食っちまうぞ!

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猫じゃなかった!

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 布団の中で身動きする物体を注視する。今までハナやタロウはこの部屋に入ってきたことがない。そして昨日、隣の男と交わした会話。

『もしかしてセキグチ君か?』

 この布団を剥いでも良いのか悪いのか、そこが問題だ。ぐっすりと寝ているのを起こしてしまうのは悪いが、これは俺の布団だ。でも、裸だったら? えっ? 俺、理性保てる? 

 いやいや待て待て。裸だったらお召し上がりください、ということだよな? ということは、頂いてもいいということだろ? 寧ろ俺好みの男が、裸で寝ているということはラッキーなことじゃないのか? ほら据え膳は何ちゃらっても聞いたことがあるし。

「おい、起きてる?」
「…………。」

 思い切って声をかけてみると、案の定返事はなかったが、微かに布団の山が動くのが見えた。絶対に起きている。さっきの鳴き声だってそうだし。

「布団、剥いでもいいか?」
「…………。」

 そろりと男の指が見え、自分の頭をしっかりガードするように布団を体に巻き付けるのが見えた。絶対に起きてる。そして見られたくない、そういうことか? それとも……誘ってる?

「失礼!」
「んぎゃーー!」

 言葉とともに足元の方から布団を引き剥がした。構ってられん。ここは俺の家だ。最後まで顔を隠そうと布団を握りしめていた男の指から、布団が剥がれた。そして俺は……言葉を失った。

『お、お、おんなっ!』

 そこには、ジーンズ姿に白いスエット。何日か前に見たそっくりそのままの服装の女がこちらを睨んでいた。長く茶色のストレートの髪。白い肌。赤い唇……。

「お前、女だったのか!」
「男だと思っていたんですか?」
「分かるわけないだろうがっ!」

 諦めたようにベッドの上に起き上がった女に言葉を投げつける。俺に非があるわけじゃないよな? 俺は一度も隣を覗いたことなんてないし。バイト帰りに横顔を見た時には、短髪だったし。あれ? そうだよな?

「お腹が空いて……。」
 
 目を伏せた力の無いような声の女、いやセキグチさんの言葉に我に返る。そうだ、金がないって言ってたんだ。毎日のように何か食べさせてた。

「お前、金どうしたの?」
「無くした。お母さんから貰ってきた1か月分の生活費全部。封筒ごと。」
「よく入学式とかに行けたよな。」
「自分の財布は無事だったし。でも五千円ぐらいしかなかったから。」

 ハスキーな声が心地いい。高くていかにも女っていう声も悪くはないけど。初めから喋ればよかったんだ。そうすればこんなに、こんなに何だ? えっ? 俺は今何を思い浮かべようとしてた?

「明日から近くのコンビニでバイトする。20日締めで25日にバイト料がもらえるって聞いた。でも、あと二千円ぐらいしか残ってなくて。……お腹が空いたの。ごめんなさい、勝手に入って。いつの間にか寝ちゃってた。」

「いや、いいから。」
 急に素直になってこちらに視線をよこした女に混乱する。近くのコンビニって、俺が働いているとこ? えっ? まさか。嘘だよな?

 それよりも気づいたのは、食事をまともにしてなさそうだってことだ。それは問題ありだろ。

「ちょっと待ってろ。焼きそばでも作ってやるよ。」

 取り敢えずはこれでいい。話は腹を満たしてからだ。俺は腹ペコで家に侵入してきた隣人に、何か食べさせてやろうとキッチンへと向かった。


ー 完 ー



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