無添加ラブ

もこ

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本屋の休憩

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「陽介。」
声の方を見ると、そこには懐かしい生田くんが立っていた。

「い、生田くん……。」
……大人になった……。この3年の間に、なんだか一回り大きくなって、また男らしくなったような気がする。少し伸びた髪の毛……生田くんに似合ってる。

「ここ、一緒にいいだろ?」
生田くんが、僕の返事を待たずに目の前の椅子を引いて、腰を下ろした。

「……今日、仕事は? 就職したんだろ?」
僕から生田くんに話しかけた。うん、普通だ。普通に声が出せる。生田くんはジーンズに白のパーカー。今の時期、ちょっと外を歩くには寒いかもしれない。

「今日は休み。最近、ずっと陽介に会いたくてしょうがなかった。」
注文を取りに来た店員にモカを注文し終えた生田くんが、僕に向き直った。何故か、生田くんは懐かしいものでも見るかのような穏やかな顔をして僕を見ていた。

「そう……。」
でももう3年前の話。過去の話だろ? 僕は忘れた。過去のことを乗り越えて、今の僕がいる。

「陽介……探していたオジサンには会えた?」
僕のクロワッサンが運ばれてきた。生田くんの言葉に、無言で首を振る。生田くんと最後に話したオジサンの話。でも、もうどうでもいい。

「だろうな。オジサンって僕と同じようなアザを持ってたんだろ? これ?」
生田くんが右手の甲の親指の付け根をこちらに向けた。黙って頷く。3年前よりも少しだけ薄くなったような気がするアザが、やはり生田くんの右手に付いていた。

「ホクロ、っても言ってたな。どこのホクロ?」
「? もういいんだ。諦めた。」
たまごサンドクロワッサンを手に取り、一口齧り付く。生田くんが何を言おうとしているのか、よく分からなかった。

「諦めるなよ。ね、どこ?」
「……左目の下の……泣きぼくろのとこ。」
僕の答えに生田くんがニッコリ笑った。

「ソイツ、黒いメガネをかけていただろ? そしてグレーのスーツ。」
えっ? 急に胸のあたりから、全身に痺れが広がった。……何故? 何故生田くんが知ってる……? 僕の目の前にあの時のオジサンのスーツ姿が目に浮かんだ。確かにグレーだった。今まで思い出しもしなかったのに……。

「やっぱり……もう一つ。公園って隣町の緑山公園だよな? あの小さいとこ。」
「……。」
生田くんから目が離せない。僕はゆっくりと頷いた。震え始めた手で持っていたクロワッサンを、皿の上に戻した。

「そして陽介は、『緑山コーポ』に住んでた。あのちょっと古い2階建てのアパート。」
全身が勝手に震え出した。なんで、裕一郎は何故そこまで知ってるの?

「お待たせ。俺がそのオジサンだ。18年……19年ぶりになるのか? 陽介、大きくなったよな。」

夢にまで見たオジサンの手が、思ったほど大きくなかったけど、オジサンの手が今、僕の頭を撫でていた。





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