?」
「準備してある。初めての今日は薔薇の香り。」
 ユウと名乗った男の後ろから、少しだけ高い、男の声がした。立ち上がった体は僕と同じぐらい。でも痩せてる。近づいてきた男からは、薔薇の香りが漂ってきた。

「一番風呂は貰った。」
「はぁ……。」
 だから? 僕になんと言えと?

 白いTシャツにジーンズ姿の美形の男が、僕の体を上から下まで眺めて俺の耳元で囁いた。
「思ってたより小さいね。」

「んなっ!」
 なんだっていうんだ! 遠慮のないその言葉に僕はカッとなった。今日はとにかく疲れたんだ。挨拶に行って以来、1か月ぶりに赴いた学校。生意気な生徒。忙しそうな先生たち……僕には無関心で、誰を頼ったらいいか分からなくて……。

 鼻の奥がツンと痛んだ。

「ぼ、僕どちらもいいです。新しい同居人の方々ですよね。五十嵐 和《かず》です。よろしくお願いします。食事も風呂も自分で準備できますので、お気になさらずに。では。」

 荷物を抱え直してリビングの扉を開ける。ドタッと音がしたかと思うと、肩を掴まれた。咄嗟に振り向くと、奥に座っていた黒髪の男だった。
「食事は大事だ。……一緒に食べよう。」

「で、でも……。」
 ここの中では1番声が低い。背の高さは、茶髪の人と同じぐらい? 濃紺のTシャツと黒のジーンズという服装が、この人が暗いように見せてたけど、案外取りつきやすい人なのかもしれない。

「そ、トモの料理は美味いよ。ずっと誰かさんに食べさせたくて練習してたんだ。独学にしても、そこらの小料理店にも負けない。五十嵐さん……いや、カズと呼んでも? 部屋で着替えてきなよ。夕飯にしよう。」

 何となくその場の雰囲気に流されて、僕は黙って頷き、鞄をもう一度抱え直して着替えるために自分の部屋に行った。

 階段を登ると3つの部屋がある。ここは普通の一般的な住宅だ。築12年。3年前に家主が仕事で転居を余儀なくされてシェアハウスとして貸し出されることになったという。僕は2年前からここに住んでいた。

 改造されたのは各部屋に鍵が付いた程度。築10年経ったとはいうが、どこも傷んでおらず、ここでの生活は快適だった。1番奥の洋室が僕の部屋。6畳の広さだが、4畳ほどのロフトが付いており結構広い。壁紙には小さな星が散りばめられ、ここが子供部屋だったのだろう事が分かる。北側に面した窓からは、裏を流れる川が見えた。

『はぁ。何だっていうんだ……。』
 裏の川を眺めてため息が漏れた。河川敷には小さなアスレチックが並ぶ。小学生ぐらいの子どもが数人、追いかけっこをしていた。

 今日は初めての経験でいろいろありすぎたのに、新しい同居人だって? そしてみんなで揃って食事?

「おーい、着替えた?」
 下からの声でハッと我に返る。この声は一番風呂を貰ったという、あの女みたいな男の人の声だ。僕はホーっと息を吐き出した。
「今行きます。」
 ロフトの下の扉を開けて、クローゼットの中からジーンズを取り出した。


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