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2:俺からの……キス?

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もう少しで、唇が触れる……美久ちゃんの唇が口紅で真っ赤だ。いつからこんなに濃い化粧をするようになったんだ? 美久ちゃんの流れるような涙が、俺の手を伝って次々に地面に落ちていった。……ふと、我に返る。

「美久ちゃん……やっぱりダメだ。キスは好きな奴とするべきだ。」

俺は、美久ちゃんの顔を離して手も下ろした。ズボンのポケットからスマホを取り出す。隆介の電話番号を探して電話をかけた。

「隆介? 俺、望。今すぐに駅前まで来い。15分……いや10分で来い。いいな。美久ちゃんが泣いてるぞ。」
電話をしながら大通りまで出ると、駅前の交差点近くだった。隆介に口を挟むヒマを与えずに一方的に喋って電話を切る。隆介が10分で来れる距離に住んでるかどうかなんて知ったことじゃない。何だか腹が立っていた。

信号のところで待つこと10分。自転車の急ブレーキの音がした。本当に隆介は10分で来た。顔が真っ赤で、はぁはぁと息を吐いている。

「美久は?」
自転車から降りる隆介を一発殴ってやりたい衝動が襲うが、我慢してまだ暗がりにいる美久ちゃんの方を見た。美久ちゃんは、さっきのところにしゃがみ込んで、顔を覆って泣いていた。

俺の視線に気づいた隆介が、歩道の片隅に自転車を止めると、美久ちゃんの方に走っていった。

『……全く……。』
俺はこれ以上、ここにいる必要がない。バイト先のコンビニに戻って自転車で帰ろう……。2人をそこに残して、またコンビニに向かって歩き出した。

『俺って何やってるんだろ。』
自転車を漕ぎながら、何かに腹が立っていた。奥手な隆介にも。俺にキスをして、なんて言ってきた美久ちゃんにも……。そして「友情のキスだよ」なんて言って、本当にキスをしようとした自分自身にも……。

いつもの道を外れて、少しだけ暗い道に自転車を向ける。頭を冷やしたかった。この道は通ったことはないけど、家の方に向かっているのは間違いない。少しぐらい遠回りでも構わない。……すぐには家に帰りたくなかった。

しばらく行くと、大きな駐車場と小さなビルに挟まれた通りで、カップルが抱き合っていた。今頃、隆介たちも……。暗がりだったが、女の人の真っ白なコートが、ビルの看板の光を受けて輝いていた。……ガッツリキスしてる……。近くを通りたくなくて、すぐ手前の道を右に折れた。

『田崎さん……?』
あれは……あの男の人は田崎さんかもしれない。そしてあの女の人……。ウェーブがかった長い髪……。

すぐに目を逸らして自転車を漕ぐ脚に力を入れる。今度は何故か俺の目から涙が出てきた。慌てて瞬きをし、涙を引っ込める。

『田崎さんはモテるんだ。……分かってたことじゃないか。』

鼻に降りてきた涙を啜り上げながら、もう家に帰ろうと、前を見据えた。もう心をかき乱される必要のない自分の布団に包まって……もう一度、昼間見た夢の中に戻りたい……駿也に会いたい。




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